2015年10月のマイナンバー法施行、16年1月のマイナンバーカードの交付開始から3年が経過した。話題に上る機会が減り、カード普及率は1割強にとどまる。マイナンバー制度は何を成し遂げ、どこへ向かっているのか。設計段階から制度推進の責任者を務める内閣官房の向井治紀氏に、活用の課題と対応策、デジタル行政基盤としての役割や今後の計画を聞いた。
(聞き手は本誌編集長、井出 一仁)
マイナンバー制度の設計時に目指した社会に近づけましたか。
向井 制度の原点は、税と社会保障の公平性の実現です。高齢化が進み負担と給付の緊張関係が高まると、公平性がポイントになります。マイナンバーは、公平性を担保する手段としての役割が最も重要です。
ただ、これは中長期的な目標。個人の所得や資産を基に、どのような基準でどこまで公平性を高めていけるか。課題を一歩一歩、解決していかなければなりません。
残る2つの目標である行政の効率化と国民の利便性向上は。
向井 行政が持つ個人の氏名は漢字だけで読み仮名すらなく、そのため名寄せがうまくいかず、消えた年金問題▼が起こりました。マイナンバーの利用はIT化とセットであり、IT化で行政事務を効率化し、国民の利便性を向上させるわけです。
旧社会保険庁(現日本年金機構)が保有する約5000万件の年金記録の持ち主が分からなくなった事件。2007年に発覚した。
当初予定した社会保障・税分野では、年金はマイナンバーをほぼ100%取得できており、税も9割くらいは対応しています。実際にマイナンバーを使った行政機関間の情報連携、つまり名寄せによって、課税証明書や住民票の提出が不要になるなど、徐々に効果は表れています。
これまで生活保護の申請など社会福祉系の活用が先行していましたが、2019年中には年金分野での連携も始まります。国民年金保険料の猶予手続きなどで、学生にも利便性を実感してもらえるはずです。年金分野への拡大で対象者が格段に広がり、利便性を実感できる人は一気に広がります。制度の当初の目標を徐々に達成しつつあります。
一方で、カード交付枚数は2019年2月時点で1609万枚。人口普及率12.6%と低迷しています。
向井 「マイナンバーの普及が進んでいない」という評価は、マイナンバーカードに対するものです。番号そのものとカード、さらにカードのICチップに内蔵された公的個人認証の電子証明書▼。これらが混同されることが多いのが実情です。まったくの別物であることを、もっとしっかり広報していかなければいけないと思っています。
公的個人認証(JPKI)は、行政手続きの際の本人確認をインターネットを介してオンラインで行う公的なサービス。マイナンバーカードには、署名用と利用者証明用の2種類の電子証明書が格納してある。