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 日本企業の強み、あるいは日本人の長所とされてきたものが、ビジネスのデジタル化やグローバル競争の激化に伴い「今や弱み・短所に変わった」と断罪され、危うく葬り去られるところだった。何のことかと言うと、製造業なら“匠の技”、サービス業なら“おもてなし”、日本人が持つ細部へのこだわりや細やかな心遣いといったことだ。

 最近まで続いた失われた20年の間に、日本企業や日本社会は本当に様々なものを失った。例えばテレビ産業。アナログの時代には、日本の家電メーカーは映像の“官能に訴える美しさ”をとことん追求し、比類なき競争力で世界を席巻した。ところが、デジタル化により、その官能に訴える美しさがLSIに実装され、まねができるものになった。その結果、韓国企業などに市場を奪われ、日本の家電王国は崩壊の憂き目を見た。

 一方、アナログの世界に残った仕事は、日本企業の高コスト体質の象徴となった。高い生産性を持つはずの工場で造る過剰品質と過剰機能の製品、人手と手間をかけた過剰なサービス。こうした製品やサービスは高コストのため、世界規模で効率化経営を追求するグローバル企業との国内外での競争に勝てない。追い詰められた企業はリストラに踏み切り、匠の技やおもてなしの心を持つプロを、社外に放り出すしか手が無くなった。

 だが、そこまでしても人件費などのコストが相対的に高い国内では、抜本的な解決にならない。そこで大手製造業は海外を目指し、国内に残った製造業やサービス業は、正規雇用から非正規雇用への切り替えなどでコスト削減を追求した。働く人の待遇が不安定になる中で、匠の技やおもてなしの継承者は一時、絶滅の危機に瀕した。