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 3万時間─。あなたが一生涯で会議に費やす時間の総計だ。この途方もない時間を想像してみたことがあるだろうか。1日10時間活動できるとして、約8年分になる。8年もの時間をあなたはどう過ごすことになるのか。よくある会議の風景をのぞいてみよう。

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 お昼休み明けの会議室。小さな部屋でテーブルを囲み、6人の男性社員が座っている。ほとんどのメンバーが黙っているなか、1人だけ延々としゃべっている人がいる。課長だ。書類に目を落としたまま、まるで“朗読”だ。(ああ、ランチ後のこの時間は本当に辛い、眠い)。横を見ると、3つ上の先輩がノートパソコンをにらんでいる。会議に集中しているように見えて、実は全く別のことをやっている(“内職”か…。オレもパソコンを持ってくればよかった)。ふと前を見ると、別の先輩が課長に気づかれない絶妙な角度で寝ている(うまい! あの技、オレも身に付けたいな)。そう思ったとき、「では今日はここまで」と課長の声が響きわたる。どうやら会議が終わったらしい。やれやれ、やっと「仕事」に戻れるぞ。

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 こんなグダグダな会議に覚えはないだろうか。3万時間、8年分の人生をこんな会議に捧げるわけだ。この絶望的な事実に、多くのビジネスパーソンは意外なほど気づいていない。

会議のやり方を誰も教えてくれない

 グダグダ会議は、あなたの人生の問題にとどまらない。現代の企業活動の大半は会議である。顧客からのクレーム対応や人材育成の試行錯誤、部課の中期目標の設定、顧客との商談。日々の業務は会議がなければ回らない。会議での議論や意思決定の質が高ければ、企業活動の品質は上がる。会議のスピード感がそのまま、ビジネスのスピードになる。

 会議は企業活動にダイレクトに影響を与えるといっていい。グダグダ会議を続けるのは、あなたが思っているよりもはるかに危険な状況なのだ。なのに日本の会議はいつまでたっても変わらない。

 なぜ日本の会議はこれほどまでに変わらないのか。世の中には会議を扱う書籍が数多く出回っているというのに。書籍のほとんどは、オフサイトミーティングや事業戦略会議などをテーマにしており、日々の会議について触れたものは実は少ない。「目に見えるお手本」がないため、会議を変えようと思っても、目指すべき会議の姿をイメージできない。何をすれば、会議がどう変わるのかを想像できないのだ。見たことがないものを考え、実践するのは到底無理である。

 上司はルーチンワークは教えてくれるかもしれないが、会議のやり方は教えてくれない。人事部もビジネスマナーやリーダーシップ論の研修は用意してくれるかもしれないが、やはり会議の仕方は教えてくれない。そして会議本の多くは、日常の会議の仕方を教えてくれない。

 圧倒的なお手本不足だから、日本の会議は改善しづらい。どうすればいいか。私は会議の「始め方」と「お手本」さえあれば、日本の会議はもっと良くなると信じている。私はコンサルタントであり、本業は変革プロジェクトの支援だ。要するに“変革屋”だが、我々の会議のやり方をクライアントがまねしてくれることがある。いつの間にか、クライアントの会議が非常に効率的になり、いい感じに変わっている。しかも私が支援したほとんどの会社で。

 会議を変えられる会社と変えられない会社の違いは何か。単に、会議の変え方を教えくれる人や会議のお手本を見せてくれる人がいるかいないか。それだけだと思う。

 世の中にはこの2つが決定的に不足している。逆にいえば、始め方とお手本さえそろえば、会議は確実に変わる。この連載ではそこに焦点を絞り、「会議ファシリテーションとしてやるべきこと」と「その始め方」を解説をしていきたい。

そもそもファシリテーションとは何か

 本題に入る前に、ファシリテーションとは何かを確認しておこう。ここ数年、急激にファシリテーションという言葉の認知度が上がってきている。だが抽象度が高い言葉だけに誤解も多い。ファシリテーションは色々なことに適用できるが、分かりやすくするため、ここでは「会議ファシリテーション」に絞って考えていこう。

