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AWSやMicrosoftに加え、GoogleやIBM、Oracleなども、基幹系システムの動作環境としてクラウドサービスの拡充に注力している。クラウドと同様の環境をオンプレミスで利用可能にする製品やサービスも続々登場している。

 基幹系システムへのパブリッククラウドの採用が増える中、Amazon Web Services(AWS)や米Microsoft、米Googleなどの各社は、基幹系システムの基盤として必要な機能の強化に注力している。これまでオンプレミスの基幹系システムの構築に強みを持っていた米Oracleや米IBMは、クラウドとオンプレミスの連携を強化することで基幹系システムでの自社パブリッククラウドの採用を推進している。

 基幹系システムでの採用を狙って各社が進める機能やサービス強化の方向性は大きく3つある(図1)。

図1●基幹系での採用を目指したクラウドベンダー各社の取り組み
図1●基幹系での採用を目指したクラウドベンダー各社の取り組み
オンプレミスとの連携など、基幹系システムならではの要件に対応するサービスが増えている
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 まずはオンプレミスのサービスレベルに近い環境を、パブリッククラウドで実現することだ。そのために各社は可用性やセキュリティレベルの向上に注力している。

 2つめは、オンプレミスからの移行を想定し、オンプレミスと同等の負荷を処理したり、大量データを蓄積したりできる環境を用意することだ。オンプレミスで稼働しているシステムの多くは、クラウドが想定している分散型アーキテクチャーを採用していない。大量のデータを抱え、高い処理能力も必要になる。

 最後は、どうしてもクラウド移行ができずに残るオンプレミスのシステムとの連携だ。パブリッククラウドへの移行途中であったり、「社内からデータを出したくない」などの理由があったりしてオンプレミスに残るシステムは存在する。こうしたシステムを、パブリッククラウドに乗せたシステムとどのように連携するのか。各社とも様々なサービスを提供している。

Googleも基幹系向けに機能拡充

 1つめの可用性の向上に特に注力しているのがMicrosoft Azureだ。

 Azureは2016年11月から、シングルインスタンスで99.9%のSLAを結べるようにした。Azureは以前から複数インスタンスで冗長化した場合に、99.95%のSLAを提示していた。

 「オンプレミスからの移行を考えた場合、クラウドはどうしても可用性が落ちるのでSLAが問題になる。少しでも可用性を高めるためには、インスタンス単体にも着目して、可用性を上げていくことが必要になると考えている」と日本マイクロソフトの平谷靖志クラウド&ソリューション事業本部 インテリジェントクラウド統括本部 Azureインフラストラクチャ技術営業部長は説明する。

 企業システム向けでは後発のパブリッククラウドである「Google Cloud Platform(GCP)」も、基幹系システムでの利用を想定した機能強化を相次ぎ行っている。

 GCPの導入を専門とするクラウドエースの高野遼技術部長は、「権限設定サービスで設定可能なロールを増やしたり、開発規模が大きい場合に利用できる『共有VPC』でファイアウオールを管理できるようにしたりするなど、企業内システムでの利用を想定したサービス拡充が続いている」と話す。

 AWSやAzureに追随するように、専用線接続サービス「Dedicated Interconnect」を2017年9月に開始した。AWSの「Direct Connect」、Azureの「Express Route」に相当するサービスだ。GCPのDedicated Interconnectは、日本国内では東京や大阪に接続ポイントを設けており、ネットワークに高い信頼性を求める企業システムでの利用を見込む。

HANA向けインスタンス続々

 オンプレミスで高性能なサーバーを利用して稼働していた基幹系システムをクラウド上で動かすためには、高性能なインスタンスや大量のデータ領域が必要になる。

 そこで各クラウドが今、拡充しているのが基幹系向けとするインスタンスの提供だ。特にSAP ERPの利用を想定したインスタンスが続々登場している(表1)。

表1●SAP ERP向けにクラウドベンダーが用意するインスタンスの例
いずれもSAPのインメモリーDB「HANA」のワークロードを想定している
表1●SAP ERP向けにクラウドベンダーが用意するインスタンスの例
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 新規導入のSAP ERPや、SAP ERPの後継製品である「S/4HANA」はいずれもインメモリーDB「HANA」上で動作するため、テラバイト(TB)級のメモリーが必要になる。そこでAWSは最大でメモリーを4TB搭載できる「x1e.32xlarge」インスタンスを用意。Azureは最大で20TBのメモリーを搭載できる「SAP HANA on Azure」を提供する。Azureは2017年内にも、HANAを利用しない場合のSAP ERPの移行に備えたインスタンスも提供予定だ。「既存システムの規模に応じてインスタンスを選べるようにしていく方針だ」と日本マイクロソフトの伊賀絵理子クラウド&エンタープライズビジネス本部 クラウドプラットフォーム製品マーケティング部 エグゼクティブプロダクトマネージャーは話す。

専用機で大量データを移行

 大規模な基幹系システムをクラウドに移行する際に、もう1つ問題になるのが移行作業に時間がかかることだ。稼働中の基幹系システムのデータ容量はTBに達することもある。インターネット越しに移行すると、何日もかかってしまう。

 そこでAWSやAzureなどは既存システムからの移行を支援するためのサービスを拡充している。その1つが専用のハードウエアを用いたデータ移行サービスの提供だ。

 AWSが2017年9月から東京リージョンで提供を始めた「AWS Snowball」が一例だ。Snowballでは、データ移行用のアプライアンスを用意している。データ移行したいユーザーの元にアプライアンスを郵送し、ユーザーがデータを物理サーバーからアプライアンスへコピーする。それをユーザーがAWSに送り返して、AWSがデータ移行を実行する。

