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 年間2万5000時間。双日の社員が、経費精算業務に費やしていた時間を合計した数字だ。「システム導入で、これを60%削減できると見込んでいる」。2016年4月まで主計部主計課の課長を務め、システムの導入を主導した柴田知見氏(現・経営企画部 予算統轄課課長)はこう話す(図1)。

図1 経費精算をめぐる従来の課題と、システム導入後の効果
経費精算の負荷を、システム化で大幅削減
図1 経費精算をめぐる従来の課題と、システム導入後の効果
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 総合商社として国内外で多様な事業を手掛ける双日。営業担当者は毎日のように各地を飛び回り、取引先と打ち合わせや会食を重ねる。それに伴って発生するのが、交通費や出張旅費、交際費などの個人立て替えだ。

 全社員約2300人の半数が、こうした経費の精算処理を日々実施する。精算の件数は、年間で2万件ほど。従来は紙の書類を基に申請や承認を進めていたが、作業負荷など複数の課題を抱えていた。

 そこで、経費精算システムの導入を決断。2015年11月に稼働させた。スマートフォンやパソコンで経費の申請や登録、承認などの処理を済ませられるようにした。

膨大な書類を目でチェック

 システム導入の大きな目的の一つが、従業員の作業負荷削減だ。従来は、経費を立て替える営業部門や、支払い処理を担う経理部門の担当者にそれぞれ煩雑な作業が発生していた。

 営業部員は個人立て替えの経費が発生すると、「精算書」と呼ぶ書類を作成する。使用額や行き先、会食の相手などのデータをExcelシートに手入力し、紙に出力して課長や部長などの上司に回す。上司は、これを1枚ずつ目でチェック。問題がないことを確認し、印鑑を押す。

 精算書とは別に、経理部門に支払いを依頼するための「支払伝票」を作成する必要もある。同じく部内の承認を得てから、紙の領収書を添えて経理部門に提出する。

 出張費や交際費については、事前の申請も必要だ。同じく紙の書類を作成し、上司の捺印を受ける。

 こうした作業が経費精算1件ごとに発生し、作業に手間がかかっていた。承認のフローも滞りがちだった。「上司が出張などで不在だと、紙への捺印を受けられない。戻ってくるまで経理部門に精算を依頼できない、といったことが頻発していた」(柴田氏)。

 作業の煩雑さは、記入漏れや誤記入も招いていた。単純なミスでも、書類を目で確認する方式では本人や上司は見逃すことがある。

 それが、経理部門の負荷の増大につながった。記入ミスの有無をはじめ、社内ルールや法律上の問題がないかを子細に確認する必要がある。しかも、目視でチェックをするほかなかった。

ルールの徹底にも限界が

 ガバナンス上の問題もあった。例えば交際費の管理。経費を使用した相手や場所などの情報が書類上にしかなく、集計しにくい。「取引先ごとに交際費の利用実績を把握するといったことが難しかった」(柴田氏)。

 人手のチェックでは、社内の経費精算ルールの徹底にも限界があった。経費によっては既存のルールでは処理方法に迷うものがあり、「個々の処理方法を個別に判断するため、社内のあちこちにローカルルールができてしまっていた」(柴田氏)。

 こうした課題の解決を目的に採用したのが、米コンカーのクラウド型経費精算サービス「Concur Expense」だ。Concur Expenseは、一足先に同社の米国法人が利用していた。

 当時、米国法人もガバナンスなど経費精算にまつわる課題を抱えていた。システム導入を検討し、米国の企業で広く使われていたConcur Expenseを採用して2014年に活用を始めた。

 そのころ米国赴任中だった柴田氏は現地でこのプロジェクトに携わり、システムの効果を実感していた。こうした経験が、日本の双日本社への導入につながった。

データの不備はシステムで検出

 Concur Expenseの導入によって、経費精算処理は変わった(図2)。営業部員は、書類作成の代わりに、パソコンやスマートフォンアプリを使って経費データを入力する。

図2 システム導入前と導入後のワークフロー
経費精算をペーパーレス化
図2 システム導入前と導入後のワークフロー
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 入力時には、Concur Expenseが備える「Suica」「PASMO」などの交通系ICカードや、クレジットカードの利用履歴を取り込む機能を活用する。金額や日付、利用した場所などが自動的に入力されるため手間がかからない。従来は書類作成を営業部門のアシスタントに依頼する部員もいたが、自分で処理する部員が増えているという。この機能を使えば「使用した経費の情報がそのまま取り込まれるため、不正な経費申請を防止できる」(柴田氏)という利点もある。

