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 T型フォードが登場したのは1908年のことだ。以来、自動車産業は100年以上にわたって発展した。時代の流れに抗しきれず衰退する産業も少なくない中で、長い目で見れば自動車産業は右肩上がりの成長を続けてきた。しかも、それぞれの市場特性が異なるため、日欧米の自動車メーカーはすみ分けることができ、共存しながら発展できた。そんな自動車業界に大きな構造変化の波が押し寄せている。

参考になるのはエコシステム、自動車産業が学ぶべき点は多い

 自動車の情報ネットワーク化はその最たるものだ。携帯ゲーム機やスマート家電などのように様々な機器がネットワークにつながり、便利なサービスを提供するようになっている。自動車もその例外ではない。インターネットをはじめ交通情報などを提供するサービスとの接続によって、自動車の機能やサービスに対する期待は大きく変わる可能性がある。

 これまで自動車産業では商品やサービスを提供し、その対価を受け取るという1対1の売買関係が成立していた。しかし、自動車の情報ネットワーク化によってビジネスモデルが変わるかもしれない。参考になるのはエコシステム。例えば、サービス提供者はホテル検索の機能を提供し、利用者にサービスの対価を求めず、ホテルから広告収入などを得て収益を上げる。

 このビジネスモデルから自動車産業が学ぶべき点は多い。そうなると、これまでのような完成車メーカーを頂点とした垂直統合型モデルではなく、車両組み立て、ハードウエアの供給、ソフトウエアの供給、サービスの提供、コンテンツの提供による水平分業型モデルに移行する可能性もある。

 自動車の情報ネットワーク化はこれまでテレマティクスと呼ばれてきた。テレマティクスはサービスプロバイダーと車載端末器の間での通信を想定した概念だ。最近、コネクティッドカーという言葉が使われる背景には、サービスプロバイダーだけでなく、インターネット接続や車同士の通信も含まれるようになったことがある。

互いに速度情報を交換、衝突防止などに活用も

三菱自動車工業 代表取締役 取締役会長 兼 CEO 益子 修 氏
三菱自動車工業 代表取締役 取締役会長 兼 CEO 益子 修 氏

 コネクティッドカーには様々な可能性がある。スマートフォンとの連携により、ドアロックやアンロックを実行したり、広い駐車場で車の位置を知らせたりするサービスが実用化している。クラウドと接続してニュースや天気、交通などに関する様々な情報を得るだけでなく、ドライバーのための便利なコンシェルジュサービスも生まれている。電気自動車向けの充電ステーションの場所検索サービスはその1つだ。今のところ、空いているか、何分待つのかといった情報を得ることはできないが、電気自動車が充電インフラとつながれば、やがて充電の予約もできるようになるだろう。

 情報ネットワーク化の可能性はそれだけではない。車と車がつながれば、互いの速度などの情報を交換して衝突防止などに役立つ。道路インフラとのやり取りができれば、進行方向の車両や歩行者の有無、路面状態などの情報を受け取り、一段と安全な運転ができる。また、自動車ディーラーとつながることでディーラーと走行情報を共有し、ディーラーはオイル交換などのメンテナンスに活用できる。故障が発生した際には、原因の特定が容易になるので、修理時間の短縮化やワランティコストの削減が図れる。

 コネクティッドカーによる価値創造を生み出すには、ユーザーエクスペリエンス、ディーラープロフィタビリティー、ワランティコスト、ビッグデータの活用という4つの視点が欠かせないと考えている。

 ユーザーエクスペリエンスについては、多種多様な情報を安全に、ドライバーに分かりやすく伝えることを肝に銘じておく必要がある。ドライバーにストレスを与えない操作性は何よりも大切だ。車室内デザインやユーザーインターフェースの設計がそのカギを握る。

車両状態をモニタリング、不具合の予兆を発見

 ディーラープロフィタビリティーについては、コネクティッドカーが実現するカスタマーケアを来店率の向上につなげ、さらにディーラーの収益向上に結び付けていく必要がある。また、ワランティコストについては、故障の発生に対応するだけでなく、車両状態をモニタリングすることで不具合の予兆を発見し、先回りしたメンテナンスが実現し、ワランティコストが低減する可能性がある。

 ビッグデータの活用については、すでに様々な産業で先行事例が生まれており、自動車産業も新しいサービスやビジネスに大きな期待を寄せている。ドライブ履歴や走行情報をもとに、走行ルート上のイベントや店舗の情報を配信するサービスはその1つだ。クーポン券を送り、来店を促すこともできるだろう。その普及には、エコステムが重要な役割を果たす。

 自動車保険との連携モデルも現実のものになってきた。これは車両の走行距離や安全運転の度合いなどを把握したうえで、そのレベルに応じた保険料を設定するものだ。消費者にとっては保険料の割引、保険会社にとっては保険金リスクの低減というメリットが生まれる。

 自動車から生成されるデータと、ほかの業種で得られるデータを組み合わせることで、新たなイノベーションが生まれる可能性は大きい。自動車産業を中心に考えるのではなく、産業界全体が連携して新しい価値を生み出すという姿勢で臨み、これまで以上によい社会づくりに貢献していきたい。