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 国内の商慣習に深く根付いた印鑑文化。サービスのデジタル化やペーパーレス化を阻む一因となっていたが、ここにきて印鑑レスのサービスが相次ぎ登場している。法律や慣習の違いを越え、どのような工夫で印鑑を不要にしたのか。3回シリーズでそれぞれの工夫や課題を追う。

 「口座の住所変更には、届け出印が必要です。いや、運転免許証を見せられましても、手続きはできません」「資料閲覧には、印鑑が必要です。ああ、三文判でいいですよ。どこかで買ってきてください」

 日本に住む人であれば、様々な手続きで印鑑を求める慣習に理不尽を感じたことが、一度ならずあっただろう。偽造、改ざんが容易で、認証手段として欠点が多いにも関わらず、印鑑を必須とする手続きはなぜ多く残っているのか。第3回は、今も残る「印鑑必須」「ほぼ印鑑必須」の制度と、印鑑以外の手段を使えるようにするための道筋について考える。

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銀行の印鑑レス化は時間の問題

 第1回で紹介したように、大手銀は2016年に相次ぎ、住所変更などの窓口手続きで印鑑が不要になる印鑑レス口座のサービスを打ち出した。全店舗の窓口で対応したのは三菱東京UFJ銀行のみだが、今後5年のうちに銀行サービスの印鑑レス化はさらに進みそうだ。

 ただ金融機関によっては、当面は届け出印の登録が必要になるサービスもある。口座振替(自動引き落とし)や非課税貯蓄など、銀行と利用者以外の当事者が関わるサービスだ。

 例えば、三井住友銀行の電子サインに基づく印鑑レス口座は、口座振替には対応しない見通し。電子サインによる認証を、自動引き落としを望む不特定多数の企業と共有するのが困難なためだ。三菱東京UFJ銀行は、財形預金やマル優など、税務署とのやり取りが発生する非課税貯蓄については、届け出印の登録を求めている。

 とはいえ、紙と印鑑による本人認証や本人の意思確認の手続きを、インターネットバンキングの認証など他の仕組みで置き換えるのは比較的容易だ。今後、スマートフォンアプリを使ったインターネットバンキングが普及すれば、口座振替を含め、印鑑を使う機会はさらに減るだろう。

高額取引や契約も実印不要に

 不動産取引のような高額な取引でも、実印と印鑑登録証明書を必須とする理由は失われつつある。第2回で紹介した、電子署名による住宅ローン契約はその一例だ。ICカード不要で、IDとパスワードの入力のみで署名できるサーバー型電子契約サービスの登場が、印鑑レス化の大きな要因になった。

 実は、より高額の取引となる法人間の契約では、消費者向けの契約に先行する形で印鑑レス化が進んでいる。実印(会社印)による契約から、双方の電子署名による電子契約へと移行しつつある。

 法人向け電子契約サービスは、2000年代後半から普及し始めた。法人間で請負契約などの契約書を交わす際、社印とサインの代わりに電子証明書を使って電子署名を交わすことで、契約を成立させるものだ。

 当初は、署名に必要な電子証明書をICカードに組み込み、手元のPCとカードリーダーを使って契約書ファイルに電子署名を施していた。その後、電子証明書をICカードでなくサーバーに保存し、サーバー上で契約書ファイルに電子署名を施すサーバー型の電子契約サービスが登場。業務システムへの組み込みが容易になり、利便性が一気に高まった。

 この電子契約は、紙の契約書に課される印紙税が非課税になる点で、企業にとって大きなコストメリットがある。例えば、数十億円規模の請負契約では、契約書に張る印紙代も数十万円に膨れあがる。電子契約であれば、こうした印紙代が不要になる。契約書類の郵送・保管業務も不要。企業の契約書類を集中管理できる点で、コンプライアンス面の利点も大きい。

 約束手形のような、複数の企業にまたがって流通する紙ベースの債権についても、印鑑レス化が進んでいる。2008年12月に施行された電子債権記録法により、企業は手形や売掛債権を電子化した「電子記録債権」の発行が可能になった。これにより、紙の手形に会社印(銀行届け出印)を押す必要はなくなった。請求書については、そもそも会社印がなくても法的に有効であり、印鑑がないという理由で正当な請求を拒むことはできない。こちらも電子化が進むだろう。