この時の技術が、後の「グランツーリスモ」の元になりました。グランツーリスモは車体への映り込みまで再現した美麗なグラフィックス、登場する各車の重さ、サスペンション特性、エンジンの特徴などの個性を再現したゲーム性によって、世界的な大ヒットとなりました。その実現には今回紹介した数学的なテクニックが使われています。使われていなかったのはたぶん確率くらいだと思います。
もちろん、数学が面白いゲームに直結するわけではありません。しかし、数学という手段を開発者が自分の道具箱の中に持っているかどうかで、その仕事ぶりは大きく変わってきます。どんなソフトウエアでもそうですが、特にゲーム開発は試行錯誤の連続です。どんなに立派な設計を行ったとしても、面白くなければ何の意味もありません。作ってみたものがつまらなければ作り直す。その繰り返しで完成に向かっていきます。
その際に、開発者が手元にある技術的な選択肢が少なければ、この作り直しに向かう勇気がそがれることでしょう。最悪の場合、取りあえず完成したのだが面白くないゲームが発売されることになります。
ゲームを面白くするには、企画者によるゲームデザインや、魅力的なキャラクターデザインも重要ですが、プログラマが様々な手段を自在に使いこなす軽さを持つことも重要です。それは、複数のプログラミング言語やフレームワークが使えることでもあり、プログラミングばかりではなく数学、物理、光学などの考え方やテクニックを持つことでもあります。
日本のビデオゲームにおける一大勢力である「RPG」(ロールプレイングゲーム)。もともとはアメリカで生まれたボードゲームが原型です。あらかじめ決められた世界のルールとキャラクターの属性、サイコロによる偶然性、プレーヤー同士の駆け引きなどにより成立する一種のシミュレーションゲームです。
一方で日本におけるRPGは、これに物語性を加えることによって独自の進化を遂げました。通称「JRPG」とも呼ばれ、多くのファンを獲得しています。JRPGの場合は、数学的な計算よりも手作りの丁寧さによる魅力が強調されました。
一方、欧米のゲームは計算による面白さを追求する傾向があるように思います。特にゲーム機やPCの性能が上がり、かなり複雑な計算が可能になるにつれ、その傾向が顕著になっているように思います。
例えば、Valveの「Portal」や、Microsoftの「Minecraft」といったゲームからは、非常に数学的、物理的なテイストを感じます。日本でも、もともとは東京電機大学の方が作られた同人ゲームシリーズ「東方Project」は、とても理系的な雰囲気があって、しかもアマチュアならではの丁寧さで作り込まれた傑作だと思います。