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技術者がやりがいを持てない2つのパターン

 その本質的な話の前に、多くの技術者が仕事にやりがいを持てない状況について、2つのパターンを指摘しておこう。まず、今やっている仕事がどんな意味があるのかが見えないパターンだ。つまり、自分が仕事においてどんな価値を提供しているのか、はたして顧客や社会に貢献できているのかがよく分からない状況に置かれることだ。

 「そんな状況などあり得ないでしょ」と思った人は、ユーザー企業のIT部門やSIerなど多重下請けのピラミッドの上部にいる技術者だろう。ピラミッドの底辺の下請けベンダーに所属する技術者なら、金融機関のシステム刷新など大規模プロジェクトに駆り出された時に日々感じているはずだ。

 大規模なシステム開発では、IT業界の多重下請け構造がフル回転する。2次請け、3次請けは当たり前、5次請け、6次請け…と多数の下請けベンダーが巨大システムの一部分を開発する。そこで働く技術者は、自分が手掛けているモジュールにどんな意味があるのかも分からず、コーディングに明け暮れる。システム全体が分かれば、自分の仕事の意義や貢献度も見えてくるはずだが、そんな機会は皆無に近い。

 もう1つのパターンが、貢献に対して正当な評価が得られないこと。別にカネだけの問題ではないが、ビジネスにおける価値の等価交換の原則に従えば、仕事での貢献は報酬額によって測られる。つまり、自分の貢献に見合う給与が得られなければ、正当に評価されていないと感じる。同じ現場で同じように働いても、所属するITベンダーによって給与水準が決まってしまうから、特に下請けの技術者はそう強く感じる。

 どちらのパターンであっても、やりがいを持てない状態で、デスマーチとなり過酷な長時間労働を強いられたら、誰だって体を壊したり、心を病んだりする恐れが出てくる。仕事なのだから厳しい状況を乗り越えなければならないことも多いが、少なくとも自分が何らかの価値を提供し、顧客や社会に貢献しているのだという実感がなければ、バカバカしくてやっていられないだろう。