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 人間の耳は、20kHzまでしか聞こえないのに、「ハイレゾ音源」ってどんな意味があるの――。

 筆者は、以前からこの疑問を胸の内に抱えたまま悶々としていた。最近、オーディオ業界界隈で耳にすることが多いハイレゾ音源。ハイレゾリューションという言葉が示す通り、音の解像度が高く、人間の可聴周波数をはるかに超える高い周波数の音がサンプリングされていることから「CDよりも音が良い」というのが一般的な認識だ。

 だが、従来のCDでも、理論上22.05kHzの周波数の音まで収録できるよう規格が決められており、人間の可聴範囲を十分カバーできている。ハイレゾ音源は、可聴周波数をはるかに超えた96kHzや192kHzといった高い周波数まで収録しているというけれど、人には聞こえない音を収録しても意味ないよね、CDのスペックで十分だよね、というのが筆者の疑問なのだ。

 加齢とともに上の周波数が聞こえなくなる「耳年齢」があるのは有名な話。「夜中、公園に集まって騒ぐ若者を17kHz以上の不快なモスキートートーンで撃退」などというニュースに接すると、近年、耳の加齢をヒシヒシと感じるこの身だけに、半ば八つ当たり的に「可聴範囲外を収録したハイレゾ音源の存在意義に疑問を呈す」と毒づいてみたりする。余談だが、この原稿の執筆を機に「Audiometry」というiPhoneアプリで、筆者の可聴周波数を計測してみたところ、15kHzまでしか認識できず、ますます落胆している次第。

 「ならば、おまえはハイレゾを全否定するのか」と怒られそうだが、否定はしません。というのは、音楽制作現場の末席で仕事をしている筆者の場合、ハイレゾで収録された音の気持ちよさを理屈なしに体現しているからだ。最近のレコーディング現場は、ハイレゾで収録するのが当たり前だが、それをCDに収録するには、「ダウンコンバート」という作業によりスペックを落とさなければならない。

 そしてダウンコンバートしたとたんに、それまで感じていたハイレゾ音源の気持ちよさが、すーっと向こう側に遠のくような感覚に見舞われる。顕著に表れるのが、音がよく響くホールで収録したピアノやヴァイオリンといったソロ系の器楽曲。残響音(アンビエント)から透明感が失われ、うっすらと曇ったような印象になる。それと同時に音像から立体感や奥行きが失われてしまう(画面1)。

画面1●96kHz/24ビットのハイレゾ音源の波形(左)と44.1kHz/16ビットのCD音源の波形を比較した。ハイレゾ音源の方は、40数kHz以上の高周波が出ているのに対し、CD音源の方は22kHz付近でストンと波形が消えている
画面1●96kHz/24ビットのハイレゾ音源の波形(左)と44.1kHz/16ビットのCD音源の波形を比較した。ハイレゾ音源の方は、40数kHz以上の高周波が出ているのに対し、CD音源の方は22kHz付近でストンと波形が消えている
画面1●96kHz/24ビットのハイレゾ音源の波形(左)と44.1kHz/16ビットのCD音源の波形を比較した。ハイレゾ音源の方は、40数kHz以上の高周波が出ているのに対し、CD音源の方は22kHz付近でストンと波形が消えている