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薄型テレビ,DVDレコーダー,デジタルカメラは「新・三種の神器」と言われる。これらのデジタル家電は,日本メーカーが高いシェアを占め,市場も拡大を続けている。デジタル家電メーカーの開発から量産に至る業務の仕組みとシステムの概要を解説する。

 昨今の大手電機メーカーの決算発表を見ると“勝ち組”と”負け組”が明確に分かれる。液晶テレビやプラズマテレビが主流のテレビ事業から始まり,DVD録再機,ビデオカメラ,デジタルカメラ,携帯電話端末などどの製品には,韓国,中国,欧州などの多くのプレーヤーが台頭しその勢力模様は戦国時代さながらである。

 この群雄割拠の主要因は,3カ月に1回程度の割合で矢継ぎ早に競合の新製品が出てくることで,どうしても「安さ競争」になってしまうことが挙げられる。その結果,デジタル家電の市場は,いつも価格変動とシェア争いが激しい。では,激しい価格変動がどのようにして起きるのか?もう少し掘り下げて考えてみたい。まずはデジタル家電の製品構造の特徴から説明しよう。

継続的なシェア確保が難しい

 デジタル家電とは,従来アナログ技術で実現していた家電の機能を,パソコンなどで発展してきたデジタル技術で代替し,さらに付加価値や使い勝手を向上させた商品と言える。例えばハードディスク内蔵のDVDレコーダーでは,テープに映像を記録するVTRと違い,本体だけで映像を記録・編集したり,長時間の映像を録りためておくことができる。

 DVDレコーダーの主要デバイスであるDVD駆動装置やハードディスク,映像を圧縮・伸張するコーデックLSI(大規模集積回路)には,パソコン用の部品や技術がほぼそのまま流用されている。これらのデバイスはパソコン用としても大きな需要があるため,安価で最新仕様のものが次々に市場に投入されている。

 主要デバイスを市場から容易に調達できるということは,セットメーカー(完成品メーカー)にとって参入障壁が低いということを意味する。遅れて参入したメーカーでも,より安価でハイスペックの製品を市場に投入できるので,先行者が継続的にシェアと利益を確保することが困難な,極めて競争の激しい業界と言える。しかし,日本のメーカーに目を向けてみると,各製品のカギを握る主要デバイスを韓国や台湾のメーカーが握っているのが現状だ。そのため,韓国,台湾勢に価格をコントロールされ苦しい価格競争を余儀なくされている。

「キーデバイス」が付加価値に

 では,勝ち組と言われるメーカーは,この競争をどのように生き抜いているのだろうか。ここで,製造業(電子機械業界)の収益構造をモデル化した「スマイルカーブ」を見ていただきたい(図1)。製造業(特に家電業界)の業務プロセスにおいて,セットメーカーとしての収益性や商品の付加価値を左右している工程が,従来と現在では大きく異なることが分かる。以下で詳しく説明しよう。

図1●スマイルカーブ
図1●スマイルカーブ
組立型製造業における収益構想と付加価値要因。

 1980年代まで日本は,組み立て・製造工程における生産技術力と品質で「Made in Japan」というブランドを確立した。組み立て・製造の技術力が,高い収益性や付加価値を生むカギになっていたわけだ。一方,汎用の電子部品の組み合わせによるアナログ技術を採用していた部品/モジュール開発工程は,収益性や付加価値が低かった。

 しかし,これまでモノづくりの技術力が支えていた商品の性能や品質は,現在ではモジュール化やデジタル化を追求した「キーデバイス」(中核機能を担う部品やモジュール)に集約されている。つまり,部品/モジュール開発工程の成果物であるキーデバイスが,商品力を大きく左右するようになった。例えば,シャープの液晶テレビは,「亀山工場製の液晶表示装置」というキーデバイスによって1つのブランドとして認知され,価格競争力を維持している(表1)。

表1●デジタル家電のプレイヤー
表1●デジタル家電のプレイヤー
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 そのため大手メーカーは積極的にキーデバイスの内製化を進めようとしている。しかし,それには巨額の投資とノウハウが必要だ。近年の主な内製化の動きを見てみよう。

 キヤノンは05年1月,デジタルカメラの国内生産拠点である大分新工場を稼動させ,基板実装やレンズ部品加工などキーコンポーネントを生産している。部品の内製化と物流業務を大分工場に集約した。大分工場集客によって,キーとなる部位の設計製造を完全に囲い込み,あらゆる仕様のコントロールができるようになった。それにより,広範な需要を取り込めるようになり世界市場でのトップシェアを実現している

