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 前回解説した行動観察から、顧客に関する多様な情報を入手できたはずである。続いて収集した情報を整理分類してそこから仮説、あるいは洞察、もっと格好よく言うとインサイトを得ることが重要になる。

 デザイン思考では、そのための手法として「共感マップ」や「ストーリーボード」を利用する。今回は前者の共感マップについて解説した上で、とかく定義が曖昧な「洞察」や「インサイト」という言葉の意味についてもはっきりさせたい。

現象の背景にあるもの

 ここにタブレット端末があると考えてもらいたい。恐らく多くの開発者は「自社のタブレット端末を他社と差別化するにはどうすべきか」と考えているに違いない。

 こうした問いを立てた開発者は、他社のタブレットを分析して、そこにはない機能や仕様を探し出すかもしれない。このような態度は、分析や評価を基準にしていることから、左脳的アプローチと言えるだろう。一般的によく見る態度である。

 では、上記の問いを別の視点で言い換えてみよう。例えば「顧客にとって優れたタブレット端末の体験とはどのようなものだろう」というように。

 この二つの問いを比較してもらいたい。前者が開発者側の立場から発する問いだとしたら、後者はより顧客に寄りそった問い、顧客の経験という「現象」に着目した問いと言えるだろう。感情的な共感を優先するから、右脳的アプローチと言ってもよい。

 では、もう一つ別の例を考えてみたい。あるシステム開発会社のエンジニアが、「顧客にとって使いやすいシステムを構築する方法は?」と考えているとしよう。

 彼の問いは一見顧客寄りである。しかし、顧客に寄りそうにはさらにもう一歩踏み込むことが欠かせない。つまり「顧客が持つシステムの素晴らしい使用体験とはどのようなものか?」というように。

 実は行動観察から見付け出すべきポイントとは、製品やサービスが本来持つべき素晴らしい体験と現実のギャップだ。そのギャップから生じるのは、行動観察が浮かび上がらせた「隠されたニーズ」と言い換えてもよいだろう。この隠されたニーズを探り当てるために活用するのが、ここで紹介する「共感マップ」である。

共感マップはこうして活用する

 共感マップは米IDEOが開発した情報整理の手法だ()。共感マップは四つのマスからなるマトリックスをベースにする。それぞれのマスには次のような意味がある。

図●共感マップ。「人々が言っていること」「人々が行っていること」「人々が考えているであろうこと」「人々が感じているであろうこと」という四つの視点で情報を整理する
図●共感マップ。「人々が言っていること」「人々が行っていること」「人々が考えているであろうこと」「人々が感じているであろうこと」という四つの視点で情報を整理する
出典:トム・ケリー&デイヴィッド・ケリー『クリエイティブ・マインドセット』(2014年、日経BP社)を基に作成
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 まず、左上のマスは「SAY」で、これは「人々が言っていること」を意味する。次に左下のマスだが、こちらは「DO」の領域で「人々が行っていること」を示している。

 右上は「THINK」で「人々が考えていると思われること」、そして最後の右下のセルは「FEEL」で「人々が感じていると思われること」を示している。

 このように、左側には行動観察で得た事実の情報を「言っていること」と「行っていること」に分類して記述する。また、右側は観察者が体験の中から得た推測の情報を「人々が考えているだろうこと」と「人々が感じているだろうこと」に分類して記述するわけである。