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筆者紹介 横井正紀(よこい・まさき)

横井正紀氏の写真 野村総合研究所 情報・通信コンサルティング二部上級コンサルタント。1985年筑波大学基礎工学物質分子工学類を卒業。メーカーの研究部門(オフィスシステムおよびワークスタイル)を経て野村総合研究所に転籍。現在はリサーチ&コンサルティングに従事。専門はオフィス環境論、情報通信分野における技術動向分析と事業化支援、ならびに事業戦略立案。

 医療のIT化というと、電子カルテに代表される院内の基盤整備に議論が集中している感が強い。しかし、患者を念頭においた利活用を考えるなら、病院間の連携や院外にも目を向けることが必要である。特に地域医療やへき地医療などを考える場合、都市部と異なる課題が山積している。これらを認識した上での情報基盤のあり方がもっと検討されるべきだ。

 このような問題意識から、今回から6回の予定で、地域医療現場で必要とされている情報基盤のあり方について考えてみたい。

■地域医療の位置付け——地域全般で連携、サービスの範囲が広がる

 これからの地域医療では、病院間の連携、医療と介護の連携など、地域全体の有機的な連携がこれまで以上に必要となってくる。すなわち、単一施設に閉じた医療行為だけではなく、地域全般での連携医療に重点を置く考え方である。これによって特定地域内で高度な医療機器の共同利用や専門医の集中配置が可能となり、地域レベルで包括的な医療レベルを維持するとともに、各病院経営において健全な経営が期待できるというわけだ。

 医療機関同士の連携あるいは医療・保健・福祉の連携が行われるようになると、医療サービスの範囲が広がり、ここに“地域医療”の概念が重要となってくる。地域医療を考える場合、介護や福祉の分野までに広げた広義な概念もあると考えられるが、本稿では医療行為に関連した狭義な地域医療の概念について考えていくこととする。この場合の切り口は「病診連携」「病病連携」「救急搬送」の3つといえよう。

 「病診連携」とは、「病院」と「診療所(医院)」が連携して患者の診断治療にあたることを指す。地域の医 療機関が相互に連携することによって、その地域の個々の患者を総合的、効果的かつ継続的にケアし、真に患者のための医療を目指すものとされている。かかりつけ医と 地域の病院がスムースな連携を取りながら,地域住民に安心できる医療を提供することを目指している。

 「病病連携」とは、特定機能病院や大学病院、医療センターなどが中心となり、一般病院との間で医療連携を行うことである。情報ネットワークの整備による迅速で正確な医療情報の共有化が可能と なり、医療技術の高度化、専門化が推進でき、患者に対する最適な診療を提供できる。

 「救急医療」とは、救急車ならびに搬送先の病院、消防などが連携をとりながら、オンラインメディカルコントロールにおいて、患者を適切に病院に搬送することを指す。患者の容態は、バイタルデー タとして常時モニタリングされている環境が理想で、動画なども使いながら救急受け入れ病院への情報を漏れなく伝送する。

■地域医療における課題(1)——病診連携の視点

 各医療機関に集積された医療データは、その医療機関の中で完結しており、医療機関の間での情報交流は“紹介状”を主として行われており、住民一人一人にとって有効なものとはなっていない。地域の医療機関には各々特徴があり、A医療機関で受診したところB医療機関を紹介されたり、あるいは住民自身がC医療機関を選んで受診したりすることも多い。健康診断などを含めて、個人の保健医療情報が複数に分散しているのが現状である。

 地域のネットワークを構築して、これらを統合して診断することができれば、住民一人一人が日常の健康に対する意識を高めることができる。現在、健康のモニタリングは、人間ドックや検診など「受診」という面倒なプロセスがある。しかし、例えばリストバンドをしていれば血圧と血糖値が分かるようになり、「リストバンドをする行為=基礎的検診を受けている」といった認識が浸透すると、前述の面倒なプロセスの障壁が下がり、“国民皆検診状態”になるわけだ。

 また、病院側にとっては、統合されたデータは診断治療に反映させる“治療歴”あるいは“検査歴”となる。これは次世代の病診連携の優先課題となる。

■地域医療における課題(2)——病病連携の視点

 地方の病院に限らず専門医の不足は地域医療の大きな課題であり、専門医の集中的な配置と地域における病院ネットワークの重要性がますます高まってきているといえる。放射線画像の読影の場合、画像をネットワークで伝送し、あるセンターで集中的にその読影を行うことは、専門医を有効的に活用する手段の一例である。PET(陽電子放出断層撮影)やマンモグラフィなど高度医療機器による検診や診断が日常的になってきている現在、地域医療においては積極的にこのような病病連携の環境を整えていく必要があると考えられる。

■地域医療における課題(3)——救急医療の視点

 救急車による患者の搬送時間の長短は、患者の救命率を左右する。地理的条件の制約などから搬送時間が長めになる地域もある。搬送中の患者の容態をバイタルデータや患者の画像などによって病院側で把握できれば、搬送中に発生する容態急変時であっても救命士と医師が一体となって処置に当たることができ、患者の救命率を高めることが可能となる。

 また、患者の容態をデータや画像によって把握することができれば、比較的万全な処置体制を整えて患者を迎えることもできる。そのほか、救命士が医師の指示のもとに行う救命行為が、気管挿管(呼吸が止まった患者の口からチューブを差し込み、肺に空気を送り込む処置)などにも及んできており、医師は現場の状況を映像で把握して指示を出したいが、現状では難しいという課題がある。

■無線ネットワークを活用してブロードバンド環境の整備を

 このような、課題認識の上に立って地域のネットワークを眺めてみると、まだまだ必要な画像を送受信するためのブロードバンド環境が整っている地域は少ない。

 実際、地域の中核クラスの病院であっても、ブロードバンドが利用できる環境にない病院も多い。診療所や開業医においても、電子カルテ連携ができるレベルのネットワークが引き込まれているところは少ない。有線の地域イントラネットがすぐ近くまできているが、病院と接続ができないといったケースもある。

 医療は病院内だけではなく病院外での措置や対応も念頭においておく必要がある。その概念として日本でも定着してきたのが、メディカルコントロール(MC)である。病院に到着する前におこなうMCとは、医学的観点から救急救命士を含む救急隊員が行う応急処置などの質を保証することを指す。しかし、救急車から画像を伝送する環境は、まだ十分整備されていない。

 このような課題に対する解決の方向性を見出すために、無線環境を有効に活用していくことが必要となると考えられる。救急車のような移動局を対象とする環境構築をはじめ、コスト的に光ネットワークを敷設することができない場所にFWA(Fixed Wireless Access)などの方式によって広帯域な通信環境を整えることなどが、無線ネットワークの活用で可能になる。

 もちろん、無線ネットワークは万能ではない。セキュリティやエンド・トゥ・エンドでの品質制御や安定性には課題を残している。現在、これらの問題を利活用できる社会基盤の視点から一つ一つ解決していくことが求められている。

 次回はメディカルコントロール(MC)と、MCに求められるIT支援について解説したい。