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文・清水惠子(中央青山監査法人 シニアマネージャ)

 提案依頼書を作成する際に要求するサービスのレベルを明確にし、提案を採択した業者とSLAを締結することは、業務側、つまり、ユーザのニーズに答えられるシステムを手に入れる第一歩である。

 サービスレベルは、現時点では委託業者との関係で論じられているが、実はサービスレベルは業務を遂行するためにいかなるサービスが現場で要請されるかがスタートである。利用者が画面に購入申請を入力し、応答があるまでの時間は何秒以内であってほしいか。毎日、何時間利用可能であってほしいか、どのレベルでセキュリティを設定すべきなのかは、業務の要請であり、ITの運用保守を委託するしないにかかわらず、サービスレベルは本来、業務遂行ために要求されるサービスが提供されるために設定されるべきものである。

 もし、業務遂行に必要なサービスが提供されないと、業務の遂行に支障が出ることになる。この認識はサービスレベルを論ずる時にどうも明確ではないようである。この業務の要請するサービスを明確にすることも、業務・システム最適化計画の中では重要な課題である。

 SLAの議論の中では、サービスレベルが低い場合の問題点が指摘される。しかし実際には、サービスレベルが明確でなく、例えば「システムが安全に運用されるように」といったいわゆる「丸投げ」と同然の漠然とした指示しかなされていないことも少なくない。そうなると、ベンダーもレベルを勝手に決める訳にもいかず、慎重のあまりに必要以上の過剰サービスを提供している可能性もある。例えば、実際には24時間対応でなくても良いサービスまで24時間対応として、結果的に必要ではない高いコストを払っているようなケースもある。SLAの設定に関しては、「公共ITにおけるアウトソーシングに関するガイドライン」の第五章アウトソーシングにおけるサービス内容とSLAが参考になる。

■図1 業務とサービスレベル整理例(部分)
業務とサービスレベル整理例(部分)
「公共ITにおけるアウトソーシングに関するガイドライン」より抜粋

■SLMとサービスレベル目標について

 SLAでは測定可能で定量的な評価基準を設定するが、これには実施を保証する保証基準と目標とする目標値とがある。いずれにしても、業務処理からシステムに対して要求するサービスレベル項目と目標値を設定するということになる。

 目標値はSLAの中に記載されるが、未達成の場合の業者に対するペナルティとセットで論じられるために、業者に対してサービスの実施を保証させる面が目立ちがちである。しかし、目標値は業務が円滑に遂行されることにより、最終的には最適化計画で設定された成果指標が段階的に達成されていくように、改善を重ねながら順次、設定値を上げて、より効率的なサービスを目指すSLM(サービスレベルマネジメント)と一体で実施されることが本来のあるべき姿である。サービスレベルが業務の要請である以上、SLMの実施に際しては利用者側の意見が反映される体制が求められることは言うまでもない。また、高いサービスレベルは高いコストになるため、どこまでのサービスレベルが業務を遂行する際に許容される範囲かを業務遂行に係るリスクを考慮して判断することになる。

 我が国のEAの中でも国民の利便性の向上は意識されているが、最適化の効果として米国でのIT投資の成功事例のように住民の窓口の待ち時間の減少や、窓口まで行く時間や費用の減少の効果は計算されていない。自治体において、住民と直接に関係する業務をシステム化する際には、こうした住民の利便性も成果として考慮する視点が望まれる。住民の求めるサービスを提供する視点からシステムのサービスのレベルはいかにあるべきかを検討することにより、ITの利用率も向上していくことになるであろう(IT投資により種々の手続を住民サービスをネットワークで利用可能にしたとしても、本当に使いやすいものでなければ利用されないことになる。)。評価項目の選定は各ガイドライン(「公共ITにおけるアウトソーシングに関するガイドライン」、「情報システムに係る政府調達へのSLA導入ガイドライン」)等を参照しながら検討することになる。

 留意すべき点はこれらの例示は例であってすべてではない。各業務の要求する成果、コストとリスクを考慮し、その要請するサービスを検討することである。

■図2 サービス分類に応じたサービスレベル
 評価項目及び要求水準の設定(部分)
サービス分類に応じたサービスレベル評価項目及び要求水準の設定(部分)
「情報システムに係る政府調達へのSLA導入ガイドライン」より抜粋
■図3 システム運用(データセンター)サービスの
 評価項目
システム運用(データセンター)サービスの評価項目
「情報システムに係る政府調達へのSLA導入ガイドライン」より抜粋
■図4 アプリケーションサービスのSLA構成要素
 (部分)
アプリケーションサービスのSLA構成要素(部分)
「公共ITにおけるアウトソーシングに関するガイドライン」より抜粋

 SLAは、民間においても残念ながら現時点では定着していると言えない。JEITAから民間向けのSLAのガイドラインがでている。適正なサービス、適正なコストについては、実務的には、これから実務の慣行が習熟してくることをまつことになるが、SLAの標準化がすすめば、ユーザにとってもベンダーにとっても満足なサービスと料金が設定されることになるであろう。

清水氏写真 筆者紹介 清水惠子(しみず・けいこ)

中央青山監査法人 シニアマネージャ。政府、地方公共団体の業務・システム最適化計画(EA)策定のガイドライン、研修教材作成、パイロットプロジェクト等の支援業務を中心に活動している。システム監査にも従事し、公認会計士協会の監査対応IT委員会専門委員、JPTECシステム監査基準検討委員会の委員。システム監査技術者、ITC、ISMS主任審査員を務める。