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 理由に説得力を持たせるために、現場への調査を通じて根拠となる数値データを収集した。時間をかけてデータを収集したかいあって、「説得力のあるロジックを組み立てることができた」とSマネジャーは自負している。

 SマネジャーはA部門とB部門の担当者に事前に資料を見せて、「部長はこの企画に賛同してくれるだろうか」と尋ねてみた。当然、X部長とY部長には内緒である。担当者は二人とも、「これならボスも了解するのではないか」と答えた。

 根回しも怠らない。X部長とY部長双方の元上司であるC本部長の協力を取り付けた。C本部長は「あいつらが一緒にプロジェクトをやることになったら驚きだ」と言いつつ、Sマネジャーの依頼に応じてくれた。

 ロジックに誤りなし、ファクトデータに不足なし。これならX部長とY部長の協力を得られるのはもちろん、A部門とB部門に目に見える効果をもたらすのは間違いない。その効果は定量的な数値で明確に表れるはずだ。

 こう確信したSマネジャーは、A部門とB部門に対する対応をそれぞれリーダーに任せて、プロジェクトの推進に向けた準備に専念した。

「B部門が参加しないというのが条件だ」

 ところがSマネジャーの予想に反して、いつまでたっても「進展した」との報告がリーダーから入ってこない。2人のリーダーに対して「何をやってるんだ。早く進めろ」と指示したが、状況は一向に進まない。

 説明資料のロジックは完璧で、X部長もY部長も協力を惜しむ理由はないはずだ。なのに、プロジェクトは前進しない。Sマネジャーにとって初めての経験であり、さすがに焦りの色が濃くなってきた。

 Sマネジャーは、まずX部長を説得することにした。A部門だけがプロジェクトに参加すると、A部門が得られるメリットが小さくなるだけでなく、B部門が圧倒的に不利になる。そこで、X部長をまず説得してA部門の参加を取り付ける。次にA部門が参加した事実をY部長に伝え、B部門の参加を促す。こうすれば両部門とも参加してもらえるだろう、と考えたのである。