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 高度な運転支援システムを開発するためには,運転者の不満や不安を解消して,安全を守るための要求分析を行う必要がある.我々は,運転支援システムを,運転者の満足というポジティブな感情と不満足といったネガティブな感情によって評価するために,サービスの顧客満足度を分析する手法であるカスタマー・ジャーニー・マップとサービス・ブループリントを統合して,多層型シナリオ分析手法を開発した.多層型シナリオ分析では,顧客がサービスを享受した際の経験と感情を表す顧客層,サービスを変化させるイベントの発生者である環境要因からなる環境層,顧客に提供されるサービスの提供者であるシステム層の3つの層からなるシナリオを用いる.本論文では,この手法を用いることによって,運転者の不満の原因を解消するための改善要求を抽出できることを,具体的な事例を用いて示す.

1.はじめに

 サービスの開発では,競合する市場で勝ち抜くために,顧客の価値・満足度の向上に向けた改善・改良が日々図られている.顧客の満足度は,SQuaRE (ISO/iEC 2501n)[16],[17],[18] の利用時品質の中の満足性として評価される.しかし,SQuaREの中では,要求の満足をどのように定義し,その達成度をどのように評価するかは具体的に示されていない.したがって,サービスの顧客満足度を評価するためには,そのサービスに顧客がどのような満足を感じるかを分析し評価する手法が必要である.

 自動車のクルーズ・コントロール・システム(CC:Cruise Control) は,自動車の走行速度を一定に保つ運転支援システムの1 つである.CCではCCがサービス提供者になり,運転者がサービスの顧客となって, CCから運転者に対して,速度制御に関する複数のサービスが提供される.このシステムでは,サービスの開始,終了,加速,減速など,CCが提供するサービスの種類は顧客から発せられるイベントによってのみ決定される.運転者が自動車の速度だけを監視するCCによるサービスを享受しているときに,どのように運転者の感情の起伏が変化するかを分析すればサービスの質を評価することができると考える.

 しかし,自動車の高度な運転支援システムのサービス構造は,運転者が発するイベントに対してサービスを提供するという単純なサービス構造にはなっていない.たとえば,先行車との車間距離を保ちながら速度制御を行うアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC: Adaptive Cruise Control) や,車線逸脱時に注意を促す車線逸脱警報(LDW: Lane Departure Warning)などのサービス構造は,CCよりも複雑である.なぜならば,これらのシステムによって運転者に提供されるサービスは,運転者の活動のほかに,自動車を取り巻く環境の状態の影響も受けるからである.たとえばACCの場合,自動車の速度のほかに先行車との車間距離がACCのサービスに影響を与える.また,LDWの場合には,車線がLDWのサービスの監視対象となる.さらに,ACCやLDWは,天候が悪化することによりセンサの能力が低下し,先行車や白線を認識できなくなることもある.そのため,天候の変化もサービス内容に変化を与える事物として考慮しなければならない.

 将来提供される高度な運転支援システムは,周辺の自動車や標識,信号機など,さらに多くの交通環境の状況をシステムが判断することになろう.ここで,運転支援システムにおけるサービスの高度化とは,適切な運転支援サービスを運転者に提供するために,自動車の状態や自動車を取り巻く状況に関する多くの情報を収集して運転を支援するサービスを言う.本論文では,運転者以外にサービスの内容に変化を与える事物や事象をサービスの環境要因と言う.