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集めやすいデータ頼みの分析に警鐘

 脳神経学者、アントニオ・ダマシオの研究に、エリオットという患者が登場する。彼は脳腫瘍の治療のため、脳の一部を切除する手術を受けた。しかし術後、彼の性格は一変。それまで優秀なビジネスマンだったエリオットは、一切の意思決定ができなくなっていたのだ。それが原因で、職と家庭を失うまでに至る。

 ところがダマシオが診察しても、エリオットの知能に異常は見られない。問題があったのは、彼の感情だ。切除した脳の部位が悪かったために、人間らしい感情が失われていたのである。その結果、彼はデータは処理できたものの、そこから決断を下せなくなってしまったのだ。

 この極端な例が象徴するように、人間の行動には感情が深くかかわっている。しかしいくら行動データを集めても、その裏にある感情を見極めるのは難しい。ある人が毎晩10 km走っているデータが得られたとしても、アスリートになりたいと思っているからなのか、体重が気になりだしたからなのかは分からない。

 本書の著者らは、自然科学と人文科学を融合させ、より正確に人間を理解することが必要だと訴える。表面的なデータさえ集めればよいという「データ主義」に陥らず、バランスを取ろうとしているのだ。

 人文科学的なアプローチとはどのようなものか。著者らは、自然科学が「ある男性は1 日3kmジョギングした」という質量や距離など「属性」を持つデータに注目するのに対して、人文科学では「彼は最近体形を気にしており、ジョギングすると体が引き締まると感じている」など、人がその属性をいかに「体験」するかをデータで追究すると説く。