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世界で脳チップの開発が進む

 脳をシミュレートするニューロモーフィック・チップを開発するのは米IBMだけではない。世界の複数の研究機関が、独自のアーキテクチャに基づくチップを開発している。

 欧州では、ハイデルベルク大学を中心にした開発プロジェクト「BrainScaleS(brain-inspired multiscale computation in neuromorphic hybrid systems)」や、英マンチェスター大学などのプロジェクト「spiNNaker(spiking neural network architecture)」がある。前者はニューロンの働きをアナログ回路で再現するアナログ/デジタル混載チップで、後者はTrueNorthチップと同じデジタルチップ。いずれも、脳機能の謎を解明する欧州の巨大科学プロジェクト「Human Brain Porject」と連携している。

 米国ではスタンフォード大学が、アナログとデジタルを混載したニューロモーフィックチップ「Neurocore」と、そのチップを集積させた基板「Neurogrid」を開発している。Neurogridは、スパコンなどの高価なコンピュータを使わずに脳をシミュレートできる、低コストの基盤として開発したもの。元々は、低コストの重力計算専用チップとして東京大学の研究チームが2002年に開発した「GRAPE-6」に触発されたという。

 日本では、そのGRAPEシリーズの開発に関わった理化学研究所 生命システム研究センター 副センター長の泰地真弘人氏が、学習機能を持つデジタル型のニューロモーフィック・チップの構想を練っている(写真5)。

写真5●理化学研究所 生命システム研究センター 副センター長の泰地真弘人氏
写真5●理化学研究所 生命システム研究センター 副センター長の泰地真弘人氏
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 IBMのTrueNorthアーキテクチャとは異なり、コアに汎用の演算回路を持たせることで、ニューラルネットの学習を可能にしたい考えだ。「ニューラルネットの演算には、高い精度は不要で、単精度(32ビット表現)のGPUでもオーバースペック。8ビットまで精度を落としたチップであれば、省電力性能でGPUより優位に立てる」(泰地氏)。

 想定するチップあたりコア数は8000、動作周波数1GHz、チップサイズ200mm2、消費電力130Wほどで、米エヌビディアのGPUを超えるエネルギー効率を目指す。

 次世代のコンピュータは、脳から学べ──。脳科学の知見が、70年近く存続したコンピュータアーキテクチャに変革をもたらそうとしている。