そのシステム、価値が無いどころか…
無用の開発に動員されていては、技術者が仕事にやりがいを感じる前提が失われてしまう。なんせ、価値の無いものを作っているのであれば、その仕事自体が無意味なもの、無価値なものになってしまう。ERPのカスタマイズのような顧客の無意味な“趣味直し”に付き合わされていれば、技術者が全くやりがいを持てなくて当然である(関連記事:技術者不足のウソ、「趣味直し」のような開発をやめれば人は足りる)。
そもそも無価値なソフトウエア、無用のアドオンは、顧客にとっては無駄な出費。本来なら、SIerは顧客を説得して、そんな無意味な企ては止めさせなければならない。だが、そこは御用聞き商売、人月商売の哀しさ。「馬鹿げている」と内心では思ったところで顧客が「作れ」と言えば、もみ手で引き受ける。SIerや下請けベンダーは料金を膨らませることができるが、技術者にとっては単なる徒労である。
しかも、この無価値なソフトウエア、顧客の「趣味直し」の部分こそが、開発プロジェクトを破綻させ、技術者をデスマーチに引きずり込む諸悪の根源だ。本来、システムに対象化される業務プロセスもソフトウエア自体も可能な限りシンプルであるべきだが、余計な要件が入り込みグチャグチャなうえ、複雑怪奇な要件も細部では曖昧であったりする。その結果、技術者は無意味かつ過酷なデスマを歩まざるを得なくなる。
さらに言えば、無価値なソフトウエアで構成されるシステムは、無価値どころかマイナスの影響を及ぼす。ERPがアドオンモンスターと化せば、その時点で業務改革は失敗だが、非効率な独自の業務のやり方をアドオンにより長期にわたり固定することになる(関連記事:変革のためのIT、現状固定のIT 大間違いが日本企業を2周遅れにする)。要求通りに作ったとはいえ、技術者はマイナスの価値を顧客に提供したことになる。
冒頭に書いたように、自分の仕事が誰かのためになっているとか、社会に役立っているとかを実感できると、人は働くことが楽しくなる。だが、現在の御用聞き商売、そして多重下請け構造を活用した人月商売は全くの逆だ。その中にいる技術者の皆さんには、ぜひとも「変革のためのIT」など顧客や社会に大きな価値を提供する仕事に就いてもらいたいと思う。