 Snowballを利用すれば、アプライアンスの発送期間を除いて80TBのデータを1日で移行できる。Microsoftも同様のサービス「Azure Data Box」を2017年9月に発表。現在はプレビュー版を提供している。

 データ移行に加えて、AWSは仮想化ソフト「VMware」などを利用しているシステム向けのサーバー移行サービス「AWS Server Migration Service」や、オンプレミスのDBからクラウドDBへの移行支援サービス「AWS Database Migration Service」などを相次ぎ提供し、オンプレミスからの移行を促している。

新型のプライベートクラウドを作る

 様々なパブリッククラウドベンダーが相次ぎ強化しているのが、オンプレミスで運用するシステムとの連携だ。

 特にこの分野に注力するのがオンプレミスで既に多くの顧客を持つMicrosoftやIBM、OracleなどのITベンダーだ。3社はオンプレミスでパブリッククラウドと同様の環境を構築できる「オンプレクラウド」あるいは「オンプレPaaS」とも呼ぶ製品を提供している(表2)。

表2●新型プライベートクラウドを支援する各社の製品・サービス
表2●新型プライベートクラウドを支援する各社の製品・サービス
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 パブリッククラウドで提供しているソフトウエアや、マネージドサービスといった運用、そして従量課金制などの料金体系をオンプレミスで利用できるようにするものだ。オンプレクラウドを実現する製品を利用することで、オンプレミスとパブリッククラウドの動作環境が同じになる「新型プライベートクラウド」の構築を支援する(図2)。

図2●「新型プライベートクラウド」の概要
図2●「新型プライベートクラウド」の概要
パブリッククラウドと同一の環境をオンプレミスに構築することで、パブリッククラウドへ移行しやすくなる
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 基幹系システムにとってオンプレクラウドの最大のメリットは、パブリッククラウドとオンプレミスのどちらでもアプリケーションを動かせるようになることだ。加えて、信頼性の高いオンプレミスの環境でクラウドコンピューティングのメリットである機械学習やAI(人工知能)などのクラウド特有の最新機能を利用しやすくなる。

遠隔運用も提供するオラクル

 日本オラクルが提供する「Cloud at Customer」の場合、OracleのIaaSやPaaSと同じソフトウエアを搭載した専用機をユーザー企業やITベンダーのデータセンターに設置して利用する(写真1)。インターネット経由で日本オラクルの担当者が専用機にアクセスし、パブリッククラウドと同じタイミングでバージョンアップや運用を行う。

 日本IBMが2017年11月に提供を始めたのが、「IBM Cloud Private」だ。コンテナ管理ソフト「Docker」を使った開発をサポートし、クラウドネイティブなアプリケーションをオンプレミスで開発できる環境や、ハイブリッドクラウド向けの運用管理ツールなどを提供する。

 IBM Cloud Privateは、同様の機能を提供する製品「Bluemix Local」の後継に当たる。Bluemix Localは日本オラクルのCloud at Customerと同様にアプライアンスとして提供し、フルマネージド型だった。しかしIBM Cloud Privateは、「オンプレミスをインターネットに接続したくない」という声に応えたとして、ユーザーがソフトウエアのインストールや運用を実施する方式に変更した。

 「Azure Stack」を提供する日本マイクロソフトは、「クラウドならではの機械学習やAIなどの機能と連携する予定のないシステムであれば、Azure Stackを利用した環境に移行しなくてもよい」(伊賀エグゼクティブプロダクトマネージャー)方針だ。従来のオンプレミスの環境のまま残したいシステムについては、「Windowsの機能を利用してハイパーコンバージドインフラストラクチャーに移行するなど、クラウドに近いメリットを得る方法がほかにある」(同氏)という。

VMwareとAWSが組む

 パブリッククラウドと同じ環境をオンプレミスに構築しようという発想のオンプレクラウドに対して、オンプレミスと同様の環境をパブリッククラウド上で、効率的に構築できるようにしようという動きも進む。

写真1●「Cloud at Customer」
写真1●「Cloud at Customer」
パブリッククラウドの「Oracle Cloud Platform」と同一の環境を提供する

 その中心となるのが仮想化ソフト「VMware」だ。AWSは2017年8月から「VMware Cloud on AWS」を開始した。VMware Cloud on AWSは、仮想マシンにVMwareを採用し、オンプレミスのVMware上で動作している環境を変更なしにAWS上に移行できることが売り文句だ。日本でも2018年から提供予定だ。

 IBMも「VMware on IBM Cloud」を2016年から提供している。日本IBMの三澤智光 取締役専務執行役員IBMクラウド事業本部長は、「クラウドネイティブな形でパブリッククラウドへ移行することには慎重だが、これ以上ハードウエアに投資したくないと考えるVMware利用者に売り込んでいく」と話す。

 IBMはVMware on IBM Cloudに加え、新たなIBM Cloud Private、そしてIaaS/PaaSを提供するIBM Cloudを用意することで、「オンプレミスに残したいシステムとクラウドに移行するシステム、そしてクラウドに移行した後にクラウドネイティブに変えるシステムと、それぞれに最適な環境を提供する」(三澤専務執行役員)狙いだ。