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前回の投稿に引き続き、今回の投稿のテーマも、大企業や政府機関におけるイノベーションです。今回は、企業や政府機関でイノベーションを起こすには、文化の変革も必要という話題が中心です。(ITpro)

 今年(2015年)になって私は、リーン方式を採用し適用しようとしている、大企業や政府機関と共に作業してきました。私がこれまで学んだことは、本連載の第124回第125回第132回第133回第135回のブログで説明し、「企業や政府機関における50倍速のイノベーション」のスライドショーにまとめてあります。

 私が出会った、興味深いイノベーションへの挑戦の1つは、企業文化を中心にした事象でした。ぜいたくなことに、スタートアップ企業では、企業価値や企業文化をゼロから作ることができますが、企業発イノベーションを再び興したい既存企業では、時には、深く根強い既存の企業文化を再起動させなければなりません。それは簡単な作業ではありませんが、既存の企業文化を変えなければ、企業が試みるいかなるイノベーションも頓挫するでしょう。

企業イノベーションには、イノベーションの文化が必要

 既存企業でのイノベーションとは、素晴らしい技術や重要な買収、優れた人材を、ただ単に足し合わせたものではありません。企業イノベーションには、それに適応し支援する文化が必要です。往々にして、これは既存企業の文化を変更することを意味します。社員が持っている、既存の価値観と信念を手放し、新しい価値観と信念を植え付けるのは、大きな挑戦と言えるでしょう。

 多くの場合、企業でのイノベーション構想は、取締役会でCEO(最高経営責任者)にその実行を委任し、CEOから関係者に対して一連の通達が出され、多数のポスターが掲示され、1日だけのワークショップが催されることで始まり、そして終わります。これは「イノベーション劇場」を生み出しますが、現実のイノベーションはほとんど起こりません。

 マッキンゼーのコンサルタントである、テリー・ディール氏とアーサー・ケネディー氏は「企業文化:企業人生での慣例と儀式」(原題:Corporate Cultures: The Rites and Rituals of Corporate Life)という本を書きました。この本で彼らは、全ての企業には文化があると指摘しています。すなわちその文化とは、「我が社のやり方」を簡潔に表現したものです。企業文化には、4個の基本項目があります。

・価値/信念――全ての企業活動の基本方針を決める、企業の存在理念
・逸話/神話――創業者や従業員が、障害をどのように乗り越え、新しい注文を取りつけたか
・英雄――どのように表彰や賛美されたのか、この企業で英雄になるには、どうすれば良いか
・儀式――企業は、何をどのように賞賛するのか

企業文化の威力

 私は、3番目に関わったスタートアップ企業のConvergent Technologiesで、企業文化の威力を初めて理解しました。このクレージーなスタートアップ企業で働く価値と基本理念とは、「私たちは、シリコンバレーの海兵隊」というモットーに凝縮されています。「技術分野における海兵隊に参加する」に興味がない人は、応募しませんでした。もし興味を持った人(典型的には、20歳ぐらいのマッチョな男性)がいれば、彼らは競って入社しました。

 私が入社したときには、既に「不可能に見えた商機を勝ち取った」とか「自分でイノベーションをやり遂げた」との逸話が山積していました。創業者たちは 、最新のインテルのマイクロプロセッサーを積載した、1枚の回路基板のコンピュータを単に製造することから、オペレーティング・システム(OS)とオフィス・アプリケーション付のデスクトップ・ワークステーション(パソコンの先駆けとなる製品)を、他のコンピュータ企業に販売する方向にピボットした、と伝えられていました。加えてCEOには、「私たちは興味がない」という顧客を、ホワイト・ボード1枚で「4500万ドルの受注」にピボットさせたという逸話もありました。

 それ以降の、主なコンピュータ企業との取引(数1000万ドル単位の取引)は賞賛され、営業部員は英雄として祝宴で敬意を表されました。通常の販売条件を超えた場合(それはほとんど全ての取り引きが該当)には、特注の技術支援が必要になり、エンジニアたちも英雄として扱われました。加えて、マーケティングチームが深夜航空便で営業部員を支援したとき(それは、頻繁に行われました)には、彼らが英雄になりました。

 最後に、多額の受注には独特の儀式と祝宴がありました。ベルや太鼓が鳴ったのです。CEOが100ドル札を手渡し、2万5000ドルの即席のボーナスを与えたのは、その後何年も語り伝えられました。CEOはあるとき、新製品を予定通りに出荷することを奨励するため、会社の正面ホールの壁にスプレーで絵を描き始めました(あまりにも突拍子もないことなので、言葉には表せませんが、30年経った今でも覚えています)。

 私の肩書き、名刺、職務規定が、私の業務内容が何かを伝えていましたが、こうした文字にはならない価値、逸話、英雄、儀式を通じて、自分の職務に期待された行動とは何かを知りました。