 上司は、部下が入力したデータをスマートフォンなどから確認して承認する。書類を1枚ずつ確認して捺印する作業が不要になったほか、外出先からの入力や承認も可能になった。ワークフローが滞ることがなくなった。

 経理部門にとっては、チェック項目を減らせた効果が大きい。「単純な記載漏れや記入ミスは、入力段階でシステムがエラーを表示する。経理部門に回る前にこうした不備がない状態になっている」(柴田氏)。経理部員は、領収書が要件を満たしているかなど、人手でのチェックが不可欠な項目に労力を割けるようになった。

 ガバナンスも向上した。ConcurExpenseに経費精算の社内ルールを設定することで、入力データに問題がないかを自動チェックできる。

 ルールの整備には労力を割いている。例えば電子決済では、紙の領収書が発行されないことも多い。何を正式な領収書と認めるかについて議論を重ね、ルールを設定した。

 それでも、既存のルールに当てはまらない事例は次々出てくる。新たなサービスや決済方法が日々登場し、全てを網羅するルールの設定は不可能だ。「日々、走りながらルールを追加している状況」(柴田氏)で、現在も整備は継続中という。

十分な社内説明を実施

 プロジェクトを通じて柴田氏が留意したのは、「十分に社内説明する」ことだった(図3)。「Concur Expenseの導入は、社内の経理申請の“文化”を変えるのと同じ」(柴田氏)だからだ。

図3 経費精算処理システム化の経緯
時間を掛けてシステム導入を進めた
図3 経費精算処理システム化の経緯
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 SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)であるConcur Expenseは、導入の技術的なハードルは高くない。実際、コンカーからは「大企業でも2~3カ月で導入可能」といわれたという。だが従来の方法に慣れた社員の理解を得るには、時間を掛ける必要があると柴田氏は考えた。

 まず重視したのは、「中心となる経理部門のメンバーの納得感」(柴田氏)だ。検討開始から間もない2014年11月に、ほぼ全ての経理アシスタントを対象にデモを実施した。システムの実際のユーザーになるメンバーから、200件を超える意見を集約。考えられる限りの課題を洗い出した。これらに基づいてコンカーとやり取りを重ね、疑問点や不安点を解消した。

 こうした工程を、システム導入の社内決裁前に設けた。「既に導入が決まったシステムには、どうしても“やらされ感”が出てしまい、創造的な意見が出てこない」(柴田氏)からだ。社内決裁で許可を得た金額や稼働日に縛られて、十分な検討ができないリスクを避ける狙いもあった。

 これほどの手間と時間を掛けても、システム稼働後には操作に戸惑う社員が少なくなかった。グループ会社の双日システムズ内に設けたヘルプデスクには、当初毎日60件ほどの問い合わせが寄せられたという。問い合わせ内容やそれに対する回答を、FAQとして整備。社内に公開して疑問解決に役立てられるようにした。

 実は、社員にとってシステム導入前後で、増えた作業が一つある。使った経費をConcur Expenseに登録する際に、領収書を電子化して添付する作業だ。スキャナーやスマートフォンのカメラで電子化し、そのファイルを付加する。

法令改正を見据え領収書電子化

 電子化した領収書の添付を必須にしたのには、大きく二つの目的がある。一つは、上司が社外からも承認できるようにするためだ。領収書画像が付与されていれば、スマートフォンなどで問題ないかをチェックできる。

 もう一つは、将来の法令改正に備えるため。電子帳簿保存法の改正により、2016年9月末から、スマートフォンやデジタルカメラを使った領収書の電子化/保存が認められることを見据えた対応だ。

 企業には領収書の保存義務があり、基本的には紙の原本を7年間保存しなくてはならない。電子保存も部分的に認められていたが、電子化の手段などに制約が多く、大半の企業は紙で保存してきた。双日も同様だ。そのために、紙の取り扱いが煩雑、保存のコストがかかるなどの問題に悩まされていた。

 法令改正によってスマートフォンのカメラを使って領収書を電子化し、紙を廃棄できるようになれば、問題は解消できる。「経理担当者としても魅力を感じるし、営業部門からも期待の声がある」(柴田氏)。

 現段階では監査の運用方法などが見えておらず、電子化の可否は検討中という。ただ将来的に電子化に踏み切る可能性はあり、「今から電子データを必須にすれば、そのための予行演習にもなる」(柴田氏)。

 当初営業担当者からは、紙と電子データの両方の添付を求められることに、不満の声もあったという。経理部門のスタッフが法令改正について根気強く説明を重ね、理解を得ていった。

 双日は今後、この体験とノウハウを活用し、子会社にも同様のシステムを展開する計画だ。