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 提案書に限らず、ドキュメントの品質を上げるためにはレビューが必須である。筆者がよく受ける相談の一つが、「ITエンジニアのドキュメント品質が低くて、いくらレビューしてもスキルが上がらないのですが、どうすればよいでしょうか」というものだ。

 これには即効性のある解決策はない。ドキュメント品質を構成する複数の視点を理解し、繰り返しトレーニングを積むしかない。しかし、レビューワーが大きな勘違いをしていて、それが原因でスキルが上がっていないことがある。今回はそれをお話したい。

 筆者は、社内外でロジカルシンキングや提案書作成の研修を行っている。参加者の年代を問わない研修なので、新卒の20代の若手からマネジャー経験もある40代のシニアまで一同に会する。同じ解説を聞いてもらい、演習を行う。全員の答案をスクリーンに映し、世代の区別なくレビューする。部下のほうが出来たりする場合があるので、マネジャーの受講生は気が抜けない。

 ある会社の研修で、最年長のマネジャーは最初のうち、「答案を作るのに十分な時間がなくて、いつも部下に指摘するようなミスを指摘されてお恥ずかしい」と言っていた。演習を繰り返していくと、言い訳は出なくなった。研修が終わるころには、これまで部下の問題点を指摘できていたのは、スキルが上だからではなく、立場によるものだという事実に気づくことになる。

 「剣道三倍段」という言葉を聞いたことがあるだろうか。これは、剣道家と徒手空拳の武術家が互角に戦うには、三倍の段位が必要という意味だ。つまり、剣道初段の相手と互角に戦うには空手三段で互角になる。筆者はこれをもじって「レビューワー三倍段」と言っている。同じ力量の人でもレビューをする側になっただけで、品質チェック能力がレビューを受ける側のときの数段上になる、という意味だ。

 このことは文章を書くことを仕事にしている人であれば、誰でも経験的に知っていることだろう。しかし、ITエンジニアには、ピンと来る人が少ない。他の職種、たとえばコンサルタントなどと比較すると、レビューしたりされたりという経験が圧倒的に不足しているためだ。

実はスキルに大差がない場合も

 いくらレビューをしてもスキルが上がってこない理由は、レビューする人と受ける人のスキルが、大差ないからかもしれない。実質的なスキル差が十分あれば、何が相手の弱点なのかを指摘でき、今後の役に立つ指針が出せる。日本語の係り受けが変なのか、抽象的な単語に独自の意味付けをしているのかなどの症状に合わせて指導できなければ、相手のスキルを上げられない。

 前述したマネジャーの受講生には、課題解決のための問題点と対策が適切に対応付けられないという弱点があった。これは提案の軸になるところなので、このマネジャーのレビューを受けても、通る提案にはならない。

 ではなぜ、レビューする側と受ける側で見かけのスキル差が生じるのだろうか。筆者は二つの原因があると考えている。一つは、自分の書いたものは、最初から内容を理解しているので、ゼロから読んで理解する人の立場では読み返せないからだ。実際、数日経って読み直すとミスに気づくことは多い。

 もう一つは、レビューワーは問題点をコメントするだけで、解決するのがレビューされる側になっているからだ。問題を解決するのは、指摘するだけよりも段違いに難しい。

 レビューしても、一向に品質が上がらないドキュメントを見てイラッとしたときには「レビューワー三倍段」を思い出してほしい。仮に、あなたが部下のドキュメントにコメントをして、修正してきたものが許せる品質だったとしたら、ドキュメント作成スキルは、あなたを凌駕している可能性がある。そのことを考えれば、一緒に品質を上げていこうという優しい気持ちになれるだろう。