PR

IoT(Internet of Things)分野で期待されつつもなかなかブレークに至らない「スマートホーム」。ハウスメーカー、通信事業者、家電メーカー、スタートアップが市場に参入し、情勢は混沌としている。通信事業者にとってみれば、光コラボ開始による家庭内へのリーチ、そして電力データの開放によって、2016年から2017年にかけて大きなチャンスがやってくる。先行する海外事例を踏まえ、各社の取り組みと、今後の競争の行方を展望する。

 IoTの有力分野として期待されるスマートホーム市場。家の中のあらゆるモノがネットワークにつながり、スマートフォンなどから遠隔操作するような提案がメーカーやスタートアップ企業、通信事業者などから続々と登場している。

 今や、IFAやCES、MWCといった国際展示会では、メーカーや通信事業者によるスマートホーム分野の展示で盛りだくさんだ。米グーグルや米アップル、米クアルコムといったスマホ時代の覇者たちも、「スマホの次」の主戦場にしようと、スマートホーム市場になだれ込んでいる。さらには家の鍵をスマホから操作できるようにする「スマートロック」を発売するスタートアップ企業は、国内外を問わず数多く登場している。スマートホーム市場は、いわばIoTの“約束の土地”の一つだ。

 家の中のあらゆるモノをネットワークにつなげるという“スマートホーム”の概念自体は、古くから存在している。ただ、これまでのところは大きなビジネスになっていない。

 国内でも住宅メーカーが、太陽光発電やHEMS、EV対応駐車場と組み合わせた、いわゆる「スマートハウス」を販売している。パナソニックや東芝といった家電メーカーも、スマートハウス向けの通信プロトコル「ECHONET Lite」対応家電機器を発売し、ネットワーク接続できる家電機器のメリットを訴えている。しかし、いずれも市場の広がりは限定的だ。スマートホーム市場は、一筋縄では攻略できない難しい市場というのが、関係者の一致した認識だ。

携帯各社が本格的に「イエナカ」進出

 期待度は大きいものの、なかなかビジネスとしてブレークしなかったスマートホーム市場。2016年はその風向きが変わる可能性が出てきた。国内では特に通信事業者がスマートホーム市場に本格参入する下地が整い、流れが変わりつつあるからだ(図1)。

図1●2016年以降、スマートホーム市場が本格化する兆しが見えてきた
図1●2016年以降、スマートホーム市場が本格化する兆しが見えてきた
2015年の光コラボレーションモデル開始による携帯大手各社の「イエナカ」進出、そして2016年4月の電力小売り全面自由化が後押しし、通信事業者がスマートホーム分野に本格進出すると見られる。
[画像のクリックで拡大表示]

 その一つが、2015年2月にNTT東西が始めた光回線の卸サービス「光コラボレーションモデル」である。光コラボによって携帯電話事業者が、FTTHサービスを通じて「イエナカ」へ進出する足場ができた。光回線に加え、新たな価値提案として携帯大手各社がスマートホームサービスを視野に入れた動きを加速している。

 実際、NTTドコモは2015年3月のFTTHサービス「ドコモ光」の提供に合わせて、イエナカサービス「家のあんしんパートナー」を開始した。日常の生活トラブルに対して、緊急駆けつけ対応するこのサービスは、直接スマートホームとは結びにくい。しかし、これは同社の本格的なスマートホーム戦略の第一弾である。

 「スマートホームはあくまで手段であり、実現したいのは日常のユーザーの困りごとを解決すること。水漏れや水道トラブルなど、何かあった時の駆けつけサービスの需要が顕在していたため、まずはパートナシップを組み、“リアル系”のサービスから開始した」とNTTドコモ スマートライフビジネス本部ライフサポートビジネス推進部の村山啓二郎スマートホーム事業推進担当部長は話す。

 同社は2015年8月から、同じ月額450円というサービスの中で、タブレット端末を利用した家の見守りサービスも追加した。こちらはよりスマートホームのイメージに近いサービスになっている。

 KDDIもベンチャーへの投資などを通じて、虎視眈々とスマートホーム市場への準備を進めている。同社は2015年3月、スマホを近づけるだけで鍵の開閉ができるスマートロックを提供する米オーガストホームに、「KDDI Open Innovation Fund」を通じて出資した。KDDIの江幡智広 KDDI∞Labo長は「製品を開発し、継続的に市場に商品を投入できるものづくりスタートアップは珍しい。家庭内のハブになるような、エコシステムの作り方にも長けており、出資を決めた」と話す。もっともオーガストホームのスマートロックは、サイズや仕様などから、そのまま日本国内への展開は難しいという。ただ出資を通じて、スマートホーム市場攻略のノウハウを蓄積している様子だ。

