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 民放公式テレビポータル「TVer」を運営するTVerがプレゼントキャストから社名を変更してから約3カ月が経過した。同社は2020年6月30日の取締役会で龍宝正峰氏を代表取締役社長に選定、2020年7月1日には社名をTVerに改称した。

 さらに同社は2020年8月1日に民放キー局5社に対する第三者割当増資を実施、これによって民放キー局5社のTVerへの出資比率はそれぞれ17.9%となり同率の筆頭株主となった。TVerの龍宝社長に新体制への移行や今後の事業方針などについて聞いた。

(聞き手は本誌編集長、長谷川博)

TVer 代表取締役社長の龍宝正峰氏
TVer 代表取締役社長の龍宝正峰氏
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今回の新体制への移行と社名変更の経緯は。

龍宝 民放公式テレビポータルの「TVer」は、テレビ視聴への回帰と違法配信対策を目的に2015年10月にサービスを開始した。これまで順調にサービスを拡充してきたが、爆発的に成長を遂げたと言える水準には至っていない。一方で、2019年にインターネット広告の規模がテレビ広告を上回るという状況の中で、より広告主のニーズに合う広告商品を「TVer」で展開する必要があった。

 「TVer」を爆発的に成長させるにはどうしたらよいか、関係者間で議論したところ、迅速に経営判断を行う体制が必要ではないかということになった。それまではプレゼントキャストが民放キー局5社に対し「TVer」の成長に向けた提案を行うと、各社はそれを社内に持ち帰り1カ月後に返事をするといったスピード感でしか物事を動かせなかった。これを根本的に変えるため、民放キー局5社がプレゼントキャストに対し増資を行い筆頭株主となることで、スピード感のある経営判断ができるようにした。「TVer」のさらなる成長に向けて再びスタートするということで、社名をサービス名と同じTVerに改めることにした。

 新体制の下で、「TVer」の広告媒体としてのポジション確立を目指す。現在はTVerに参画する放送局側がTVerの広告在庫を販売しているが、今後はTVer自身が広告主のニーズに合う広告商品を開発し、販売を進めていく。

 放送局側はこれまで通り、自社独自の見逃し配信サービスなどの広告在庫と合わせて、「TVer」の広告在庫の販売を行う。残った広告在庫をTVerが引き受けるというイメージだ。既存の放送局による広告の商流を残しつつ、新たにTVerの商流を設ける。放送局各社の広告在庫をTVerが取り扱うようにするというのは民放キー局にとって大きな決断だったが、新たな取り組みをしないとどのような形がベストなのか分からないので、チャレンジすることにした。

 プレゼントキャストは放送局側から受け取った運営費を基にして「TVer」を運営するといういわばコストセンターだったが、今後TVerは事業会社となる。TVerが広告在庫を販売し、その売り上げを運営費に充てる。自らビジネスを行って収益を上げ、それを原資にしてさらなるサービスの拡張を目指すというモデルに変更する。2021年4月から事業会社としての活動を開始する。

今後のサービス強化の方針は。

龍宝 まずはキャッチアップサービスの拡張を目指す。今は参画する放送局にコンテンツ数が少ないところが結構ある。放送局とのコミュニケーションを推進し、「TVer」で配信されるコンテンツを増やしていきたい。

 「TVer」のUI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザー体験)をより良いものにするための取り組みも進める。サービス開始から約5年が経つが、これまでにUIやUXに大きな変化は加えていない。ユーザーニーズに徹底的にこだわる形で、UIやUXに対する投資を行う。

UI刷新の方向性は。

龍宝 「TVer」が誰を対象にしたサービスであるかを整理した上で、UIに何が求められているかについての議論を行う。「TVer」を毎日使ってもらえるサービスにするために必要な要素を考える。例えば「TVer」で24時間ライブでニュースを見られるといった要素を加えれば、毎日接触しようと思ってもらえるかもしれない。「TVer」のコンテンツに関する記事を閲覧できるようにして、そこから動画の視聴につなげるといったことも考えられる。何がユーザーのニーズに合うかという視点から検討を進めて、2021年4月にはUIを刷新したい。

同時配信への対応についての考え方は。

龍宝 同時配信に対するニーズがユーザーにあるのであれば、それは当社が必然的に取り組むサービスとなる。同時配信を行うかどうかは放送局各社が決めることだが、TVerとしてはいずれかの放送局が同時配信を実施するという判断をする場合に備え、あらかじめそれに対応できるコンディションを整えておきたい。

仮に地上テレビ放送を行う127社すべての民放事業者が「TVerで地上放送の同時配信を実施したい」と要望した場合、対応できるのか。

龍宝 実現できるかどうかは分からないが、2021年4月までにそうした要望に対応できるコンディションを整えておきたいという気持ちはある。

「TVer」で配信するローカル局発のコンテンツの数は今後増やすのか。

龍宝 ユーザーのニーズがあるかどうかによる。ニーズがあるのであれば増やしていきたい。個人的な意見になるが、ローカルコンテンツには少なくともある程度の需要があると考えている。

「TVer」に参加するローカル局を増やす必要が生じた場合、どのような対応を行うのか。

龍宝 ローカル局と今以上にコミュニケーションをとって、何を求めているのかを把握したい。ローカル局のコンテンツをより見やすくする環境をどのようにして作るかについても考える必要がある。その上でTVerにおけるビジネスモデルをローカル局各社に提示できるようになれば、状況は変わるだろう。より多くのローカル局の「TVer」への参加はコンテンツの多様化につながる。どういう体制にすればローカル局が参加しやすくなるか、模索していきたい。

2019年秋から「TVer」などのキャッチアップサービスの視聴中に掲載されるインストリーム動画広告のマーケットプレイス「TVer PMP」が稼働している。

龍宝 「TVer PMP」は民放キー局5社がベンダーと共同で開発した。今は民放キー局5社とベンダーが契約を結び共同でTVer PMPを提供しているが、これを2020年11月にTVerがベンダーと契約して展開する形に改める予定だ。この体制でのTVer PMPを通じての運用型広告の販売のトライアルを2020年11月に開始する。2021年4月に販売を本格化する予定だ。

NHKとの関係強化についての考え方は。

龍宝 動画配信のインフラをNHKと一本化すべき、という意見もあるようだが、現実的には難しい。NHKには番組とともに広告を配信するという発想はない。このためNHKの動画配信のインフラに民放が相乗りするというのは考えにくい。

TVerのMAU(Monthly Active Users)は2020年3月に初めて1000万を超えた。

龍宝 将来的にはTVerのMAUを3000万以上にしたい。YouTubeのMAUは6000万程度と聞いており、その半分の3000万MAUは1つの目安になると考えている。

 今後はMAUに加えて、視聴アプリを立ち上げたりパソコンでTVerのトップ画面にアクセスしたりするといったコンテンツ再生前の段階である月間接触者の数も目標値として意識していきたい。2020年度中に月間接触者の2000万超えを目指す。

TVerの社長として今後民放各社とどのような関係を構築していくのか。

龍宝 かつてはテレビ番組の伝送手段は放送波だけだったが、それにインターネットなどが加わった。伝送手段は異なるが放送と同じコンテンツを提供しているという点で、「TVer」はテレビそのものといえる。放送と「TVer」は一体化しているという意識を放送局と共有した上で、「こういう取り組みを進めよう」と互いに提案できる関係を構築したい。当社は民放キー局5社の増資により、放送局中心の会社となった。放送局と一緒に、テレビの未来を広げるポジションにいると考えている。