このコラムと同じく月曜日更新の「木村岳史の極言暴論!」。日経コンピュータ元編集長の木村 岳史さんが、ITベンダーに毎回とても厳しい話を書いています。SIビジネスをやってきた立場からすると、「確かに」と認めざるを得ない指摘も多いのですが、その一方で木村さんにお叱りを受けるようなダメなITベンダーばかりでもないとも思っています。
そうならないためにはすべきことがあります。私は「顧客RM」を通じて顧客とゴールを共有することがITビジネスの現場で大事なことだと考えています。RMとはリレーションマネージメントの略で、IT業界では営業の場面でよく使われる言葉です。証券会社では同じ行動を「外交する」とよく言います。要するに顧客に直接会いに行くことです。
証券ビジネスとITでは仕事の仕組みが違いますので、私たちのRMと証券会社の外交はちょっと違っています。けれども共通するのは顧客のキーマンに直接お会いして、目の前の課題や今後のことを相談することです。恐らく業界や会社ごとにニュアンスは異なるものの概ね同じような意味の言葉があるはずです。そしてそのゴールは顧客の意思決定を動かすことだと思います。
なぜ顧客RMがITビジネスにとって重要なのでしょうか? 顧客RMを通じて顧客の本当のゴールやフラストレーションを理解することができます。そしてそこから顧客のための活動を組み立てていけば、顧客と私たちが一つのチームとなってITを運営していけるようになっていくはずです。
RMを顧客の意思決定につなげていくためには、それなりの活動が必要です。顧客の部長が意思決定するのであれば、こちらも部長と対等に話ができる誰かがあたらなければなりません。 顧客の役員の判断が必要ならこちらも役員のRMが必要です。
当たり前の話ですが、大企業の役員に判断してもらうのに、下っ端の担当者がのこのこ出掛けてもダメです。会社対会社、組織対組織の付き合いをどう作っていくか、それがRMの核心なのです。つまり、RMは役職者だけが考えるものではなく、チームリーダーにはチームリーダーの、PMにはPMとしてのRMがあります。下の階層でのRM経験を通じてやがて全体を見渡したRMができるようになるのです。
私自身も、見よう見まねでRMを覚えてきました。元々はコンサルタントでしたので、その頃は仕事自体がRMそのもののようでした。新人のときから顧客の意思決定につながる報告がゴールでしたし、報告相手は、少なくとも20歳年上の部長クラスでした。システム部門へ移っても顧客やベンダーとのRMを試行錯誤でこなしてきました。
後から振り返ると1人で仕事が完結するコンサルタントのRMは一番簡単でした。システム部門でも小さなグループのリーダーだった頃は顧客との関係も単純でした。私の目の前に顧客のキーパーソンが常にいましたから、顧客が望んでいることを私が理解するのは比較的容易でした。
ところが責任範囲が広がって、組織が大きくなっていくと顧客の数も増えるし、こちらのやっていることにも目が届かなくなります。部下から報告を受けても、それがどこまで正しいのか分かりません。放置しているといつの間にか知らないところでとんでもないことが起こり始めます。