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 訪日観光客の急増によって、インバウンド売り上げが700億円に迫る。越境ECの取り組みを含め、グローバルな事業展開の枠組み作りを急ぐ。ハウスカードで築き上げた高度な顧客情報管理を外国人客にも応用。IT部門を情報戦略本部に格上げし、ITと経営の融合を目指す。

訪日観光客は年間2000万人に上っています。三越伊勢丹グループの売り上げに占める訪日観光客の購入額はどれくらいですか。

大西 洋(おおにし・ひろし)氏<br>1979年慶應義塾大学商学部卒業後、伊勢丹 入社。執行役員経営企画部総合企画担当長、 三越常務執行役員などを経て、09年、伊勢丹 の代表取締役社長執行役員に就任。2010 年に三越伊勢丹ホールディングス取締役とな り、2012年より現職。三越伊勢丹の代表取 締役社長も務める。2016年5月に日本百貨 店協会会長に就任予定(写真:村田 和聡)
大西 洋(おおにし・ひろし)氏
1979年慶應義塾大学商学部卒業後、伊勢丹 入社。執行役員経営企画部総合企画担当長、 三越常務執行役員などを経て、09年、伊勢丹 の代表取締役社長執行役員に就任。2010 年に三越伊勢丹ホールディングス取締役とな り、2012年より現職。三越伊勢丹の代表取 締役社長も務める。2016年5月に日本百貨 店協会会長に就任予定(写真:村田 和聡)

 2016年3月期は訪日観光客のお客様からの売り上げが700億円近くになりました。伊勢丹新宿本店では、売り上げ全体の10%、三越銀座店では25%に上っています。

 2016年1月には三越銀座店の8階に「Japan Duty Free GINZA」をオープンしました。沖縄以外では日本初の空港型市中免税店(消費税や関税などが免税となり、商品を成田・羽田空港内で受け渡す)です。日本空港ビルディング、成田国際空港、当社の3社が出資するJapan Duty Free Fa-So-La 三越伊勢丹が運営します。

 この店舗以外の既存店では、外国人のお客様向けの品ぞろえは特に意識していません。日本のお客様に支持される商品を、外国人のお客様にも提供したいと考えています。だからインバウンド向けの売り上げ目標はあえて立てていません。

 一方で空港型免税店はもっと増やす可能性があります。その場合は、既存店の中ではなく、別のビルなどを借りて出店することになるでしょう。

以前からインバウンド対策には力を入れていたのでしょうか。

 外国語対応ができる店舗のスタッフを雇用し、商品をホテルまで届けるといった、通常より少しパーソナルなおもてなしをかなり前から提供してきました。

越境ECでキャッチアップ

 日本の伝統や技術が宿る商品などを世界に発信する「JapanSenses」という活動も続けてきました。三越伊勢丹の海外店舗も、知名度を上げる一助になっていると思います。

 とはいえ、これほど多くの外国のお客様に来ていただけるようになったのは、政府が入国を緩和したり、為替が円安になったりといった外的要因のおかげです。

 多くのお客様に三越伊勢丹の店舗を体験してもらったので、海外に情報を発信したり、あるいは海外のプラットフォームでお買い物をしていただけたりする環境は整えていきたいと思っています。越境ECも今年中に何とかスタートさせたいと思っています。

 人口減で日本の市場は縮小していきます。この秋にはパリに小規模店舗を出店する予定ですが、今までの百貨店とは違うビジネスモデルになります。やはりECを使った海外戦略が大事です。

国内ではハウスカード「エムアイカード」の会員約280万人の購買行動をデータベース化し、販促や品ぞろえに生かしています。訪日観光客にも適用していきますか。

 まさに今始めたところです。インバウンドのお客様も2回目、3回目のリピーターが増えています。日本のお客様と同様に、その方のデータを把握し、「過去にどんなものを購入したか」「次いらっしゃるときは何を買う可能性があるか」が分かる状態にしていかなくてはいけません。

