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米ギットハブは2015年6月4日、同社初となる海外拠点を日本で開設した。同社が運営するGitHubは、970万人の開発者が利用する、世界最大のソースコード管理サービスだ。日本法人の設置で、国内エンジニアとの関係を深めるほか、企業向け日本語サポートを始める。GitHubは、日本のソフト開発をどう変えるのか。ワンストラスCEO(最高経営責任者)に聞いた。

GitHubは、エンジニアや企業に何を提供するサービスなのでしょうか。

クリス・ワンストラス(Chris Wanstrath)氏<br>ソフトウエア開発者および起業家。米CNETネットワークスにてエンジニアとして勤務した後、Ruby on Railsのコンサルティング事業を展開。2008年、ソースコードを共有してプロジェクトの共同作業の簡易化を実現するため、ギットハブを共同創業した。GitHubの製品開発に携わった後、2014年1月にCEOに就任。(写真:陶山 勉)
クリス・ワンストラス(Chris Wanstrath)氏
ソフトウエア開発者および起業家。米CNETネットワークスにてエンジニアとして勤務した後、Ruby on Railsのコンサルティング事業を展開。2008年、ソースコードを共有してプロジェクトの共同作業の簡易化を実現するため、ギットハブを共同創業した。GitHubの製品開発に携わった後、2014年1月にCEOに就任。(写真:陶山 勉)

 GitHubは、ソフトウエアエンジニアが互いに連携しながら、ソフトウエアを楽しく開発、レビュー、デプロイ(配置)できるよう支援するためのWebサービスです。

 具体的には、Linuxの創始者であるリーナス・トーバルズ氏が開発したソースコード管理ツール「Git」に、FacebookやTwitterのようにエンジニアが互いにコミュニケーションできるハブ(Hub)の機能を加えました。

 例えば、ソースコードに誤りがないかチェックするコードレビューは、エンジニアにとって苦い薬を飲むような、嫌々手掛けるものです。GitHubは、コミュニケーション機能などを通じ、レビューという作業をエンジニアにとって楽しい作業にすることを目指しています。苦い薬を「甘いキャンディー」に変えるようなものです。

GitHubとして国外初のオフィスを日本に開設した理由を教えてください。

 日本のGitHubコミュニティーの活動は、諸外国と比べても強力です。オープンソースソフトウエア(OSS)だけでなく、エンタープライズソフトウエアの開発にもGitHubが使われています。むしろ「オフィス開設の方が出遅れた」という認識があります。

 それに、日本はRubyの発祥地です。私もRubyを使っており、Rubyを含めた日本発の技術に魅了されています。

日本オフィスの役割は。

 我々はこれまで、多くの開発コミュニティーに呼びかけて「GitHubにどんな機能があると嬉しいか」「どうすればソフトウエア開発は楽になるか」を聞き取り、機能に反映させてきました。

 同じように、日本のGitHubコミュニティーに参加し、対話し、フィードバックを得たいと考えています。拠点を持つことで、こうした対話をスムーズに行えるようになります。

社内を説得しやすくなる

 多くの場合、GitHubの導入は社内の熱意あるエンジニアからの呼びかけがきっかけになります。日本のソフトウエアエンジニアからも、「社内のソフト開発にGitHubを使いたいが、会社から許可が下りない」との声を聞きます。日本オフィスの開設によって、日本のエンジニアは社内を説得しやすくなるでしょう。

ソフト開発の内製化が進む

「全ての企業はソフトウエア企業になる」というのが持論です。

 そうです。将来、全ての企業にとって、ソフトウエアの社内開発は当たり前の行為になります。

 全ての会社がソフトウエア会社になった時点で、「ソフトウエア会社」という呼び名は消えるでしょう。ソフトウエア開発を巡る人間同士の共同作業は、100年後も重要であり続けます。

傾向は既に現れているのでしょうか。

 伝統的な大企業は、これまでソフトウエア開発の業務をITベンダーに発注していました。

 GitHubの利用傾向から分かるのは、最近ではソフトウエア開発を社内に戻し、内製へと移行する企業が増えていることです。クラウドへの移行に伴って自社のデータセンターを廃止し、浮いた資金でソフトウエアエンジニアを採用しています。

