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筆者紹介 横井正紀(よこい・まさき)

横井正紀氏の写真 野村総合研究所 情報・通信コンサルティング二部上級コンサルタント。1985年筑波大学基礎工学物質分子工学類を卒業。メーカーの研究部門(オフィスシステムおよびワークスタイル)を経て野村総合研究所に転籍。現在はリサーチ&コンサルティングに従事。専門はオフィス環境論、情報通信分野における技術動向分析と事業化支援、ならびに事業戦略立案。

 地域医療支援病院を中心にした地域医療モデルを考える場合、「病診連携」「病病連携」「救急搬送」が重要な要素となることを第1回第2回で解説してきた。

 ICTとひとくくりにすると、ネットワークからアプリケーション、さらには病院内から病院外まで含めた領域を対象とする必要があり、対象分野は多岐にわたる。院内に限らず院外までを対象とし、適材適所でデータ伝送ができる環境を考えるとき、ネットワークの必需性が大きく際立つことになる。

 あまねくすべての場所に、光ケーブルを敷設することは、現実的には難しい。しかし、光ファイバーと無線アクセス網を組み合わせることで、ネットワークの利活用の幅を広げることができ、同時に新たな可能性が見出すことが期待できる。都市圏においては、既設ファイバーと無線LAN の併用によるインターネット接続も始まっているが、こうした利点は、既にファイバー網などが整備されつつある大都市圏よりも、地方でのメリットが大きい。地域公共イントラネットの中に、無線アクセス網が根付き始めている事例も少なくない。

  • 庁舎と小学校、中学校、健康センター、生涯学習センター間のネットワークとして11Mbpsの高速無線LAN回線を敷設(石川県能登島町)
  • 役場と関係各施設を結ぶネットワークとして11Mbpsの高速無線LAN回線を敷設(北海道鹿部町)
  • 世帯が点在する地域、広域、指向性の確保等の条件に合致する地域ではFTTH等を補完手段として使用(高知県)

 例えば、電子カルテや在宅医療などと、IT化が華々しく見える医療現場であるが、その足回りになるネットワーク基盤となると課題は多い。役場の近くの診療所は地域イントラネットと接続しているが、その近くにある中核病院は地域イントラネットと接続されていないといった例も少なくない。あとわずかな距離を光ネットワークで安価に引き込むことができればそれにこしたことはないが、1kmの敷設に相当なコストを負担するようなことになると二の足を踏んでしまうようなことになる。電子カルテを共有するといった場面は様々なところで描かれているのであるが、それを実現するネットワークの姿が描けていないのである。

 このようなラストワンマイルを解決するために、無線ネットワークを利用することができる。無線といっても30GHzや60GHz帯などの周波数を用いるので広帯域であり速度は速い。そして、導入コストが、光ネットワークを引き込むことに比べて安価であることも魅力である。最近とりあげられるFMC(Fixed Mobile Convergence)は、有線と無線のネットワークを融合させた環境で情報を流通させる方法であるが、前述のようにラストワンマイルに無線ネットワークを利用すると、光ネットワークと無線ネットワークを用いた通信基盤が整備され、FMCがまさに現実のものとなる(この点については拙稿「地域イントラネットは、無線ネットワークとの組み合わせで活性化できる」も合わせてご参照いただきたい)。

■救急医療にはシームレスワイヤレス通信が望ましい

 有線と無線のネットワークを連携させることに関連して、無線通信側にも相互で連携しあう環境が必要になる。現在様々な無線技術があり、サービスが展開されている。しかしこれは利用者側から見れば技術の選択肢が増加し、その選択の基準や利用できるデバイスの制限などに対する課題を露呈した。

 無線技術が利用者から見て一つの技術に収斂することは考えにくく、今後も複数の技術が存在することは間違いない。このような状況においては、パフォーマンスに対する要求や送信するデータ容量などを鑑みて、利用者が意識することなく連続的に最適な通信ができること、すなわち「シームレスワイヤレス通信」がサービスとしてはふさわしいと考える。なぜならば、利用者が技術選択やネットワークサービスの選択から開放されること、また、空間特性などを意識せず品質を保った連続伝送が可能になるためである。

 このような「シームレスワイヤレス通信」が無線通信の品質要件になり、異なる無線方式によるシステムや異なる通信事業者といったネットワーク間でのシームレス通信を実現できれば、通信基盤としての有用性がきわめて高くなるだろう。

 図1は、救急車が患者を搬送して走行しながら、生体データや画像データを送る様子を示したものである。救急車が、帯域の広い無線アクセス網に感度がある場合には、動画像などの大容量のデータを送受信する。しかし、あまり帯域の広くない無線アクセス網にのみ感度がある場合には、動画像を送らず静止画像のブロックデータを送るなど、その帯域で送受信に支障ないデータのやり取りに終始するよう、ネットワーク側のシステムがコントロールしてくれることがシームレス通信の大きな特徴になる。

■図1 救急車が患者を搬送して走行しながら生体データや画像データを送るイメージ
救急車が患者を搬送して走行しながら生体データや画像データを送るイメージ
(出所:情報通信研究機構)

 救急医療における無線通信環境は、極めて緊急性が高いときに確実な通信を維持していかなくてはならない社会基盤である。よって、様々な通信システムを利用者が意識することなく、かつ適切に利用できる「シームレス通信」の開発は、このような社会基盤のための無線通信システムとして、重要度の高いテーマとなってくるであろう。

 また、このようなシームレス通信を念頭に置いた移動通信システムの開発環境の構築は、企業が単独で実施していくことは難しい。ある企業が単独で開発したとしても、それは、経済効率や技術の普及などの面から好ましくない。様々な企業が、共通の開発環境を利用し無線技術を確立していくことが、産業育成上必要と考えられる。