元ソニーのCIO(最高情報責任者)で、現在ガートナー ジャパンのエグゼクティブパートナーを務める長谷島眞時氏。
以前の連載「システム部門幸せ計画」で企業のIT部門が幸せになる道を示したが、新連載ではIT部門限界説に徹底反論し、IT部門の新たな役割を浮き彫りにする。

 クラウドやビッグデータなどの動向に見られるように、ITは加速度的に進化しており、幅広く利用されることによって、今や企業運営に欠かせない“ライフライン”になった。企業のIT部門(情報システム部門)の責務はますます重くなり、IT部門で働く人たちは日々、かなりのプレッシャーを感じながら、仕事に就いているはずだ。

 そうしたIT部門の人たちは、仕事に対して、やりがいや誇りを持てているだろうか。残念ながら、企業の業種や規模を問わず、多くの人が疲弊し切っていて元気がないのが実情ではないかと思う。

 その原因は、単に仕事が激務だからではない。重要かつ難しい仕事を受け持っているにもかかわらず、経営陣や事業部門から評価を得られていないことが大きな要因である。

 システムが順調に動いている時には、IT部門が特に褒められたり感謝されたりすることはない。逆に、何か問題が起きると、途端に社内から「対応が悪い」「スピードが遅い」「コストが高い」などといった文句や非難にさらされることになる。

 こういう状況が続くと、誰もが仕事に対するやりがいや誇りを持てなくなる。仕事に対して受け身になり、自ら新たなことを試みようという意欲も薄れてしまう。新たな問題や障害を避けようとして保守的になり、経営陣や事業部門の要望や要請に対してはディフェンシブな対応を取ってしまいがちになる。

 その結果、IT部門に対する周りの評価を落としてしまうという、負のスパイラルに陥ってしまっている。

「幸せ計画」と「極言暴論」

 以上のような問題意識から、私は2013年4月からほぼ1年間、「システム部門幸せ計画」という連載を執筆した。

 人が働くなかで一番幸せなことは、周りに認められ正当に評価されることである。働く人たちが幸せを感じてこそ、会社や社会に大きな貢献ができる。連載ではそんな信念から、IT部門が自らを縛る「被害者意識」から脱却して、自らの役割を見直し、その役割を果たすことで、達成感という幸せをつかむ道筋を示した。

 その道筋は、私がCIOとして実践してきたIT部門改革のプロセスそのものだ。改革に向けた戦略を立案した上で、「約束したことを約束した通りにできるようになる」、「既存の枠組みを越えた役割の拡大」、「ビジネスのデジタライゼーションを推進し、戦略的役割を担う」の3つの実行フェーズで改革を進める。実践的な内容であるため、多くの読者の幸せに貢献できたのではないかと思う。

 ところが、そうした私の「幸せ計画」を真っ向から否定するかのようなコラムの存在に気付いた。日経コンピュータ編集委員の木村岳史氏がITproに連載する「極言暴論」である。

 木村氏の記事は、「寿命が尽きるIT部門に『終活』のススメ」などとタイトルも刺激的だが、内容も極めて辛らつである。その主張を私なりに要約すると、「IT部門は劣化が進み、経営や事業部門の信頼を失っている。もはや自己改革は不可能で解体・再編するしか道はない」。現状認識は私とほぼ同じだが、改革できないと断じているのである。

反論を通じて可能性を浮き彫りに

 その木村氏と最近、議論する機会を得た。IT部門に対する問題意識は互いに共通することを確認したが、やはりIT部門はもはや限界とする考えには同意できない。人や組織は自ら変われるものだと私は信じている。木村説はコラム名の通り“極言”であり“暴論”であると思う。

 そんな議論をするなかで、「では、極言暴論に反論する形で、長谷島さんの考えを連載で書いてみたらどうか」という提案を木村氏から受けた。私も「幸せ計画」の次の展開を考えていたところなので、受けて立つことにした。

図 IT部門に対する6つの「極言暴論」
図 IT部門に対する6つの「極言暴論」
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 ただ、ITproの長文の連載に対する反論だと、読者は議論の流れを追いづらい。そこで二人の間で争点となった6つの極言暴論について、毎回1つずつ内容を紹介し、それに対する反論を述べることにした。6項目のタイトルと要約をまとめておく()。

 その論点は、CIO不要論に見られる経営とIT部門の関係の問題、IT部門という組織自体と、そこで働く技術者のマインドの問題、事業部門や買収した海外企業のIT部門との関係の問題、ITベンダーに対する丸投げの問題と多岐にわたる。相手は取材を通じて客観的に問題点を捉えているだけに手ごわいが、IT部門の可能性を浮き彫りにすべく、当事者の視点で一つずつ反論していく。

長谷島 眞時(はせじま・しんじ)氏
ガートナー ジャパン
エグゼクティブ プログラム グループ バイス プレジデント
エグゼクティブ パートナー
1976年、ソニー入社。1982年、Sony Electronicsで約10年間、米国や英国に赴任後、1992年帰任。ブロードバンドネットワークセンターe-システムソリューション部門の部門長を経て、2004年、CIO(最高情報責任者)兼ソニーグローバルソリューションズ代表取締役社長CEO。2005年、ビジネス・トランスフォーメーション/ISセンター長。2008年6月、ソニー業務執行役員シニアバイスプレジデント。2012年2月、退任。2012年3月、ガートナー ジャパンに入社して現職。