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 まず題名の説明から始めたい。よく似た題名の記事を2017年3月30日、本欄で公開したからだ。

 3月30日付記事の対象企業は「日本のユーザー企業」であった。対象とした人は「ITのプロフェッショナル」で国籍は問わない。といっても日本企業の話だからまず日本人になる。

 これに対し、今回の対象企業は「世界のIT企業」、主に米国や欧州に本社を置くIT企業を指す。対象者は日本人で職歴や受けた教育は問わない。

 IT企業は「ITproによく登場する企業」とする。グーグルやフェイスブック、アップルやマイクロソフト、オラクルやSAP、IBMやHPなどである。これらのIT企業でCEO(最高経営責任者)に直接、業務報告している日本人は極めて少ない。

 例えば営業のラインを見ると、全世界の営業を統括する幹部の下に、アジア太平洋地域(APと呼ぶことが多い)の責任者がおり、さらにその下にAP諸国の現地法人トップが就く場合が多い。日本法人の社長はAP責任者に報告することになる。製品やサービス事業のライン、研究開発のラインについても同様の形になっている。

 欧米に本社を置くIT企業だから欧米人が経営幹部を占め、日本人は入れない。日本企業の経営幹部に日本人しかいないのと同じで仕方がない。こう思う方がおられるだろうが、インドやチャイナの出身者を経営幹部に迎えている欧米IT企業は少なくない。AP統括部門をシンガポールに置き、責任者を日本人以外のアジア人に任せる場合も結構ある。

世界のIT企業で最も出世した日本人

 筆者が知る限り、世界のIT企業で最も出世した日本人は日本IBMで社長と会長を務めた北城恪太郎氏(現・相談役)である。そのことを書いた日経コンピュータ1999年11月22日号の記事を紹介する。

米IBMが戦略的な人事異動
IBM AP社長に北城氏が就任

 記事題名に入れた「戦略的な人事異動」とは分かるようで分からない。「戦略的」という表現はよほどの場合を除き使わないほうがいい。北城氏がAP統括会社の社長に就任したことを報じた記事なので「日本人を抜擢」と書いたほうがよかった。では記事本文を再掲する。

 日本アイ・ビー・エムの北城恪太郎社長が11月15日、日本IBMの上部組織に当たる「IBMアジア・パシフィック(AP)」の社長に就任した。北城社長は今後、アジア太平洋地域19カ国におけるIBMの事業を統括する。日本IBMの悲願だった、日本人のIBM APトップ就任が初めて実現した。

 11月15日とだけ書いてあり年号の記載がないが1999年のことであった。

 「今朝、日本IBMの社員に向けて今回の人事を発表した。社員は皆、非常にエキサイトしていたね」。米IBMの全世界の営業部門を統括するウィリアム・イサーリントン上級副社長は11月2日、北城日本IBM社長のIBM AP社長昇格を発表した記者会見を終えて、こう語った。

 実際、日本IBM社員にとって、北城IBM AP社長誕生はビッグ・ニュースだった。日本IBM出身者が過去最高のポストについたからだ。常に冷静な北城社長も11月2日の発表会の後、「とにかく、やるぞ、という感じだ」と語り、強い意気込みを見せた。

なぜか記者会見の記憶がない

 上記を読むと筆者は記者会見に出席し、会見直後にイサーリントン氏や北城氏に近づいてコメントをもらったようだ。実は会見に出席した記憶が皆無なので「ようだ」と書いた。

 17年以上も前の出来事だから忘れたとは言えない。それより前の1992年10月、北城氏の日本IBM社長昇格が発表された記者会見の模様は今でも覚えている。

 IBM AP社長就任に伴い、北城社長は12月1日付で日本IBMの代表取締役会長に就任する。後任の日本IBM代表取締役社長には、大歳卓麻常務が就く。社外から見ると、「日本IBMの社長交代」に焦点が当たりがちだが、日本IBM社内は北城AP社長の誕生でわきかえっている。

 細かいことだが「社外から見ると」と書いている以上、「焦点が当たりがちだ」ではなく「焦点を当てたくなる」「目がいきがちだ」と書くべきだった。日本IBM社内が「わきかえっている」は「わきかえっているという」と弱めたほうがよかった。日本IBM社員から裏をとったので言い切ったのかもしれないがやはり記憶がない。

 今回の人事は、米IBMが11月に、「TelWeb」と呼ぶ戦略組織を発足させたことに連動している。TelWebは、電話を使うコールセンター部門やIBMのWebサイトを統括する部門をすべて集めたもの。電話やWebを駆使した営業活動と顧客サポートを担当する。営業担当者とエンジニアによる、直接販売・直接サポートを中心にしてきたIBMにとってTelWebは非常に重要な意味を持つ。

 TelWebのゼネラル・マネジャには米IBMのCFO(最高財務責任者)だったダグラス・メイン上級副社長が就任した。メイン上級副社長の業務報告先は、ルイス・ガースナIBM会長兼CEO(最高経営責任者)から、イサーリントン上級副社長に替わる。イサーリントン上級副社長によれば、TelWebの人事は、「ストラテジック・プロモーション(戦略的な昇格)」という。

 上記の記述では分かりにくいが当時筆者は「メイン氏は降格した」と日本IBM関係者から聞いていた。CEOに直接報告していたCFOが営業総責任者(イサーリントン氏)の下に異動し、コールセンターの責任者になる異動だった。

降格か、戦略的な昇格か

 イサーリントン氏に確認したところ上記のように言われてしまい降格と書けなかったらしい。真実は分からないが、降格だったと筆者は思っている。

 ただし「ストラテジック・プロモーション」が嘘かというとそうではない。「営業担当者とエンジニアによる、直接販売・直接サポートを中心にしてきたIBMにとって」電話による販売・サポートには確かに「ストラテジック」な意味があった。