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今回は、会社法における監査役、会計監査人および会計参与について解説する。会社法では、監査役をコーポレートガバナンスの強化のための重要な機関と位置づけている。旧商法では監査役は創業者の親族や閑職といったイメージがあったが、今後はコーポレートガバナンス強化を担う機関として重要さがいっそう増していく。

 従来、日本においては、中小企業では創業者の親族や関係者が監査役に就任することが多かった。また、大企業においても、長年勤続した定年退職前後の社員に対する恩賞として監査役の地位を準備する、といった運用が多く行われていた。法制度上は取締役の違法行為を監視・監督し、会社の事業活動の適法性を確保するための重要な機関であるにもかかわらず、実際には大企業においても、そのような機能を十分に果たしていなかったのが実情である。

 しかし、バブル崩壊後、企業による違法行為や不正・不祥事が次々と明るみになり社会問題化するにつれて、取締役の違法行為を抑止するという監査役の本来的役割への期待は高まった。また、1990年代後半よりコーポレートガバナンス(企業統治)やコンプライアンス(法令遵守)に対する取り組みの強化が世界的な潮流になるにつれて、監査役の重要性はいっそう増している。

 このような流れを受けて、日本でも近年、監査役の権限を強化する商法改正が数回にわたって行われてきた。具体的には、1993年(平成5年)の商法改正で、監査役の任期を原則として2年から3年に伸ばした。また、大会社(貸借対照表上の資本金の額が5億円以上または負債の合計額が200億円以上の株式会社)については3人以上の監査役の設置を強制し、そのうち1人以上は社外監査役であることを要求するとともに、「監査役会制度」を導入して多くの権限を監査役から監査役会に移した。

 さらに、2001年(平成13年)12月の商法改正においては、
(1) 監査役の取締役会への出席義務と意見陳述義務を法定した(旧商法260条の3第1項 小会社を除く)
(2) 監査役の任期を4年に伸長した(同法273条1項)
(3) 監査役が辞任する場合に、その監査役と他の監査役に総会での意見陳述権を認めた(同法275条の3の2)
(4) 大会社については社外監査役の要件を強化し、必要員数を「監査役総数の半数以上」に増やした(旧商法特例法18条1項、30条1項11号)
(5) 大会社について監査役の選任に関し監査役の同意権と提案権を認めた(旧商法特例法18条3項、3条2項および3項)

 さらに最近の改正では、取締役の職務執行の違法性のチェックから、より広い権限へ移行し、株主による取締役の監督機能を代行するような制度も設けられた。具体的には、取締役の責任について事前に損害賠償額の上限などの制限を設ける定款変更議案の提出、取締役会の責任免除議案の提出、あるいは、株主代表訴訟への会社の参加補助などについて監査役の同意を要することとする、といったことである。

 このように監査役は、単に違法行為を監視するだけでなくコンプライアンスやコーポレートガバナンスの観点から、株主にとって妥当でないと考えられる会社の意思決定について、株主に代わりチェック機能を果たすことが求められるようになってきているのである。

監査役の権限や独立性をより高めた会社法

 会社法においても、上記のような監査役の権限強化の流れを継承し、監査役の資格や任期、権限について、基本的には旧商法と同様に定めているが、監査役の権限や独立性をいっそう高めるために、いくつかの改正がなされている。

 まず、旧商法においては、株式会社では必ず監査役を置くことが必要であったが、資本金1億円以下かつ負債総額200億円未満の小会社における監査役の権限は、会計監査権限(計算書類の会計にかかわる記載が会社の財政状態を正しく反映しているか、ということについての監査であり、「書類」のチェックが主な業務)に限定されており、業務監査権限(取締役の職務の執行全般が法令・定款に違反していないか、または、著しく不当な事項がないか、ということについての監査であり、取締役という「人」のチェックが主な業務)は有しない、とされていた。

 これに対し会社法では、中小企業におけるコーポレートガバナンスの強化を図る目的から、資本金や負債総額、あるいは、「大会社かどうか、公開会社かどうか」といった機関設計のいかんに関わらず、監査役は原則として、会計監査権限だけでなく業務監査権限も有する、とされている。

 ここで「原則として」としたのは、「非公開会社で監査役会設置会社等以外の会社は、定款で会計監査に限定する旨の制限ができる」という規定があるからだ。このように、監査役の権限が会計監査に限定された会社においては、コーポレートガバナンス強化の観点から、株主に対して主に以下のような権限を付与し、監査役だけでなく株主による直接的な会社の業務執行の監督をさせることとしている。

