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International Symposium on Local E-Democracy
International Symposium
on Local E-Democracy
 e-デモクラシー(電子民主主義)と聞いて、ピンと来るひとは、"ネットIQ"が相当高いといえるだろう。「E-Democracy」という言葉は94年にミネソタ州のグループが新語として使ったのが世界で初めてといわれているが、そのミネソタ州のミネアポリスで「地方自治体のe-デモクラシー」をテーマにする国際シンポジウム「International Symposium on Local E-Democracy」が7月末に開催された。ミネソタ大学のハンフリー公共問題研究所を舞台にしたシンポジウムは、英国の副首相府(ODPM)が主催したもので、内容の濃いイベントであった。

 米国、英国、オーストラリア、ネパールから100人以上の政府・自治体職員、NPO代表、地方議員、研究者、民間企業関係者、ブロガー等が参加。2日間にわたりe-デモクラシーの現状や今後の展望について話し合った。

■キーワードは「参加」

 e-デモクラシーとは何か。まず、電子政府=e-デモクラシーではないことに留意が必要だ。メリーランド大学のドナルド・ノリス(Donald Norris)教授は、初日午後のスピーチでこう説明する。「電子政府とは、情報、行政サービス、そしてアクセスの3点で定義できる。つまり、情報とサービスを何らかの電子媒体を通じて、年中無休、24時間体制で提供する行政のことを指すが、e-デモクラシーはそれ以上のものだ。e-デモクラシーは、市民がさまざまな電子媒体を利用して投票をしたり、公共意思の決定過程に参加することを意味する」。

会場のミネソタ大学ハンフリー公共問題研究所 オープニングセッションの様子
会場のミネソタ大学ハンフリー公共問題研究所とオープニングセッションの様子

 キーワードは「参加」である。だが、自治体レベルでのインターネットによる市民参加は、「ほとんど皆無」(ノリス教授)というのが米国の現状。全米自治体による電子政府の3分の2は、8年未満と歴史が浅いので、「e-デモクラシーは、まだまだ初期段階でしかない」と同教授は結ぶ。

 確かに米国の電子政府は、民間のCRMのお役所版というイメージが強く、行政サービスを民間企業並みに提供することに重点が置かれてきた。だが、一部の自治体は、市民参加を促すツールを電子政府に組み込み始めている。アンカレッジ市(アラスカ州)の土地利用ゾーニング審査への市民参加(詳しくはコラム第3回で触れる)などは、その一例であろう。

 e-デモクラシーは、ノリス教授が指摘するように、政治文化が違えば、その発展も違ってくる。例えば、米国は国家として「電子政府の政策もe-デモクラシーの政策もない。(両者とも発展はしているが)場当たり的な発展でしかない」(ノリス教授)。チグハグでバラバラの発展が米国流といえそうだ。例えば、ミネソタでe-デモクラシーが定着するとしても、そのノウハウが他州へ移植できる保障は何もないわけだ。

 米国とは対照的に、国をあげてe-デモクラシーに力を注いでいるのが英国だ。日本と同様にe戦略に遅れをとった英国だが、2000年にブレア首相が電子政府構築を重点政策のひとつにした。全行政サービスを2008年度までに電子化することが当初の目標であったが、その後ペースを上げ、2005年度末に繰り上げられた。成果が着実に実現しているようだ。

「ローカルe-デモクラシー」構想
「ローカルe-デモクラシー」
構想
 電子政府の開発には全部で22件のプロジェクトがあるが、その一つが、市民参加ツールの開発および実験を目的とする「ローカルe-デモクラシー」構想である。具体的には、パブリックコメント、嘆願、ウェブキャスティング、フォーラム、ブログ等10以上の実験プロジェクトが地方自治体を舞台に進行中である。シンポジウムでは、代表的なプロジェクトの中心人物が、それぞれ成果を発表した。

■ネット社会の民主主義

 e-デモクラシーは、もちろん行政や議会サイドの一方的な仕掛けではない。その担い手である市民にも歴史的な変化が起こっている。行政がセットした制度を利用する市民だけでなく、ネットを駆使する活動的な市民が出現しているのだ。

 社会のなかで権力の在り処を変える革命が進行中だ」、とポリティックス・オンラインの編集長フィル・ノーブル(Phil Noble)氏は基調講演で分析した。その象徴的な出来事が、昨年の米大統領選挙である。まったくの無名であったハワード・ディーン候補が、民主党の予備選でアッという間に先頭に踊り出た時期があった。「インターネットのお陰である。2人の青年が自宅の地下室で始めたネットでの選挙活動で、ブッシュ、ケリー両候補の集めた資金を足して3倍にした額の資金が集まった」。

 従来の常識では考えられないことが、現実になっている。インド洋大津波のさいにも、援助金集めで効果的だったのは、3人のブロガーが立ち上げたサイトであった、とノーブル氏は指摘する。

 シンポジウムには、ブロガーも参加した。数年前には理論的な可能性でしかなかった個人のインターネットラジオ局やインターネットテレビ局が、ブログというかたちで実現している。地域の住民であるブロガーが、ビデオカメラやICレコーダーを片手に「市民ジャーナリスト」として街頭に出現、ドキュメンタリー風の「番組」をサイトにアップしているのだ。もちろん、活字の世界でもブロガーが注目を集めているのは周知の事実である。

 ミネソタは、e-デモクラシーの発祥の地ともいわれているが、ミネアポリス市のR.T.ライバック(R.T.Rybak)市長は、e-デモクラシーを体現している"政治家らしくない政治家"である。90年代に地元の電子掲示板に参加したのがきっかけで、市長選に出馬。現職を見事に破って当選した未来型の政治家といえよう。

 技術の進歩は目覚しく、役者も集まり始めている。だが、まだ幕が開けたばかりだ、とノーブル氏は語る。「インターネット革命は、まだ初日の朝10時だ。潜在能力の10%か15%しか出ていない」。

 最後に筆者の私見だが、e-デモクラシーの発展に力を注いでいる自治体が散見される日本からのレポートがなかったのが残念であった。掲示板を活用する電子会議室(例えば、神奈川県藤沢市や三重県)の現状報告は、米国や英国の関係者にとっても興味深いものになったであろう、と想像できる。こうした場で揉まれながら切磋琢磨するデモクラシーの実践が、わが国の自治体そして市民にも期待されているのではないだろうか。

石川幸憲氏の写真筆者紹介 石川幸憲(いしかわ・ゆきのり)

ジャーナリスト。1950年生まれ。上智大学卒業後、渡米。南イリノイ大学博士課程修了(哲学)。ペンシルバニア大学博士課程(政治学)前期修了。AP通信記者、TIME誌特派員、日経国際ニュースセンター・ニューヨーク支所長、日本経団連のシンクタンク21世紀政策研究所研究主幹を歴任。現在は在米ジャーナリスト。訳書に『インターネットは民主主義の敵か』(毎日新聞社)がある。