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LINEはMVNO(仮想移動体通信事業者)サービス「LINEモバイル」を2016年10月に開始する。訴求するのはデータ容量の制限を気にせず自社メッセンジャーアプリ「LINE」を利用できること。競争軸として本格的なアプリ連携を打ち出した。自社を含む運営元からの技術情報に基づき「正確な課金・通信速度制御を実現した」として、既にある同種の他社サービスとの違いを強調する。

 「スマートフォンでLINEを最もよく使うユーザー層のほか、LINEユーザーを子供や孫に持ちスマホデビューしようとする親御さんにもお薦めしたい」──。LINEが9月5日に開いたLINEモバイルの発表会で、舛田淳取締役CSMO(最高戦略・マーケティング責任者)はLINEモバイルで狙うユーザー層をこう表現した。LINEユーザーやこれからLINEに取り込もうとするユーザーを狙うために打ち出したのが、特定のアプリケーションやWebサイトの利用で発生するデータ通信を課金対象から外す「ゼロレーティング」だ。

 ゼロレーティングには、対象アプリの通信には課金しないほか、データ容量を上限まで使い切った場合などでも対象アプリは通信速度を制限されず利用できることも含まれる。舛田取締役はこの仕組みを「カウントフリー」と表現。LINEモバイルは米ツイッターや米フェイスブックからも技術協力を仰いで「LINEとTwitter、Facebookの3つのアプリで正確なカウントフリーを実現している」とした。

 料金プランは「カウントフリー」の対象にするアプリの違いで2種類をそろえた。LINEだけを対象にした「LINEフリープラン」は料金が月500円からで、利用できるデータ容量は1Gバイト。LINEのほかTwitter、Facebookも対象になる「コミュニケーションフリープラン」は複数のデータ容量が選べ、容量3Gバイトの月額料金が1110円から。

 どちらのプランも料金水準そのものに際立った特徴はない。携帯大手とは異なるMVNOの特色として、LINEを軸に特定アプリを無制限に利用できるという、アプリ連携を打ち出したことがLINEモバイルの最大の強みだ。

「協力の要請はLINEだけだった」

 サービス運営はLINEが全額出資子会社で設立したLINEモバイルが担当。社長に就任した嘉戸彩乃氏(写真1)によれば、LINEモバイルはサービスの構想が具体化してから技術検証を重ね、カウントフリー実現の手応えをつかんで3月の発表に臨んだという。

写真1●サービスの詳細を発表したLINEモバイルの嘉戸彩乃社長
写真1●サービスの詳細を発表したLINEモバイルの嘉戸彩乃社長
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 ただこの間に、ゼロレーティングを実現したサービスが相次いだ(表1)。例えばプラスワン・マーケティングの「FREETEL SIM」は、“本家”に先んじてLINEのデータ通信を無課金にした(音声や動画メッセージは対象外)。

表1●アプリによって課金を制御しているMVNOサービスの例
表1●アプリによって課金を制御しているMVNOサービスの例
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 一番乗りを果たせなかったLINEモバイルだが、サービス運営元との技術協力に基づき正確なカウントフリーを実現しているのは日本でLINEモバイルだけと主張する。

 具体的には、協力を取り付けた米ツイッターや米フェイスブックからは2つの技術支援を受けている。「新機能や新サービスのリリース前に情報提供を受けることと、アプリの更改などで通信パケットが正しく識別できなくなった場合にサポートを受けること」(LINEモバイルの嘉戸社長)だ。これにより新機能の提供直後でもカウントフリーの正確さが保たれるという。

 嘉戸社長が米2社の担当者から聞いた話によれば、この件で協力を求めたのはLINEだけで、「コミュニケーションサービスを重視するLINEの考え方を丁寧に説明したら快諾してもらえた」(同)。排他的な契約でなく、結果的に唯一の協業先になったという。

 一方で、LINEは他社に自社の技術情報を開示する予定は現時点でないとした。嘉戸社長はその理由を「技術情報を開示したとして、開示先のMVNOがしっかり対応・検証してもらえるのかという不安があるのが実情。他社を排除する考えではない」とする。実際にLINEモバイルでは、LINEの新機能リリース時には技術検証などに1~2カ月をかけているなど、慎重な作業が必要だとしている。

先行サービスではトラブルも

 他社のサービスでは、ゼロレーティングを実現する基礎になるパケットの識別技術が一時的に正しく機能しないケースが散見している。「LINEがアプリを更新した時に、無課金をうたう他社サービスがLINEのパケットを識別できず課金していた状況を確認した」(嘉戸社長)。

 また日本通信が8月10日に発売した「ポケモンGO専用SIM」はポケモンGOだけに利用するSIMながら、サービス開始初期にゲーム画面で地図が表示されない不具合が発生した。ポケモンGOは地図データを米グーグルのGoogleマップから取得している。ゲームに必要な地図データの通信を遮断してしまったとみられる。

 日本通信はユーザーからの指摘を受けてパケットの判別方法を改善、8月16日に不具合は解消した。同社の工藤靖上席執行役員は「アプリの更新によって、通信の挙動が(発売前のテスト時と)変わってしまっていた。お騒がせしてしまったが、こうした仕様変更が予期せず何度も行われている」と打ち明ける。

 ゼロレーティングを支えるのは、パケットのIPアドレスなどヘッダー部分の情報のほか、DPI(Deep Packet Inspection)技術で調べたデータ部分の特徴に基づくアプリケーションの識別だ。レンジャーシステムズの相原淳嗣社長は、アプリケーションやサービスの識別が難しい例としてグーグルのサービスを挙げる。データ配信を高速化するため自社サービスをまとめて一つのサーバーから配信する「Google Proxy」を運用しているからだ。

 ゼロレーティングがユーザーの支持を集めれば、課金管理が正確という特徴には注目が集まりそうだ。その場合にはLINEの技術開示に対する姿勢も問われることになる。

「総務省から懸念の声はない」

 安心なカウントフリーを訴求するため、LINEモバイルはユーザーへの告知や契約方法にも配慮した。「カウントフリーの技術は、決して通信データの中身そのものは覗かない。通信の秘密は侵さない」(舛田CSMO)という趣旨を契約の確認事項に明記した。そのうえで、LINEモバイルは必ずカウントフリーのサービスが付随することに同意を取り付けてユーザーと契約を交わすようにした。

 特定サービスの通信を無課金という形で優先的に扱う点も、「これから事業を開始する当社が『通信の中立性』を問われることは、市場シェアから見てありえない」(舛田CSMO)との立場を取る。嘉戸社長も、「総務省をよく訪問しているが、通信の秘密や中立性の観点でカウントフリーを懸念する声すら聞こえてこない」と話す。

 舛田CSMOらは、業界や監督官庁で問題点の指摘や懸念が高まれば積極的に議論に応じると話す。ゼロレーティングへの正しい理解を深めるため、ユーザーへの告知の仕方や同意の取り方など業界で足並みをそろえるべき場面も出てきそうだ。