取締役が法令または定款に違反する行為を行うか、行うおそれがある場合に、株主による取締役会招集権を認めた(会社法367条
取締役などから株式会社に著しい損害を及ぼすおそれがある事実について報告を受けることが出来るとした(357条1項
裁判所の許可を得ることなく取締役会の議事録を閲覧することが出来ることとした(371条2項
株主による違法行為差止請求権の要件を緩和した(360条

 このように会社法においては、監査役の権限を原則として拡大する一方、監査役の権限拡大を望まない会社に対しては株主の権限を強化することにより、会社のコーポレートガバナンスの強化を図っているのである。

 このほかにも会社法では、監査役がコーポレートガバナンスを充実させる役割を十分に果たすために、以下のような規定を定めている。

監査役はその職務を適切に遂行するため、子会社の取締役、会計参与、執行役等との意思疎通を図り、情報の収集および監査の環境整備に努めなければならない(会社法施行規則105条2項
上記において、取締役または取締役会は、監査役の職務執行のために必要な体制の整備に留意しなければならない(同上
上記規定は、監査役が公正不偏の態度および独立の立場を保持することができなくなるおそれのある関係の創設および維持を認めるものと解してはならない(施行規則105条3項

 このように会社法では、監査役がその権限を適切に行使することを期待し、関係者とのコミュニケーションを円滑に図ることを求めつつ、このような関係が監査役の独立性を害することのないよう警鐘を鳴らしている。従前の商法においても監査役の地位の独立性は重要視されてきたが、このように法令という形で明確に定められたことは、会社法がコーポレートガバナンスの観点から監査役に大きな期待を寄せていることの表れといえるだろう。

内部統制にも重要な役割を果たす監査役

 立法担当者も指摘しているように、会社法ではCOSOレポートなどにおける業務執行機関内部の統制のみならず、内部統制の考え方を一歩進めて、監査役を内部統制システムに組み込んでいる。さらに、取締役会の定めた内部統制システム自体を監査の対象とし、監査役がその内容を相当でないと認めるときは、その旨およびその理由を監査報告に記載することとしている(施行規則129条)。

 また、大会社における取締役会による内部統制システムの構築義務(362条4項)については、監査役に関する以下の体制の整備についても決議することを求めている(施行規則100条3項)。

監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用人に関する事項
前項の使用人の取締役からの独立性に関する事項
取締役及び使用人が監査役に報告をするための体制など、監査役への報告に関する体制
そのほか、監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制

 以上のように会社法は、監査役をコーポレートガバナンスの強化のための重要な機関として位置づけている。旧商法においては、監査役は創業者の親族や閑職といったイメージが少なからず存在したが、今後はコーポレートガバナンスの強化を担う機関としてより重要さが増すであろう。

会計監査人と会計参与

 旧商法においては、大会社などには会計監査人の選任が許されていたが、小規模の会社では会計監査人を設置することはできなかった。これに対して会社法では、機関設計を柔軟にするという会社法の趣旨や、会計監査人の重要性が増している昨今の状況に鑑み、資本金や負債の額にかかわらず、すべての会社に会計監査人を置くことを可能とした。

 また、会社法では、株式会社の規模などにかかわらず、すべての株式会社に設置可能な機関として「会計参与」という制度を導入した(会社法第2編第4章第6節)。会計参与とは、公認会計士または税理士の資格を有する者が、会計参与という株式会社の任意機関として、取締役と共同で計算書類の作成などの職務を行う制度である。

 従来、有限会社や資本金の小さい閉鎖的な株式会社においては、小規模ゆえに会社の貸借対照表や損益計算書の作成が不十分であることが多かった。そのため、監査という事後的なチェックではなく、計算書類の作成者としての機関を法制度化することが、中小企業の適切な計算書類の作成に有益であるとの趣旨から、会社法において新たに設置されたのがこの会計参与である。

 会計監査人は取締役会が作成した計算書類の事後的なチェックを行うのに対し、会計参与は経営陣とともに計算書類を作成する立場にある。このようなスタンスの違いがあるとはいえ、会計参与には不正行為の報告義務など、監査役と同様の権限や義務が多く課せられており、計算書類の適正さの確保という趣旨は両者とも共通する。会計監査人や会計参与が中小企業において活用され、中小企業におけるコーポレートガバナンス強化につながることが強く期待されているといえよう。

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大 毅(だい つよし)
1999年3月,慶応義塾大学法学部法律学科卒業。2000年10月,弁護士登録。森総合法律事務所(現・森濱田松本法律事務所),阿部井窪片山法律事務所で知的財産法などを中心に執務。東京大学大学院工学系研究科先端学際工学博士課程専攻(知的財産法・技術移転法)を経て,2005年10月,千代田区主催のベンチャーインキュベーションセンター「ちよだプラットホームスクウェア」内にて独立開業。