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 エステーは消臭芳香剤や防虫剤などの生活日用品を製造・販売している。この業界には、売り上げが1兆円を超える巨大企業もあり、売上規模500億円の当社は中堅企業にすぎない。他社と同じことをやっていると、価格競争に陥ってしまい勝ち目はない。エステー製品を愛用してもらうには、独自性の追求と発揮によるイノベーションが欠かせない。

確立された市場を狙わず、世の中にない商品を開発

エステー 取締役会議長 兼 代表執行役会長 鈴木 喬 氏
エステー 取締役会議長 兼 代表執行役会長 鈴木 喬 氏

 社長に就任した1998年以来、すでに確立された商品の市場は狙わずに、これまでにない商品を開発することで新しい市場の開拓を目指してきた。おかげさまで、衣料用防虫剤「ムシューダ」、家庭用消臭芳香剤「消臭力(しょうしゅうりき)」、脱臭剤「脱臭炭(だっしゅうたん)」といった数々のヒット商品に恵まれた。グローバルなニッチマーケットでトップシェアを維持している。

 新商品の開発で重視しているポイントは「聞いて分かる」「見て分かる」「使って分かる」。生活日用品は定期的に買い替えてもらう商品だ。商品名を聞いただけで、商品の特長や性能がピンとくる。デザインやパッケージを見ただけで、商品をイメージできる。使ってみれば、効果や買い替え時期が分かる。ムシューダの開発で最も難しかったのは使用開始から1年後に「終わり」と表示することだった。

 特に神経を注ぐのが商品名だ。首を突っ込み、何度もダメ出しをする。一例を挙げれば、唐辛子の成分を使った米びつの防虫剤「米唐番」では、開発担当者の案は「米番唐」だったが、私は米唐番という名前を考案し、最終的に押し通した。米唐番が虫を見張るという意味で110番に引っ掛けていることと、テレビCMでメロディーに乗せたときに「米がうまいよ、米番唐」より米唐番のほうが口ずさみやすいことがその理由だ。

 新しい商品は経営者が覚悟しなければ生まれない。世の中にない商品はなおさらだ。イノベーションを牽引するのは経営者の役目で、経営者はチーフ・イノベーターとして危険を顧みず火の中に飛び込んでいく「江戸の火消しの纏持ち」のような存在といえる。たとえ反対があっても、こうと決めたら突き進んでいかなければならない。ただし、こう大上段に振りかざすと、あまりに堅くなってしまう。私はイノベーションは経営者の道楽から生まれると考えている。

新商品開発を提案すると、役員は揃って反対に

 「新商品をやるぞ」と私が取締役会の議題に乗せると、ほとんどの場合、取締役は揃って反対する。そういうときには「これは私の道楽でやるよ」と押し通してきた。誰もが責任を取りたくないので、失敗したときに備えて反対する。他人のいうことはほとんど役に立たない。経営者は自分の脳みそを使って考えなければならない。新しいことをやろうと思えば、経営者が独断でやる必要がある。

 間伐材から抽出した天然樹木の成分で空気を浄化する「クリアフォレスト」事業はこれこそ私の道楽の典型だ。登山好きの私は、山に行って緑に触れると、いつもとても元気になると感じた。そこから開発が始まった。間伐材から取り出した成分を使って空気中の窒素酸化物を減らし、空気を浄化する技術の確立と商品化を目指した。研究期間も含めて7年前から取り組み、ようやく商品化にこぎ着けた。

 経営者がのめり込まないと、イノベーションは生まれない。当然、こんな調子だから、失敗も少なくない。それでも、絶えず新商品を出して騒いでいないと社内に沈滞感が漂う。当社のような中堅企業では、年中新しいことをやって騒いでいないと、社員の創造力や積極性がなくなる。これが怖い。

 当社は東日本大震災の発生の翌月からポルトガルのリスボンの町並みを背景に少年、ミゲル君が消臭力を歌うテレビCMを流した。当時、テレビでは公益社団法人のACジャパン(旧公共広告機構)の公共CMを放映していた。自粛ムードの中で、商品を宣伝すると、世間から批判を受ける恐れがあったからだ。しかし、これでは気が滅入ってしまう。

部屋の雰囲気を明るく、会話が弾み新たに挑戦

 リスボンは1755年11月に大地震に見舞われ、津波と火災で6万人の死者を出す壊滅的な被害を受けたが、見事に復興した。その美しい町並みを背景にミゲル君の美声で日本を覆っている重苦しい空気を変えたいと思った。正直、不安もあった。テレビCMを流したことで世間から批判を受ける恐れもあったし、消臭力を生産していた福島工場が被災しており、商品を用意できない可能性も高かった。しかし、こんなときこそ道楽者の心意気を示す時だと決断した。

 エステーの仕事は空気を良くすることだ。湿気取りや脱臭剤はもちろん、消臭芳香剤は部屋の雰囲気まで明るくする。それで会話が弾むこともあるだろう。ミゲル君が出演したCMはCM総合研究所(東京都港区)の好感度調査などで高い評価を受けた。また福島工場の従業員が復旧に急いでくれたおかげで、消臭力の生産も再開でき、売り上げは2割も増えた。これは意図せざる成果だった。

 昨年3月、新本社「STRセンター」が完成した。STRはエステー・リフォーメーションの略で、すべてを変えよう、世の中とは逆さまなことをやろうという思いを込めている。社員間のコミュニケーションを活性化するため、物理的な壁を必要最小限に減らし、業務スペースは自由度の高いフリーアドレス制を採用した。社員同士の会話が弾めば、新たな挑戦が生まれてくると期待している。