PR

■事例に見る無線環境の利用特性??固定型・可搬型・移動型

 図2は無線を利用した地域医療・救急医療のいくつかの事例を、無線の回線速度と無線の利用タイプ(固定・可搬・移動)によりマッピングしたものである。ここで、固定型とは建物等に無線装置を設置し、固定回線の代替手段として用いるもの、可搬型とはいつでもどこでも通信できる回線として無線を利用し、通信しながらの移動はしないもの、移動型とは移動しながら通信をするものである。

■図2 地域医療・救急医療と無線の回線速度・無線の利用タイプ
地域医療・救急医療と無線の回線速度・無線の利用タイプ

 無線の回線速度は、衛星携帯電話の4.8kbps程度から、18GHz帯利用のFWAの256Mbps程度(いずれも理論値)と5万倍以上の幅がある。

 固定型は無線LANや衛星通信といった大容量回線を利用し、山岳や離島の医師不足を補う目的で実施しているものや、小児科の専門医不足を補う病病連携を目的にしたものが信州大学などで実用化している。これらは、いずれも固定回線の敷設が困難な場所で、無線を利用するケースである。

 可搬型も信州大学の事例が有名だ。僻地等における心臓超音波健診に衛星通信を利用して、超音波画像診断やTV会議システムによる問診を行っているほか、ヘリコプターを無線LANの中継ポイントとして、災害現場などの映像を送信する実験が行われている。これら、任意の場所にいる患者に対応するもののほか、医師がノートPCとPHSカードを利用し、緊急時に自宅等でCT画像等を閲覧できるシステムなど、医師側が任意の場所で対応するものもある。

 移動型は、救急車から病院へ患者の容体を動画、準動画で送信したり、あるいは心電図等の生体情報をリアルタイムで送信したりして、病院における治療体制の確保や、除細動、気管挿管、投薬といった救急救命士に対する的確な指示の実施を目的としている。回線としては、無線LAN(YRPなど)や第三世代携帯電話(国立循環器病センターなど/香川大学など)、第二世代携帯電話(愛知県尾三消防など/秋田県河辺雄和消防など)等、いろいろな利用ケースがある。

 病院間および病院と移動する救急車両の間で必要となってくるアプリケーションとそれに対する課題を取り上げると以下のようになる。

病院間(病病連携/病診連携)における通信
 通常のTV会議システムを利用した遠隔診断では、MPEG2圧縮による数Mbps程度の画像で十分なケースが多く、回線速度の面では既存の無線LANで十分である。しかし、内視鏡手術などの画像伝送には、平均30Mbps程度のDVTS(Digital Video Transport System)による非圧縮画像通信が必要となり、さらにマルチアングルが必要な場合には、30Mbps×n倍の帯域幅が必要となるため、さらなる広帯域通信を安定的に行うニーズがある。

病院-救急車間(救急活動)における通信
 ビデオ咽頭鏡を利用した気管挿管画像などの動画像伝送は、第三世代携帯電話での回線速度で十分なレベルである。ただし、気管挿管を行う場所は通常救急車外であることや、現場の静止画・動画などを含めて、車外から直接、あるいは救急車を中継ポイントとして、伝送できる仕組みに対するニーズがある。さらに、救急救命士は傷病者を迅速に病院へ運ぶことが使命であるため、カメラ撮影等により搬送活動を妨げないようなインタフェースへの工夫が必要である。

■地域医療高度化のためのネットワークの必要条件

 医療分野のネットワーク活用は、レセプト処理や電子カルテにとどまらい医療情報ネットワークの構築に向けて動き出している。医療情報ネットワークは院内LANに限っている場合もあるが、地域医療を考える上では病院間のネットワークを視野に入れるとともに、その一部については行政や患者の利用を想定する必要が出てきている。

 様々な立場のユーザが、安心安全に利用できるネットワーク環境を想定する場合の第一の条件として掲げられる命題はセキュリティであろう。つまり、セキュリティに対する十分な保証があって初めて、地域医療のための医療情報ネットワークが実現するといっても過言ではない。

 セキュリティに関する一定のガイドラインが示されているものの、ネットワークそのものの品質保証レベルについては言及はされていない。すなわち、エンド・トゥ・エンドにおける通信の品質レベルが、ビジネスネットワークと同程度でよいのか、リアルタイム性などへの要求程度などについては、今後検証が必要である。特に無線ネットワークを利活用していく場合には、医療情報ネットワークが求めている通信品質を満足しているかを、あらゆる角度から見極めなければならない。

 セキュリティや通信品質の視点から見ると、課題が山積しているようにみえるが、無線ネットワークの利便性は大きい。無線ネットワークに有線ネットワークと同じ品質を求めるのではなく、医療現場で診療に活用できるデータ伝送や画像伝送が可能と判断されれば、あとはその品質の安定性を追及すればよい。

 この視点から無線ネットワークに課せられるべき条件をあげると、安全性、複合性、広域性に集約できると考えられる。

 安全性は、とりもなおさず前項で記載したセキュリティである。複合性は、無線ネットワークと有線ネットワークを融合した環境を前提とした視点である。最後の広域性は、全国で利用できる波の確保で、広域医療や広域災害時にも適用できる無線環境である。緊急時は帯域の太さよりも、接続できることが通信品質の中ではもっとも重要になる。

 この3つの視点を鑑み、地域医療高度化のための無線ネットワークの品質要件を議論していくことが必要と考える。