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 東日本大震災時に300もの基地局が倒壊したというソフトバンクモバイル。同社は災害からの無線ネットワークの迅速な復旧を図るために、2011年4月に「気球プロジェクト」を立ち上げ、2013年4月には全国主要拠点に10システムを配置するなど実運用体制を築いてきた(関連記事:ソフトバンクが気球活用の無線中継局、災害対策用途で年内に10機配備)。

 同社が開発した“気球基地局”システムは、親機として地上に配置する中継元基地局と、気球に載せた無線中継局(いわゆるリピーター)で構成する。親機とリピーター間は3.3GHz帯の周波数帯を使って無線通信し、電源は地上から有線ケーブルを使って気球上のリピーターに供給する。

 気球基地局システムの特徴は短時間でエリアを復旧できる点、そして通常の鉄塔型基地局と比べて広範囲なエリアを構成できる点だ。設営時間は半日程度で完了するほか、気球は高度100メートルほどの高さまで上げられるため、通常40メートルほどの高さの鉄塔型基地局と比べて、約1.8倍のセル半径を実現できるという。

 そんなソフトバンクモバイルは2014年11月上旬、震災の爪痕がいまだに残る宮城県南三陸町で、新たに進化させた気球基地局システムを報道陣向けに公開した(写真1)。進化のポイントはLTE対応、自動昇降対応などだ。

写真1●ソフトバンクモバイルが宮城県南三陸町で、進化した気球基地局システムを公開した
写真1●ソフトバンクモバイルが宮城県南三陸町で、進化した気球基地局システムを公開した
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長期係留、設置のさらなる迅速化に対応したシステムを開発

 今回の実証実験を進めたソフトバンクモバイル研究本部の藤井輝也本部長は、気球基地局システムを実運用体制とする中で、新たに四つの課題が見えてきたと話す。具体的には、(1)LTE対応、(2)長期係留、(3)設置のさらなる迅速化、(4)沿岸部対策である。

 (1)のLTE対応については、気球基地局を開発した当初はLTEの展開前であり、現在配備している気球基地局も第3世代移動通信システムであるW-CDMA対応のみとなっている。昨今、LTE端末が主流になってきた点、さらには、より周波数利用効率よく広帯域にユーザーを収容するという点でも、今後はLTE対応が不可欠という。

 (2)の長期係留の課題は、現在の気球基地局は風速20メートルほどの風に耐えられるものの、それ以上の風が吹いた場合、気球を降ろす必要がある点である。現状の気球基地局の運用体制は現地での監視が必要であり、気球の昇降にも5人程度の人員が必要になる。1カ月程度など長期係留して運用するには課題が残っていた。

 (3)の設置のさらなる迅速化は、通常なら半日程度で設置可能な気球基地局について、災害時にはさらに短縮した時間での設置を求められるという認識である。

 最後の(4)沿岸部対策は、甚大な被害を受けやすい沿岸部地域で気球を設置した際に考えられる課題への対応だ。このような地域では山の陰が障害となり思うようにエリアを広げられないケースがあるからだ。

写真2●新たに開発した「長時間連続係留システム」の概要
写真2●新たに開発した「長時間連続係留システム」の概要
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写真3●迅速化に対応するために開発した「車載係留システム」の概要
写真3●迅速化に対応するために開発した「車載係留システム」の概要
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 以上の課題に対処するために同社は、今回の実証実験に向け新たなシステムを複数開発した。(2)の長期係留の課題に対応するために開発したのが、遠隔監視制御機能と自動昇降機能を備えた「長時間連続係留システム」だ(写真2)。(3)のさらなる迅速化に対応するためのシステム、「車載係留システム」も新たに開発した(写真3)。そして(4)の沿岸部対策用に、船上に設置した気球基地局でも実証実験を実施した。さらにいずれのシステムにおいても、これまでのW-CDMAからLTE対応へと無線機能をアップデートした。

センサーを各所に用いて自動昇降を実現

 ソフトバンクモバイルが南三陸町で実施した実証実験の中から、まずは長時間連続係留システムのデモの様子を紹介しよう。

 無人で自動昇降制御可能にするために、今回新たにエアチューブで構成した着陸装置を用意している(写真4)。遠隔で制御できるウィンチを使い、人手を介さずに自動昇降できるようにしている。ウィンチを係留する各ローラー部には、張力センサーなど各種センサー類を配置し、自動制御するための工夫を施しているという(写真5)。

写真4●エアチューブで構成した着陸装置を新たに開発
写真4●エアチューブで構成した着陸装置を新たに開発
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写真5●ローラー部には各種センサー類も配置しているという
写真5●ローラー部には各種センサー類も配置しているという
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写真6●ソーラーパネルと蓄電池による電源供給に変更
写真6●ソーラーパネルと蓄電池による電源供給に変更
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 さらに長期係留を可能にするために、電源供給はこれまでの発電機ではなく、ソーラーパネルと蓄電池によるシステムへと変更している(写真6)。

 遠隔で監視制御するための機能も新たに開発した。風速や落雷などを遠隔監視するために、気球内部には風速センターや雷センサーを搭載している(写真7)。このようなセンサー情報をネットワークを介してタブレット端末などから遠隔で確認できるほか、遠隔で気球を自動昇降できるようにした(写真8)。藤井本部長は「被災現場に到着後、4〜6時間で運用可能で、最大1カ月程度連続運用できるメドがたった」と話す。

写真7●気球の内部。リピーター装置のほか監視用の各種センサーも搭載している
写真7●気球の内部。リピーター装置のほか監視用の各種センサーも搭載している
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写真8●遠隔でタブレットなどを経由した監視や制御が可能
写真8●遠隔でタブレットなどを経由した監視や制御が可能
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 続く車載係留システムは、同社がコミックマーケットなどのイベント会場で運用した「車載気球WiFiシステム」を改造したものだ(写真9)。2トントラック内部にあらかじめ半分程度のヘリウムガスを注入した気球を格納。現地に移動後、気球を完全に膨らませて係留するといった運用になる。この運用では、現地到着後、30分から1時間で展開が可能になるという。

写真9●車載気球WiFiシステムを改造した車載係留システム
写真9●車載気球WiFiシステムを改造した車載係留システム
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 最後の船舶における気球係留は、先の長時間連続係留システムを台船の上に設置したものだ(写真10)。「遠方から“気球”を発見すると、不思議と安心感が得られる」(藤井本部長)と、気球のまた違った効果も強調する。

 今回の実証実験では、気球のリピーターに明示的に接続していると分かる端末を使って、ネットワーク経由で動画再生などを試していた。高速なLTE対応の基地局となっているため、動画もスムーズに再生できた(写真11)。

写真10●台船の上に気球基地局システムを設置
写真10●台船の上に気球基地局システムを設置
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写真11●気球基地局経由の通信を端末でチェック。動画もスムーズに再生できていた
写真11●気球基地局経由の通信を端末でチェック。動画もスムーズに再生できていた
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 同社によると今回の実証実験のために取得した試験局免許は2015年10月30日まで。今後も実証実験を進め、システムの実用化を検討していくという。