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 製造業では人材育成が年々難しくなっている。製造現場では5年、10年かけて経験を積ませ一人前に育てる経験重視の人材育成が主流だったが、団塊の世代の退職などによってベテラン技能者が減少するため技術の伝承が難しくなっている。また、海外市場でも人材育成は容易ではない。東南アジア諸国連合(ASEAN)で働く10人に3人は今より良い報酬とキャリアを求め、今後2年以内に現在の職場を辞める意向があるとの調査結果がある。

 これからの産業の担い手である若年技能者の生産性の向上と、高齢化するベテランの活用は喫緊の課題だ。それを解決するため、ITの投資評価を抜本的に見直し、ヒトに起因する課題をITで解決する「ヒトとITのリデザイン」の必要性が生じている。新日鉄住金ソリューションズはミッションクリティカルな製鉄業の情報システムを支えてきた経験を活かし、それに取り組んでいる。具体的には、ヒト、機械、モノ、情報を含むシステムの生産性を向上させる技術・手法の体系化を進めている。

AR対応メガネ型モニターでプラントの保守作業を改善

新日鉄住金ソリューションズ 代表取締役社長 謝敷 宗敬 氏
新日鉄住金ソリューションズ 代表取締役社長 謝敷 宗敬 氏

 そのカギを握るのがクラウドの活用だ。ものづくりの現場から集まる膨大なデータを当社のミッションクリティカル用クラウド、absonne(アブソンヌ)で収集・分析し、現場の業務効率や作業品質の向上に活用している。あるエネルギー供給企業はAR(拡張現実感)対応のメガネ型端末のスマートグラスとabsonneをプラントの運転・保守作業に役立てている。

 スマートグラスはディスプレー、カメラ、センサー、GPSなどの機能を集約したメガネ型の情報端末だ。それを装着して現場に立つと、GPSやセンサーの情報をもとに、ディスプレーであるメガネのレンズに作業に必要な手順やマニュアルなどを自動表示する。技能者の情報活用を推進するため、タブレットの導入が進んでいるが、「手がふさがる」「手袋を使用すると画面のタッチ操作ができない」といった不便な点があった。スマートグラスなら作業者はハンズフリーのままで様々な情報を見られるので、確認しながら作業を進められる。危険が伴う場所では警告音を鳴らして注意喚起を図り、技能者の安全確保にも役立つ。

 スマートグラスによる効果はそれだけではない。スマートグラスのカメラが技能者の目となり、現場で見た情報をリアルタイムに管理センターに送信できるので、ベテランと若手の2人でペアを組んでいた現場業務が大きく変わる。現場はスマートグラスを装着した若手に任せ、センター側にいるベテランがスマートグラスから送られた映像をリアルタイムに監視しながら必要に応じて適切に指示を出し、若手1人だけでも対応できる。複数の現場をセンター側のベテランがまとめて監視し、指示することも可能だ。経験の浅い技能者でも、一定の作業品質を確保できる。

作業のプロセスや成果はデータとしてクラウドに蓄積

 人材教育の面でも大きなメリットがある。スマートグラスを介して作業員の視点に立って作業をチェックできるため、ベテランは管理センターから確認・指示するだけでなく、どうしてその作業が必要になるのか、この作業にはどういう危険が潜んでいるのかといったきめ細かい指導もできる。

 作業のプロセスや成果は産業ビッグデータとしてクラウドのabsonneに蓄積するので、それを活用すれば問題点の把握と分析ができ、改善に向けた取り組みが加速する。ボトルネックを見つけ出し、作業手順やマニュアルに反映させれば、技能者のスキルアップにもつながる。ベテランが長年体得した経験値をデータとして活用できる。

 若手は指示を受けるだけでなく、ITを活用した新しい人材育成方法によって、エキスパートの道が開ける。こうしたヒトとITの好循環をつくり上げれば、ものづくり企業は厳しい環境の中でも継続的に成果を上げられる。

図 ヒトとITのリデザイン
図 ヒトとITのリデザイン
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 新日鉄住金ソリューションズはこれまでの実証実験で得られた知見とノウハウを活かし、遠隔作業支援サービスのARPATIO(アルパティオ)やスマートグラスの現場利用に向けた導入検証サービスを開始した。それにより、現場の視点に立ったスマートグラス活用の課題の整理・検証が実現する。

 ものづくりの現場で懸念されるヒトの減少と高い離職率、経験主義的人材育成の限界といった数々の課題を解消するため、ITの重要性は高まる一方だ。製鉄業というものづくりの最前線で積み上げてきたノウハウを活かし、ものづくり企業が上昇気流に乗るお役に立ちたい。