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 2017年1月末から2月初めにかけて日本経済新聞の一面に掲載された記事『AIと世界 気がつけばそこに』をお読みになっただろうか。連載中、筆者は朝一番に読み、毎回うなっていた。次のような記述が散見されたからだ。

 「AIも私を愛してくれている。人間がこう信じられるならば、人間同士の相思相愛と大差ないとは言えないか」

 「時に過ちを犯す人間の限界を、合理的なAIでうまく補えないか」

 朝起きてすぐに読み、「日経一面になぜ載せるのか」と思ったものの、食後のコーヒーをすする頃になると頭が回り出し、「相思相愛は幻想という深い主張ではないか」「時に過ちを犯す人間が作ったAIを合理的だと信じる根拠は何か」などと考え始め、考えても結論が出ないので、うなってしまった。

 こういう難問はともかく、AIとビジネスの関係をどう考えるかと聞かれたら、筆者の回答は「人工知能は仕事を奪える、だが人間を超えられない」というものになる。これは日経コンピュータ2016年5月2日号に書いた記事の題名である。その記事に加筆し、『社長が知りたいIT 50の本当』という書籍の巻頭に収録した。以下に再掲し、いくつか注記してみたい。

 クラウドコンピューティングやビッグデータといったIT(情報技術)関連の話題に関心を持たない社長であっても、AI(人工知能)には興味があるはずだ。囲碁や将棋を好む社長は多いから、コンピュータがプロ棋士に勝ったと聞けば気にはなる。

 また、トヨタ自動車の経営を注視する社長は多いから、同社がAIに今後5年間で10億ドルを投資すると聞けば、一体何をするのかと興味を持つだろう。

 このところマスメディアはAIについて大きく報道している。朝のニュースに接した社長が社内でITの責任者を見かけたとき、「AIは当社にどう影響するのか」と声をかけてくる可能性はある。

 「このところマスメディアはAIについて大きく報道している」と書いたのは2016年4月のことだが、それから1年近く経ち、マスメディアの報道はさらに大きくなっている。

 新しいことを始めるのが好きな社長か、なかなか決めない社長か、それによって答え方は変わってくる。前者なら「AIは応用段階に入っており、当社であればこういう事業に使える可能性があります」となり、後者なら「AIはまだ研究段階であり我々が取り組むのは時期尚早です」となる。

 実際には応用段階なのか、研究段階なのか。AIは色々な技術を含んでおり、ある部分は応用段階であるが、別の部分はまだ研究段階にある。さらに言えば、まったくの空想段階のAIもある。

 AIと結婚したり、AIに政治を委ねたりするのは「まったくの空想」だが、空想が悪いわけではない。もちろん、空想だけではビジネスにならない。

 AIが今、ここまで話題になっている理由は大きく2点ある。まず、画像や文章あるいはゲームの差し手といったデータをコンピュータで扱えるようになってきた。従来は一定の書式にそって記述された数値や文字データが対象だったが、構造が整理されていないデータであっても処理が可能になった。次に、処理を繰り返すごとに賢くなる機械学習(深層学習)という技術が成果を上げ始めた。

 話を単純にするなら、AIについて積極策をとる場合、自社が取り組める新しい応用分野をいち早く見つけ出し、そこで機械学習を繰り返し、応用分野における知識を獲得、蓄積していくことになる。

 今読み直すと当たり前のことしか書いていない。では新しい分野とは何か。