 ファシリテーションの意味を辞書で引くと「容易にする、促進する」となる。一方、ファシリテーション型コンサルティングを標榜する当社は、こんな定義をしている。「ゴールを達成するために、チームの力を最大限に引き出す、一連の方法論」。これには大事なキーワードが4つ入っている。

【キーワード1:ゴールを達成】
 あなたの考える「理想の会議」とは、どんなものだろうか。「スパッと結論が出る」「全員が発言している」「楽しい」「議論が脱線しない」「時間通りに始まり・終わる」「盛り上がる」。こんなふうに色々と思いつくはずだ。

 では、もう1つ質問。理想の会議に近づくため、あなたはどんな工夫をしているか。「事前に会議の議題を参加者に通知する」「資料を用意する」「会議室を確保する」「タバコ部屋で事前に落とし所を探る」。他にも色々とやっていることがあるだろう。

 こうした1つひとつの積み重ねが会議ファシリテーションになる。つまり、「手段を選ばず、あらゆる工夫をすること」が会議をファシリテーションするということなのだ。全ては理想的な会議を作るためである。だから、ゴールのイメージ(ここでは理想的な会議像)が明確でないと、ファシリテーションはできない。ファシリテーションにおいて、ゴールは極めて大事な要素なのだ。

【キーワード2:チームの力】
 ファシリテーションはチームを対象にしている。個人ではない。人は放っておいては、協働できない。必死にコミュニケーションを取って初めて、協働できるようになる。

【キーワード3:最大限に引き出す】
 会議の主催者が筋の良い結論を用意しておき、そこにスパッと落としていくのが良いと考える人もいる。だがファシリテーションの考え方はそうではない。

 結論を出すのは、あくまでもチームのメンバー。そうでないと、会議をしている意味がない。ファシリテーターは答えを押し付けるのではなく、チームが素晴らしい答えを出すのを手助けする。普遍的なリーダーシップの一要素である。

【キーワード4:一連の方法論】
 よく勘違いされるのだが、「ファシリテーションって、付箋を使うんでしょ?」「司会進行をスムーズにやればいいんでしょ?」と思っている人がいる。

 確かにどちらもファシリテーターとしての1つのスキルではある。だが役割の1つに過ぎない。状況に応じて付箋を使うこともあるし、司会進行をすることもある。しかし、大抵それだけではどうにもならないのが会議だ。ゴールを達成するために必要なことを、あの手この手でやり続ける人がファシリテーターというわけだ。

 では具体的に何をすればいいか。状況に応じてやるべきことは全く異なるが、この連載では会議のフェーズごとに「最低限これだけはやってほしいこと」を整理していく。まずは基礎的なことをしっかりとやってほしい。それだけでも、会議の質は格段に上がる。

ファシリテーションの適用範囲

 ここまで会議にフォーカスを当てて、ファシリテーションの解説をしてきた。前述の通り、ファシリテーション自体はあらゆるチームの活動に適用できる()。タスクや会議、プロジェクト、グループ学習などだ。

図●ファシリテーションはゴールイメージ(目指すべき姿)が拠り所になる
図●ファシリテーションはゴールイメージ(目指すべき姿)が拠り所になる
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 どんな活動をファシリテーションするかによって、ファシリテーターがすることはかなり異なってくる。だが一貫していえるのは、ゴールイメージが大事だということだ。

 さて、イメージがそろったところで、次回からは具体的に何をすれば上手に会議ファシリテーションができるかを紹介していこう。

榊巻 亮
ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ アソシエイトディレクター
榊巻 亮 さかまき りょう氏●大学卒業後、大手建築会社に入社。業務改善活動に携わり、改革をやり遂げる大変さを痛感する。ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズに入社後は「現場を変えられるコンサルタント」を目指し、金融・通信・運送など幅広い業界で業務改革プロジェクトに参画する。変革の成果を享受する現場サイドと、それを支援するコンサルタントサイドの双方の経験を生かしながら、納得感の高いプロジェクトの推進を得意としている。主な著書は『業務改革の教科書』(日本経済新聞出版社)など。