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 昨今の企業におけるICT システムの位置づけは,効率化のための道具から,戦略的な武器へと変わってきている.これに伴い,要件定義の難易度が増している.経営や業務に対する価値を考えながら,業務自体を改革/改善でき,システム活用を具現化できる人材が求められている.この人材を本稿ではビジネスアナリストと呼ぶ.ビジネスアナリストとして何をすべきか,何を知っているべきかについて,これまであやふやだったが,REBOK やBABOK の登場によって体系化された.REBOK やBABOK は名前に「BOK」とあるように知識の体系であり「何を」すべきかをまとめたものである.これらを実践で活かすには「どのように」アナリシスするかというHow-to を可視化することも重要である.富士通は2011 年にTri-shaping(トライシェイピング)を発表した.これは弊社が今まで培ってきた実践ノウハウや考え方を集大成してまとめあげたものであり,REBOK やBABOK の実践ガイドブックに相当するものである.本稿では,Tri-shaping を実践する中で現場で見聞き感じてきたユーザ企業の課題認識や実践事例とそこから見える知見や要件定義を成功させるポイントについて述べる.

1.はじめに

 昨今の企業におけるICTシステムの位置づけは,従来のような手作業を機械化する効率化のための道具から,経営や業務に貢献し,競争優位を築く戦略的な武器へと変わってきている.これに伴い,要件定義の難易度が増している.ICTシステムを構築する以前に,価値を見極めて経営や業務に貢献する要求をまとめたり,ユーザ部門の課題や業務を整理し,可視化し,一緒に新たな業務を考えたりできる人材が求められている.REBOK[1] やBABOK[2] が脚光を浴びているのもそういう背景であろう.両者はビジネスアナリストとして何をすべきか,何を知っているべきか,あやふやだったものを体系化した.これらにより,ビジネスアナリシスや要求工学の認知度が高まり必要性がアピールできてきている.ただし,これらは名前に「BOK」が付いているとおり知識の体系であり,「何を」すべきかをまとめたものである.知識を実践で活かすには,対象を「どのように分析するか」というHow-toを可視化することも重要である.

 富士通は,2011年に要件定義手法Tri-shaping(トライシェイピング)[3] を発表した.これは,要件定義のノウハウやコツを集大成したもので要求アナリストのいわば実践ガイドブックである.本稿では,現場で見聞き感じてきたユーザ企業の課題認識とTri-shapingの基本的な考え方を述べた上で,実践事例とそこから見える知見や要件定義を成功させるポイントについて述べる.

2.課題認識

 システム開発における障害原因の多くは要件定義工程に起因している[4].これは,今に始まったわけではない.IPA-SECなどはこれら状況を打破すべく対策を講じてきた.2006 年に提示された「超上流から攻めるIT化の原理原則17 ヶ条(IPA-SEC)」[5] は,要件定義を成功させるためにはユーザ企業が主体となって進めるべきであると提言している.これは,ICTシステムの目的が手作業の機械化で済んでいたときには,SI ベンダ主体でもよかったが,業務やICTシステムに対する要求が複雑になってきた昨今ではユーザ企業主体でなければ要件定義をまとめきれないということを示している.2006年から6年たったが,要件定義の品質は向上したのであろうか.図1は日経コンピュータのアンケート結果である[6].

図1●システム品質の現状[6]
図1●システム品質の現状[6]

 このデータを見るとシステム品質の向上は見られるものの,要件定義でやるべきことがまだ残っているということが伺える.以下で,要件定義の品質の問題とその真の原因を考察する.