 シャープは2006年10月に稼働予定の亀山第2工場に1500億円を投資し,50インチ液晶パネルを6枚取りできる最先端の第8世代ガラス基板を製造する体制を持った。シャープのケースでは,キーデバイスとなっている液晶パネルの生産を亀山工場に集約した。部位の内部構造のみならず,生産工程そのものをブラックボックス化してキーとなる技術を完全に囲い込んだ格好だ。

生産拠点を国内へ再シフト

 相対的に重要性が低下したとはいえ,組み立て・製造工程についても家電メーカー各社は様々な強化策に取り組んでいる。

 バブル崩壊後,各社は生産拠点を次々に中国などアジア諸国に移したが,国内の工場は空洞化が進み,受託生産を請け負う外資系EMS(Electronics Manufacturing Service)企業(「知っておきたい業界用語」を参照)に相次いで売却された。しかし,こうした動きにも変化が見えてきた。とはいえ,このところ,「知」の流出防止と需要変動への柔軟な対応を狙い,生産拠点を再び国内にシフトさせ始めたのだ。前述のキャノンやシャープのケースが代表例として挙げられる。

 製品情報が海外に流出すれば,日本企業が培ったモノづくりのノウハウまで同時に流れる可能性がある。特に部品を市場から調達しやすい家電業界では,製品情報の流出は致命的だ。実際,中国・アジアのメーカーは自力で製品を開発できるまでに成長し,今や欧州の電気店にも中国メーカーの製品があふれている。日本向けに冷蔵庫や洗濯機を製造・販売する中国のハイアール社は,既に品質面でも日本製を凌駕すると言われる。生産拠点の国内への再シフトには,こうした背景がある。

需要変動に対応するセル生産

 次に,販売モデルの変化や需要変動への対応について見ていこう。大型量販店の台頭により,これまで大手家電メーカーが確保していた販売系列制度は崩壊した。さらに,製造業の業務プロセスと従来は組み立て・製造工程での付加価値が高かったが,現在では部品/モジュール開発やアフターセールスでの付加価値が高い

 大型量販店との直接取引が進んだことで,市場での売れ残りが即座にメーカー在庫となり,キャッシュフローを悪化させている。加えて,売れ残った商品を売り切るための値引き販売が単価下落を加速させる,という負のスパイラルを招いた。

 では需要予測に注力すればよいかというと,話はそう簡単ではない。発展途上のデジタル家電市場では,各社が次々に新製品を投入する。いくら優れた新製品を発売しても,その直後に競合メーカーに強力な新製品を投入されれば,当初計画した販売数量を売り抜けることは至難だ。そのためデジタル家電の世界では,需要予測など当たらないというのが常識になっている。

 需要予測が当たらないなら,売れない商品の生産を直ちに止め,その生産能力を売れ筋の商品に振り向ける,といった対応力が重要になる。ここで注目されたのが「セル生産」と呼ばれる生産方式である。

 従来の家電メーカーの製造工場では,ラインと呼ばれる長いベルトコンベアに作業員を配置し,ラインを流れる製品を組み立てていく方式が一般的だった。この方式は大量生産に向くが,製造ロットが小さくなると,その都度ラインに供給する部品や作業指示の切り替えが発生して生産効率が落ち,その利点と効果を失う。

 これに対してセル生産は,4~8人程度の作業チーム(これを「セル」と呼ぶ)を単位として作業台を配置し,作業者が多能工となって最終製品まで組み立てる方式だ。セルごとに異なった製品を製造することもでき,製品の切り替えもセル単位で行えるため無駄が少ない。自動車などと違い,デジタル家電の製造では手組みの作業が多いことも,セル生産の普及を後押しした。元来,ベルトコンベアーを活用した量産品であるデジタル家電の作り方がセル生産方式にシフトしたことは,ひとつの節目であるといえよう。

 また,新たな対応として外せないのが,製品に組み込まれているソフトへの対応である。実際,保守アフターサービスの対象は,ソフトウエアが中心になりつつある。

 従来の家電製品は売り切りが一般的で,アフターサービスといえば修理対応くらいのものだった。ところがデジタル家電では,その機能の多くをフラッシュROMなどに組み込まれたソフトウエアで実現している。そのため,最近では,インターネットを介してソフトウエアを更新し,機能の追加や不具合への対応を行うケースが増えている。不具合個所も,その対応もソフト中心になってきているのだ。

 また,購入者限定のサービスを提供することにも積極的だ。例えばデジタルカメラには,オンラインでのプリントや「Webフォトアルバム」などのサービスがある。こういった取り組みには,新たな関連サービス/商品の購入につなげようという意図がある。

 このように,各メーカーは競争と変化が激しいデジタル家電業界での生き残りをかけて,価格競争力の維持や需要変動への対応,知の流出防止といった多くの課題に対応し,その業務モデルやプロセスを絶えず変化させてきている。