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金融商品取引法に含まれる内部統制関連の規定は、いわゆる“日本版SOX法”として、従来から広く議論されてきた。しかし、そもそも金融商品取引法という法律の目的や内容をきちんと把握しないと、内部統制に関する規定を正確に理解することはできない。そこで今回から5回にわたり、金融商品取引法の“本質”にかかわる規定を平易に解説していく。


 2006年(平成18年)6月7日、第164回国会において、「証券取引法等の一部を改正する法律」および「証券取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」が成立し、6月14日に公布された。

 これら2つの法律を制定した狙いは、これまで証券取引市場の基本的なルールを規定してきた「証券取引法」に代わる新しい法律(=金融商品取引法)のもとで、金融・資本市場を取り巻く環境の変化に対応し、次の3つの実現を図ることにある。すなわち、(1)利用者保護ルールの徹底と利便性の向上、(2)貯蓄中心から投資中心に向けての市場機能の確保、そして、(3)金融・資本市場の国際化への対応、である。

 上記の「証券取引法等の一部を改正する法律」により、「証券取引法」という法律の名称は「金融商品取引法」に変更された。その内容も、より幅広い金融商品を対象に、投資家保護のための横断的な法制として大幅に改正された(立法担当者は、この2つの法律によって構築される投資家保護のための横断的な法制を「金融商品取引法制」と呼んでいる)。

 多くの読者がご存知の通り、この「金融商品取引法」には、従来から“日本版SOX法”という名で議論されてきた「上場会社等における内部統制の規定」も盛り込まれている(金融商品取引法24条の4の4および同法193条の2第2項)。「盛り込まれている」という表現からも分かるように、「金融商品取引法=日本版SOX法」ではない。内部統制に関して規定しているのは、金融商品取引法の条文の一部だからである。

 しかし本稿では、読者の方々に金融商品取引法における内部統制の“本質”を正確に理解していただくために、「金融商品取引法」という制度自体の趣旨や構成を解説したいと考えている。ある特定の制度の条文を正しく理解するには、法律全体の目的や趣旨、当該制度の位置付けなどを把握することが必要不可欠だからである。

 金融商品取引法では、内部統制だけでなく、社会的に大きな注目を集めている株式公開買付制度(TOB)や大量有価証券報告書制度などのM&A法制、四半期開示制度の法定化などのディスクロージャー規制についても改正を加えている。これらは一見、内部統制とは無関係に思えるかもしれない。しかし、これらの改正の底流にあるのは、企業のコーポレートガバナンス体制を強化することにより、コンプライアンス(企業が法律や規制、社会的規範、企業倫理などを守ること)を実効化しようという、内部統制にも共通する欧米流の経営思考なのである。

 以上のような観点から、本連載では5回にわたり、内部統制を規定する金融商品取引法について解説していく。上で述べたように内部統制に関する規定だけに限定はしないものの、重要な改正部分にポイントを絞って、できるだけ平易に解説したい。具体的には以下の項目を取り上げていく。

  第1回 金融商品取引法を性格付ける3つのキーワードと4つの柱

  第2回 有価証券・各種業規制の定義

  第3回 M&A、TOB(株式公開買い付け)、株式大量保有制度の見直し

  第4回 ディスクロージャー(四半期報告書、内部統制報告書など)規制の見直し

  第5回 証券取引所規制など、そのほかの改正点

 なお、筆者はこれまでも本サイト「内部統制.jp」において、「金融商品取引法」と「会社法」を中心に、内部統制にかかわる法律を詳しく解説してきた(弁護士・大 毅の『法務から理解する内部統制 全8回』および『押さえておきたい「会社法」の基本 全8回』)。今回から始まる連載の理解を深めるためにも、併せてお読みいただければ幸いである。

 このほか参考にしていただきたい資料として、金融庁が金融商品取引法の趣旨や内容を周知・啓蒙するための作成したパンフレットを挙げておく。金融庁のサイトからPDFファイルをダウンロードできるので、是非ご参照いただきたい。

“市場法”としての性格をより明確に

 最初に、金融商品取引法の目的を明確にしておこう。金融商品取引法では第1条において、この法律の目的と、目的を定めるための方策を規定している。具体的には以下の通りである。

 【1】目的

   (1) 直接的な目的

    ・有価証券の発行および金融商品等の取引等を公正にすること

    ・有価証券の流通を円滑にすること

    ・資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成等を図ること

   (2) 最終的な目的((1)を通じて)

    ・国民経済の健全な発展に資すること

    ・投資者の保護に資すること

 【2】目的を達成するための方策

    ・企業内容等の開示の制度を整備すること

    ・金融商品取引業を行う者に関し必要な事項を定めること

    ・金融商品取引所の適切な運営を確保すること

 

 【1】の目的は、基本的には証券取引法の規定を継承しているが、新たに「資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成を図る」ことが盛り込まれている。これは、金融商品取引法が、個々の取引の公正さや証券流通の円滑さを保護するだけでなく、資本市場全体を適切に機能させることをも目的とする、「市場法」としての性質を明確にしたものである。

 では、【2】の目的を達成するための方策(主な制度内容)が、金融商品取引法の目的に関する規定として、含まれているのはなぜだろうか。それは、目的規定を読むだけで、利用者が金融商品取引法の概要を把握できるようにする、という新しい配慮と考えられる。こうした取り組みは、「利用者の視点に立った法制」という金融商品取引法の性格を示す象徴的なことだといえよう。

 これらは、具体的な影響がすぐに出る改正というわけではないが、金融商品取引法が市場そのものを対象とする法律であることを明示した点で、その意義は大きいといえよう。