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2016年1月から、全国の市町村でマイナンバーカード(個人番号カード)の発行が遅延する事態が続いている。地方公共団体情報システム機構(J-LIS)の「カード管理システム」で発生した不具合が原因だ。住基ネットとの中継を担うサーバーの障害が一因とみられるが、原因究明作業は難航。3カ月を経ても、正常化に至っていない。

 2016年1月13日から2月22日にかけて計7回、全国の市町村でマイナンバーカードの交付に関わる処理ができなくなった。人口約372万人の横浜市をはじめ、延べ600程度の市町村が影響を受け、復旧までに最短で10分、最長で3時間半を要した。

 マイナンバーカードの交付を開始した1月から、交付処理の操作の際にシステムの反応が返ってくるまで数十秒を要する、反応しないままタイムアウトする、といった現象も発生。4月に入っても収まっていない。

 市町村の窓口に出向いた住民がカードを受け取れなかったり、待たされたりする事態が生じた。横浜市などは窓口の混乱を防ぐため、カードの受け取りを予約制にするなどの措置を取っている。

 トラブルの原因は、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が1月に本格稼働させたマイナンバーカード管理システムの不具合だ。カード管理システムはNTTコミュニケーションズ(NTTコム)を代表としてNTTデータ、NEC、日立製作所、富士通が参加するコンソーシアムが開発し、J-LISが運用している。J-LISは全国の地方公共団体(自治体)が共同利用する情報システムを運営する組織である。

 原因の一つとみられる中継用サーバーを改修したこともあり、2月23日以降、カード管理システムの処理が全面停止する事象は起こっていない。だが処理の遅延は4月に入ってからも発生している。J-LISは「市町村や住民のみなさまに迷惑をかけて申し訳ない」、NTTコムは「一刻も早い原因究明のため、全力で対応している」とする。

3カ月前の申請分をようやく交付

 マイナンバーカードは裏面にマイナンバー(個人番号)を記載したICカードで、希望者に無償で交付する。市町村に印刷済みのカードが届いた時点ではカードは無効化されており、「交付前処理」や「交付処理」によってカードを有効化する必要がある。

 交付前処理では、カードに記載された内容とシステムのデータを照合したうえで、住民に郵送する交付通知書を作成する。市町村の統合端末から住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)経由でJ-LISのカード管理システムに接続して作業を進める()。

図 地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が運用する「カード管理システム」の構成
住基ネット中継サーバーが不安定に
図 地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が運用する「カード管理システム」の構成
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 通知書を受け取った住民が窓口を訪れたら、統合端末でJ-LISに接続して本人確認や暗証番号設定などを実施する。この交付処理を経てカードは有効化され、交付できる状態になる。

 最大の市町村である横浜市を例に取ると、3月30日時点で約37万枚のカード発行申請を受けていたが、交付できたのは約3万枚。同市には印刷済みのカードが約20万枚届いているのに、約17万枚は市に滞留している。

 理由はシステムトラブルにより、交付に必要な処理に時間がかかっているからだ。横浜市は1日当たりのカード交付数を1800枚程度と想定していたが、交付実績は1日800~1300枚にとどまる。同市は約150台の統合端末を用意しているが、1台当たりの交付数は1日10枚未満となっている。

 交付処理が停止・遅延したために、来庁したのにカードを受け取れなかった住民は1~2月で計1200人以上いた。3月下旬時点でも、2015年12月初旬に申請した住民に交付通知書を送っている状況だ。

 市民局区政支援部窓口サービス課の熊坂俊博課長は、「統合端末の動作が全般に重く、処理がはかどらない。J-LISには何とか早く改善してほしい」と話す。

住基ネットとの中継に不具合

 J-LISは1~2月に処理が停止した理由を、カード管理システム内の「住基ネット中継サーバー」の動作が不安定だったためだと説明する。中継サーバーは住基ネットと、カードの申請・交付を管理する「カード管理業務サーバー」をつなぎ、データ交換に必要な暗号化・復号化といった処理を担う。

 1月の稼働時点で、中継サーバーはハードウエア2台で構成していた。だが1月13日に1号機が故障したため、部品交換により復旧させた。1月18日以降には2号機の動作が不安定になり、処理が停止。ハードそのものを交換した。

 その後、3号機と4号機を増設し、中継サーバーをハード4台構成とした。サーバールーム内に人員を常駐させて状態を監視、不安定になったら即時に手動で再起動するという対応を3月末時点でも続けている。

 J-LISは並行して旧2号機のログ解析を進め、サーバー内の装置間の連携処理プロセスで異常終了が多発していることを突き止めた。対応策として3月初旬から中旬にかけて順次、1~4号機の処理プロセスを改良した。

 総務省は3月17日、市町村に対して負荷が集中する平日9時半~12時の交付前処理を控えるよう呼び掛けた。窓口に来た住民に応対する交付処理を優先させるのが狙いだ。

億単位の損害が生じる可能性も

 部品やハードの交換、処理プロセスの改良により、中継サーバーの動作は以前よりも安定している。だがJ-LISによれば処理が遅延する事象は、3月末時点でも改善されていない。市町村から「処理できない」との問い合わせが毎日数件あるという。

 3月下旬は住民の転入・転出が増えており、住基ネットの負荷が高まっていることが一因とみられる。J-LISは「不具合の原因は中継サーバー以外にも存在する可能性が高い」とし、原因究明を進めている。ところが「何がどう影響しているのか判然とせず、様々な可能性を検討している」という状況だ。

 原因究明が難航している一因は、本番環境を使った検証に使える空き時間がほとんどないことだ。カード管理システムは日中から夜は市町村向け機能を提供し、深夜はJ-LIS内部でカード印刷準備などの処理を実行している。「仮想的なテスト環境を構築して検証する必要があり、問題の再現や改良に手間取っている」(J-LIS)という。

 原因究明が長引くと、市町村への影響が増す。横浜市は現在の交付ペースが続けば、年度末に10万枚前後を積み残す。「余分にかかる人件費など億単位の損害が発生する可能性もある」と熊坂課長は話す。