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Part1では,ルーターなどのネットワーク機器で,帯域制御や優先制御といったQoS(Quality of Service)と呼ばれる機能が必要になる理由と,QoS機能の概要を見ていくことにしよう。

 ルーターがパケットを受け取ってから送り出すまでは,三つの処理で成り立っている。(1)入力インタフェースがパケットを受け取り,(2)フォワーディング・エンジンと呼ばれるプロセッサが出力インタフェースを見つけてそこまでパケットを届け,(3)出力インタフェースがパケットを送信する。

 入力インタフェースに取り込まれてから出力インタフェースに届くまで,IPパケットは待たされることがほとんどない。入力インタフェースやフォワーディング・エンジンは,流れてくるIPパケットの量に比べて能力に余裕があるからである。

 しかし,出力インタフェースに届くと状況は一変する。複数のインタフェースから出力インタフェースの速度以上のIPパケットが押し寄せてくるので,パケットを送り出すのが追いつかなくなるのである。

IP電話の通信を脅かす三つの問題

 特に出力インタフェース,つまり接続する回線の速度が遅いときに,問題は深刻になる(図1)。

図1●ルーターの出口で音質が悪くなる<br>IPネットワークで品質劣化が起こるのは,おもにルーターの回線出口。特に,上りは1Mビット/秒程度の低速回線のため,トラフィックが集中すると問題になる。
図1●ルーターの出口で音質が悪くなる
IPネットワークで品質劣化が起こるのは,おもにルーターの回線出口。特に,上りは1Mビット/秒程度の低速回線のため,トラフィックが集中すると問題になる。
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 例えば,8メガADSLといっても,上りの速度は1Mビット/秒程度。ADSLにつながるポートに100Mビット/秒のイーサネットから絶え間なくパケットが届くと,あっという間に処理を待つパケットであふれ返ってしまう。

 ルーターは基本的に“早い者勝ち”でパケットを処理する。1Mビット/秒の回線につながる出力インタフェースに,1500バイトのパケットがすでに10個届いていたら,その後に届いたパケットは送り出されるまで120ミリ秒も待つことになる。これは,遅れが致命的になるIP電話などの通信にとって,とても無視できる値ではない。

 このように,後から届いたパケットは,送り出されるまでの時間が遅れる「遅延」が発生する。事態が悪化すると,あふれたパケットが捨てられる「廃棄」が起こる。さらに,それぞれのアプリケーションに必要となる帯域を確保できない「帯域減少」になる。

 そこで登場するのがQoS(キューオーエス)と呼ばれる機能だ(図2)。ルーターなどのネットワーク機器が備えている。これまで早い者順で処理していたIPパケットを,アプリケーションなどの違いを見て扱いに差をつける機能である。

図2●QoSによってアプリケーションごとにパケットの扱いを変える<br>アプリケーションによって通信に求める条件は違う。そこでQoSはパケットを送出する順番を優先したり,帯域を制限することで,アプリケーションごとのパケットの扱いを変える。
図2●QoSによってアプリケーションごとにパケットの扱いを変える
アプリケーションによって通信に求める条件は違う。そこでQoSはパケットを送出する順番を優先したり,帯域を制限することで,アプリケーションごとのパケットの扱いを変える。
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 アプリケーションによって要求される通信品質は異なる。ルーターのQoS機能は,パケットを処理する順番を変えたり,帯域を制限することで,各アプリケーションの要求に応える。

ポイントは優先制御と帯域制御

 ルーターが備えるQoS機能は,優先制御と帯域制御の二つに大別できる。

 優先制御は,IP電話など急ぎのパケットを,出力インタフェースでなるべく待たせずに送り出す技術。道路に例えるなら,料金所に緊急車両専用のゲートを設けたイメージである。一方の帯域制御は,特定の通信の帯域を確保したり,逆に制限したりする機能である。こちらは,バスなどの専用レーンを想像するといいだろう。

 もう一つ,ルーターのQoSに欠かせない機能がある。それは,受け取ったIPパケットを識別して,どのように扱うかを決める機能だ。優先制御,帯域制御,パケット識別――の三つがそろって,QoS機能は初めて働く。

 この講座では,これら三つの機能を各パートで詳しく探り,QoS機能を解明する。