 ソフトウエアを構築するエンジニア同士のコミュニケーションの課題は、OSSコミュニティーでも、大企業のソフトウエア開発部門でも、本質的には変わりません。

 具体的には、同時並行する複数のプロジェクトをどう可視化するか、組織内に蓄積したソフトウエア資産をいかに探し出し、有効に活用するか、といった問題です。

 こうした問題を解決し、ソフトウエアの社内開発を支援するため、GitHubでは無償のパブリック版のほか、ソースコードの公開範囲を限定した有償のプライベート版、そしてGitHub環境を社内サーバーで実現する有償のオンプレミス版「GitHubEnterprise」を提供しています。

 GitHubは、伝統的な老舗企業も多く利用しています。米国では、19世紀創業の農業機械大手ディア・アンド・カンパニーが一例です。米連邦政府や自治体もGitHubのユーザーです。

 日本では、日立システムズ、ヤフー、サイバーエージェントなどがGitHubを活用していますね。

政府や自治体がGitHubを使っているのですか。

 面白いのが、米連邦政府とフィラデルフィア市の事例です。連邦政府は、政府のデータを市民が簡単に検索、分析できるWebサービス「Data.gov」を開発しました。政府はGitHub上でソフトウエアを開発し、GitHub上でコードを公開しました。

 この公開コードを使い、今度はフィラデルフィア市がData.govの同市版を構築したのです。連邦政府とフィラデルフィア市はGitHub上で協調してソフトウエアを開発したのです。

エンジニアの枠を超えコラボ促進

GitHubは元々、利用者としてOSSコミュニティーやスタートアップ企業を想定していました。今では対象が大企業にも広がり、さらにエンジニアの枠を超えたコラボレーションツールになっています。

(写真:陶山 勉)
(写真:陶山 勉)

 GitHubのサービスを立ち上げた当初は、確かに利用者としてスタートアップ企業や小規模のOSSコミュニティーを想定していました。

 だが実際は、利用者はこれにとどまりませんでした。企業、学校、政府などあらゆる組織が「ソフトウエアを早く、効率よく、透明性を持って開発したい」とのニーズを抱えていることに気づいたのです。

 他のソースコード管理ツールは「プロジェクト」に焦点を当てていますが、GitHubの焦点は「人間」です。

 プロジェクトの形や定義は時代によって変化しますが、「人間がコラボレーションし、成果物を生む」という本質は変わりません。

 GitHubは、これまで会話の機会すらなかった組織同士を連携させます。この点で、企業にメリットをもたらすという以上に、企業文化そのものに変革をもたらし、業務の流れを変えるものといえます。

企業としてのギットハブ自身、GitHubのヘビーユーザーです。

 そうです。ギットハブでは、従業員全員がGitHubを使っています。

 登録するドキュメントは、ソースコードに限りません。営業チームは、顧客との会合の議事録やフィードバックを書き込んでいますし、財務チームは会計ポリシーを、人事チームも文書の管理にGitHubを使っています。

 我々は、従業員全員が参加してソフトウエアを作っています。例えばカスタマーサポートの従業員であっても、顧客から「こんな機能があればいいな」という要望を聞いたら、GitHub上でソフトウエアエンジニアに直接伝えることができます。

 GitHubがあれば、オフィスに通勤することなく、世界のどこでも遠隔で働くことができます。

 我々の従業員も半分くらいが遠隔で働いています。常に100人前後がオフィスにいて、100人前後がリモートで働いています。

GitHubの次の成長の機会はどこにありますか。

 GitHubは今、世界中の970万人の開発者によって2330万のプロジェクトが展開されるまでに成長しました。次に目指すのは、GitHubをプラットフォームとして進化させることです。人々が、GitHub上で会社を興したり、サービスを開発したりできるようにしていきます。

 継続的インテグレーション(CI)ツールのような開発ツールのほか、社内チャットツール「Slack」のような外部のコラボレーションツールと連携する機能を強化します。TwitterがAPIの提供を通じて、プラットフォームとして機能しているのと同じ方向です。