 そして2016年4月には、電力小売りが全面自由化される。自由化を契機に、安価なHEMSコントローラーの普及、スマートメーターへの切り替えによる家庭内の電力データの開放、それに伴ってECHONET Lite対応機器の普及などが見込まれる。

 これらの動きは、スマートホーム市場にとって大きな追い風になる。遠隔制御できる家電製品が増え、開放される電力データを活用することで、様々な価値提案の道が開けるからだ。KDDIやソフトバンクは、既に電力小売り事業に参入することを表明している。携帯大手各社が2016年春の電力小売り事業への参入を果たした後、スマートホーム市場へ本格的に進出することは、もはや規定路線と見られている。

“第四のサービス”としてスマートホーム

 欧米型の本格的なスマートホームサービスを、国内投入する動きも出てきた。ケーブルテレビ事業者のイッツ・コミュニケーションズ(イッツコム)が2015年2月にサービスを開始した「インテリジェントホーム」だ(次ページの別掲記事参照)。

 「米コムキャストや米タイム・ワーナー・ケーブルといった米国の大手ケーブルテレビ事業者は、数年前から、テレビ、インターネット、電話に次ぐ“第四のサービス”としてスマートホームサービスを展開する動きが見られた。北米大手各社を訪問する中で可能性を感じ、当社もサービス開始することを決めた」と、イッツコムの平岡陽一 技術本部 副本部長、インテリジェントホーム開発室長は話す。

 同社は、コムキャストやタイム・ワーナー・ケーブルが採用しているものと同じ、米アイコントロール・ネットワークスのスマートホーム向けプラットフォームを導入した。ドア・窓センサーやスマートロック、IPカメラなどを月額課金し、駆けつけや見守りサービスに対応する。「毎月コンスタントに3桁のユーザーの契約が増えている」(平岡室長)と手応えを感じているようだ。

いかに“お金”を取れる価値を訴求できるか

 通信事業者やケーブルテレビ事業者による新たな動きが見えてきた国内のスマートホーム市場。これまでスマートホーム市場が大きくブレークしなかった理由は、ユーザーがお金を払ってまで価値を感じるサービスがなかった点に尽きる(図2)。

図2●スマートホーム市場へ雪崩れ込む各陣営
図2●スマートホーム市場へ雪崩れ込む各陣営
国内外で様々なプレーヤーが市場に雪崩れ込んでいるが、まだ覇者は存在していない。ユーザーから「お金」を取れる価値を見いだすべく、各陣営のチャレンジが続いている。
[画像のクリックで拡大表示]

 例えば、国内の住宅メーカーや家電メーカーが訴求するHEMSコントローラーを中心としたスマートホームの提案は、電力の使用状況の「見える化」や家電機器の集中制御といったレベルにとどまっていた。これだけでは、月額課金など追加でお金を取ることが難しいというのが、多くの関係者の見方だ。

 情報通信総合研究所の岸田重行上席主任研究員は、「スマートホームの本質はトリガー&アクション。センサーとなるデバイスがトリガーとなり家電機器が自動連携し、ユーザーの行動を簡素化することに価値が生まれる」と話す。実際、欧米のスマートホームサービスの中には、例えばクルマと家が連携し、クルマが家に近づくと、家庭内の空調機器などが自動的に動作するような提案が登場している。このような自動化サービスが、スマートホーム市場の鉱脈の一つと言える。

 そしてよりお金を取りやすいのが、「ホームセキュリティ」や「見守り」「駆けつけサービス」といった、実際にユーザーのニーズが顕在化している分野にフォーカスしたサービスだ。NTTドコモやイッツコムのアプローチは、まさにこうした分野から市場を開拓しようとしている。こちらも大きな鉱脈になる。

 スマートホーム分野が面白いのは、スマホなどと異なり、欧米のサービスがそのまま国内市場を席巻するとは限らない点だ。住宅環境や、スマートホームで制御する家電製品など、国や地域によって異なる。制度面の違いもあり、日本国内に適したサービス、デバイスのエコシステムが求められる。

 パート1では、国際家電見本市「IFA 2015」におけるスマートホーム関連の最新動向から、スマートホームの鉱脈を探る。パート2ではホームセキュリティを軸とした、国内のスマートホーム市場の鉱脈を分析する。