Tポイントと提携、新事業に生かす

 今は、海外の三越伊勢丹の店舗で発行したカードを持っていらっしゃるお客様についてはデータを把握できていますが、そのほかの方は手書きでお名前などをいただいて名簿を作っています。これをシステムに載せていければいいなと。海外のお客様専用のカードを発行して、顧客管理していく時代ももうすぐ来るでしょう。

インバウンドとは違う話になりますが、2015 年10月にカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と新会社を設立することを発表しました。この春から三越伊勢丹の国内百貨店子会社で「Tポイント」が利用できるようになります。この狙いは何ですか。

 Tポイントの利用者の情報と、当社の顧客情報が統合されるので、うちの店舗では購入していないけれど、購買力のあるお客様の情報が取れるようになります。ただ、Tポイント会員のうち、うちで購買実績のあるお客様は既に30%以上いらっしゃるようです。ポイント交換についても、ほかのTポイント加盟企業と単価が違うので、あまりメリットはないでしょう。

 期待しているのは、CCCさんの企画力です。マーケティングがうまくて、データの分析にもたけています。

それを店舗の販促に活用すると。

 ちょっと違いますね。CCCさんは図書館事業も手掛けるなど、街づくりに関わっています。そういうところを一緒にやりたいという思いがあります。期待しているのは地方です。うちも今、地方の店舗は苦しくて、何をすればいいかが正直見えなくなっています。だからCCCさんと何かできればいいなと。

 これはインバウンドも同じです。地方の温泉が中国のSNSで情報を発信して、訪日観光客が増えた成功例もあります。地方創生のカギをインバウンドが握っているのです。

 今、2000万人の訪日観光客の半数は地方に行っています。初めて日本に来るときは、ショッピングが目的かもしれませんが、2回目、3回目はモノではなくコト消費に代わっていくでしょう。だから小売りのインバウンド消費は、今後は今までほどには盛り上がらないのではないかと思います。

今後、IT活用やデジタル戦略にどう取り組んでいきますか。

 テーマは二つあります。一つはEC。各百貨店が運営するECサイトはこれまでもありましたが、正直あまりちゃんとやっていませんでした。2年前に組織を作り直し、品ぞろえと物流と倉庫を整備しました。今は毎月20%ずつ売り上げが伸びています。

 とはいえ売り上げはまだ120億円くらいで、全体の1%。極めて恥ずかしい数値で早期に10%まで引き上げなくてはいけません。

 もう一つのテーマはITやデジタルを使った新しいビジネスモデル作りです。実はこの1~2年色々なトライアルをしました、整理して今年中に方向性を示すつもりです。

AIにも興味、POS改善は業界全体の課題

(写真:村田 和聡)
(写真:村田 和聡)

 この4月には情報戦略本部を新設しました。経営のプラットフォームにITがあるのは当たり前なので、部だった組織を本部に格上げしました。この中にグループマーケティング戦略部とIT戦略部があります。グループマーケティング本部は、グループを包含したオムニチャネルの取り組みを担当します。

 IT戦略部では新しいビジネスモデルを考えます。2015年にはファッションとデジタルを融合するイベントに参加し、データを活用して新しい顧客体験を生み出すアイデアなどを世界から募りました。こうした取り組みをもっと進めていきます。

販売やサービス面でのIT活用は?

 ロボットや人工知能(AI)の活用にもとても興味を持っています。インフォメーションデスクでの対応にAIが使えるのでは、とか。ただやはり接客は人と人とのつながりですから、なくなることはありません。

 その接客に時間を割けるようにすることが喫緊の課題です。まだまだバックオフィス業務に人手がかかっている部分が多い。最優先でやらなくてはいけないのはPOS(販売時点情報管理)システムです。お客様から従業員が現金やカードをお預かりして離れた場所のレジまで行くなんていうのは、世界中で日本の百貨店だけです。百貨店業界全体で改善していきます。