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渡瀬氏写真

渡瀬裕哉(わたせ・ゆうや)

政策過程研究機構理事 兼 パブリックマネジメントユニットマネージャー

1981年東京生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。現在、早稲田大学公共経営研究科在籍。専門分野は公共経営論、マーケティング論。特定非営利活動法人政策過程研究機構などにおいて地方公共団体向けのCS調査等の調査・分析業務に従事。また、渋谷区シブヤミライプロジェクト、品川区外部評価委員会などで委員を務めている。

 近年、地方公共団体の施策の見直し等に、住民満足度調査が活用されつつあり、行政サービスの質の向上が図られるようになってきた。また、満足度調査の結果を参考にしながら施策の優先順位が決定されることも多くなっている。このような動きは、住民ニーズを取り入れたサービス改善の試みとして今後も大いに推奨されるべきである。

 ただし、財政難の折、満足度調査から得られる情報のみでは施策の優先順位付けの判断を行うことは難しい。なぜならば、満足度調査では住民のコスト感覚を計測しづらいため、実際の自治体担当者の現実感覚とはズレが生じてしまうからである。そこで、本稿では満足度調査の欠点を克服し、公共サービスに対する費用対効果の住民の意識を測定するためのツールとして「納得度調査」の活用を提案したい。

 納得度調査の内容の説明にあたり、まず最初に満足度調査の特徴について説明したい。なぜなら、納得度調査と満足度調査は表裏一体の関係にあり、両者の概念の相違を理解することで納得度調査の理解につながるからである。

 満足度調査の特徴は、公共サービスの「受益者」として住民を定義することで住民の各施策に対する満足度を測定することにある。この調査結果を通じて、住民の満足・不満足の意識が定量的に可視化することができる。たしかに、公共サービスの具体的な改善案を検討する際、「受益者」である住民の満足度を測定することは正しい。ただし、この手法は住民の施策に対する願望は測定できるが、住民のコスト感覚を度外視されてしまう場合が多い。そのため、満足度調査のみでは費用対効果の観点が正確に反映されにくく、施策の優先順位付けの観点から十分な検証材料となっているとは断言できない。限られた予算の範囲内で意思決定を実行しなくてはならない担当者にとっては頭を悩ませるところである。

 このような課題は、公共サービスの「出資者」として住民を捉える視点が従来の満足度調査に欠けていることに起因する。つまり、住民が各施策について税金を投入しても良いかを判断するという視点がないのである。

 一般的に“素人”にとっては地方公共団体の予算書は難解なため、住民が予算の良し悪しを直接的に判断することは困難であると思われている。しかし、それは予算書の見せ方に問題があるからであり、予算の内容を分かりやすく提示できれば住民は十分に良し悪しを判断できる能力を持っている。むしろ、住民が納税を通して公共サービスを支える原資を提供していることを考慮すれば、住民の予算への積極的な意思表示の機会を増やす事は歓迎すべきことである。

 納得度調査の特徴は、住民を公共サービスの「出資者」として定義し、住民の費用対効果に関する意識を把握する点にある。具体的には、施策ごとに「主な仕事」及び「効果の一例」とともに、「使った金額(財源の総額及び住民一人あたりの金額)」を示し、複雑な予算を住民に判りやすい形式でまとめなおす。そのうえで、「仕事の効果」及び「使った金額」の両面から住民が各施策の妥当性について判断を下す。例えば、「仕事の効果」は「必要以上の効果」「ちょうどよい」「効果不十分」、また「使った金額」は「使いすぎ」「ちょうどよい」「足りない」「税金を使う必要なし」といった選択肢から選ぶ形式で評価される。

 この評価結果は住民の出資者としての判断であり、その費用対効果の意識が反映された結果である。地方公共団体は、住民の費用対効果の判断を勘案し、今後の目標水準と費用増・減・維持のいずれかの方向性を決定する。たとえば、当該施策の評価結果として、仕事の効果が「必要以上の効果」で税金を「使いすぎ」の場合、サービス水準・予算の引き下げを実施することが望ましいと判断できる。また、メリハリをつけた経営判断は、余分な投資を回避することにつながり、全体として施策の有効性・効率性を高めることにもつながる。そして、納得度調査はこれらの課題に対して担当者に有効な回答を与えてくれるはずである。

 このような先駆的な取り組みは平成15年度に神奈川大和市において実施され、平成16年度以降の予算編成の参考資料として調査結果が活用されている。(結果は「市民納得度調査の実施概要」として公開されている)

 納得度調査を通じた費用対効果の意識の把握は、地方公共団体におけるIT投資の意思決定を実施する際に有効な示唆を提供する。IT投資には巨額の予算が必要であり、施策の優先順位を決めて合理的に実施することは必須であろう。

 地方分権の時代を迎えて各地方公共団体の自治力が問われる時代になりつつある。そして、その自治力とは住民を出資者として捉える姿勢から生まれてくるものである。今後は、従来までの総花的な予算や総合計画を見直し、費用対効果を考慮した施策の取捨選択を実施していく必要がある。そのための意思決定に役立つデータを得る方法として、納得度調査を積極的に活用していくべきである。