IoT▲
Internet of Things。
IFA▲
Internationale Funkausstellung Berlin。毎年9月にドイツ・ベルリンで開催されるドイツ民生通信エレクトロニクス協会主催による世界最大級の欧州家電見本市のこと。
CES▲
Consumer Electronics Show。毎年1月、全米家電協会が主催して米国ラスベガスで開催される見本市のこと。最近ではIoT(Internet of Things)や自動車関連の展示が目立つ。
MWC▲
Mobile World Congress。GSMAが主催する世界最大級の携帯電話関連の展示会のこと。
スマートロック▲
スマートフォンなどを利用して、遠隔で鍵の開閉状態を確認したり、操作したりできる製品のこと。米オーガストホームのほか、国内では「Akerun」を提供するフォトシンス、「NinjaLock」を提供するライナフ、ソニーが出資するQrioといったスタートアップが登場している。
HEMS▲
Home Energy Management System。家庭内に設置する家電機器などのエネルギー管理システムのこと。
ECHONET Lite▲
エコーネットコンソーシアムが策定した家電機器制御用の通信プロトコル。OSI参照モデルにおいてレイヤー5~7を規定しており、レイヤー4以下は特に規定しておらず、無線LANのほかWi-SUNなど多くの通信方式を利用できる。
スマートメーター▲
通信機能を使って、遠隔で検針可能な電力量計のこと。政府によって、2020年代早期に全世帯・全事業所に導入する方針が決定。2014年ころから各電力会社による本格的な導入が始まっている。2024年には全国で実に、約8000万台ものスマートメーターが稼働する見込みだ。
家庭内の電力データの開放▲
スマートメーターに切り替わった家庭で、ユーザー宅が電力会社に対して電力データの活用を希望すると、スマートメーターの電力データをHEMSコントローラーなどを通じて、ユーザーが利用できる。このデータは電力会社以外のプレーヤーも活用できる。
米国大手の仕組みを用いたイッツコムのスマートホームサービス

 ケーブルテレビ事業者のイッツコムが2015年2月に開始したスマートホームサービス「インテリジェントホーム」(表A)は、コムキャストやタイム・ワーナー・ケーブルといった北米の大手ケーブルテレビ事業者が利用する米アイコントロール・ネットワークスのスマートホームシステム「Touchstone」をプラットフォームとして採用している。

表A●イッツコムのスマートホームサービス「インテリジェントホーム」の料金体系(いずれも月額、デバイス1台当たり)
表A●イッツコムのスマートホームサービス「インテリジェントホーム」の料金体系(いずれも月額、デバイス1台当たり)
[画像のクリックで拡大表示]

 アイコントロールのシステムは、ソフトウエアライセンスモデルだ。サービスを提供する事業者は、ライセンス購入したソフトウエアを自社のデータセンターなどで稼働させ、スマートホームサービスのプラットフォームとする。完全クラウド型プラットフォームではないため、日本市場向けのカスタマイズなどにも柔軟に対応するという。

 ユーザー宅内には、アイコントロールのシステムに対応したホームゲートウエイを設置する。このホームゲートウエイに、スマートロックや各種センサー、IPカメラなどを接続。これらの機器が、インターネットを経由してプラットフォームとつながることで、外出先からスマホやタブレット端末からの遠隔操作が可能になる(図A)。なお各種センサーとホームゲートウエイの間の近距離通信はZigBeeと無線LANを用いる。

図A●イッツコムが2015年2月に開始したスマートホームサービス
図A●イッツコムが2015年2月に開始したスマートホームサービス
コムキャスト、タイム・ワーナー・ケーブルなど米国の大手ケーブルテレビ事業者が利用する米アイコントロール・ネットワークスのシステム「Touchstone」を採用した。
[画像のクリックで拡大表示]

 これら宅内に設置する機器は、アイコントロール自身が開発するのではなく、様々なデバイスメーカーが、アイコントロールから提供されるデバイス開発キットを組み込んで開発している。例えばホームゲートウエイは米ネットギア、IPカメラは台湾サーコム、家電コントローラーはグラモなどが開発している。

ユーザー自身が連携動作を設定

 イッツコムのスマートホームサービスは、外出先から家の鍵の開閉状態や家の映像を確認したり、操作したりすることが可能だ。ただ同社がスマートホームサービスの最大の特徴として強調するのは、スマートロックを開けた時に、エアコンや照明がオンになるような連携動作である。

 このような連携動作は、ユーザー自身が「どの機器が」「どう動作したら」「何をするのか」と設定するだけで完了する。インタフェースがこなれているため、ユーザー自身が率先して新たな使い方を作り出しているという。

 もう一つの特徴的な機能は、リモコンで操作できる通常の家電機器も、遠隔操作や連携動作できるようにした点だ。いわゆる学習型のリモコンを家電コントローラーとして利用し、通常の家電機器も制御対象とした。

 イッツコムが導入したスマートホームプラットフォームは、特定の回線に依存せず導入できるため、他のケーブルテレビ事業者からの問い合わせも相次いでいるという。またデータセンター上のプラットフォームと、他のスマートホームプラットフォームを連携させることができ、それによって制御対象の機器をさらに増やすことができる。

 イッツコムでは、プラットフォーム間の連携を加速させ、よりプラットフォームを成長させる狙いから、2015年11月25日付けで、ニフティと東急電鉄と共同で新会社Connected Designも設立している。

出典:日経コミュニケーション 2016年1月号 pp.12-17

記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。