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本質の「多層分析」で臨む

 課題に対する認識や物事を捉える視点は上司ごとに違うのだから、上司の考える本質にたどり着かないと、いつまでも「それは本質ではない」と言われ続けることになる。

 厄介なのは課長や部長、役員といった具合に、立場が変わると本質の内容も変わる「多層構造」を成していることだ。事柄の特性を多層的に見て、さまざまな視点の課題認識や問題意識に備える必要がある。

 上司の立場、知識、経験によって本質は異なるのだから、どの上司にも納得してもらうためには、あらかじめ多くの多層的な状況分析を試みたうえで、説明に臨むことが対策になる。

表 多層分析の例(銀行APIへの対応を検討する場合)
階層的な視点で考えを整理
表 多層分析の例(銀行APIへの対応を検討する場合)
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 多層分析は立場に応じた視点をまず整理する。現場レベルから経営、社会へと、関係者や関心事の粒度を変えてメリットとデメリットを分析する手法である。視点にあたる項目には、(1)自社での対応、(2)自社の属する業界(競争相手=同業他社)の対応、(3)顧客、(4)自社の経営、(5)日本と世界の動きなどを設定する。

 部長や役員のようなハイレベルな上司職には、(1)~(5)の視点を含めて説明する必要がある。もちろん全階層の意見を説明すればよいわけではない。管理職なら(1)~(3)くらい、経営層なら(2)以上といった具合に、相手に応じて説明の視点を変えよう。

図 岸井氏が説明に使った資料
多層分析の結果を反映した
図 岸井氏が説明に使った資料
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 「岸井、山中次長が本質ではないと言ったのはこういうことだったんだ。山中次長は経営企画とIT企画を長く担当し、当行の経営戦略を具現化してきたエース人材だ。だから君の考えに不満だったんだよ」

 「本質は人によって異なる、ですか」

 岸井は西部課長補佐から説明を受けてからいろいろと考え直し、4日後に山中次長へ改めて説明した。

 山中次長は「クラウドファンディングはもろ刃だ。放置すれば経営を脅かす可能性があり、対応してもあまり収益が上がらない。放置できず、動向を関与しながらコントロールするもの。これが本質だ」と言った。

 以降も岸井は山中次長と話すたびに本質を問われた。苦労しながらも試行錯誤を重ね、「本質ではない」と言われることは減っていったという。

芦屋 広太(あしや・こうた)氏
教育評論家
SEを経て、現在は企業の情報システム部門でシステム企画・プロジェクト管理を担当。システム開発や問題プロジェクト・組織の改善、システム統合などの経験で培ったヒューマン・スキルを生かしたIT人材教育を行う。雑誌の連載、著書など多数。