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サカタのタネがシステム部門による「内製」力の育成と強化に挑む。社内に乱立する部門システムを超高速開発で刷新。データの一元管理とシステムガバナンスの確立も狙う。

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 花と野菜の種の売上高で世界トップ5(推定)に入るサカタのタネ。19カ国に拠点を持ち、海外売上高比率が5割を超えるグローバル企業だ。創業104年目を迎えた同社は、国内に200個以上ある部門別のいわゆるEUC(エンド・ユーザー・コンピューティング)システムを刷新するプロジェクトを通して、システム部門の内製力強化とITガバナンスの確立に乗り出した。

ヒマワリ「ビンセントオレンジ」の種(上)とサカタのタネの本社(横浜市)(写真提供:サカタのタネ)
ヒマワリ「ビンセントオレンジ」の種(上)とサカタのタネの本社(横浜市)(写真提供:サカタのタネ)
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 米マイクロソフトのExcelやAccessで開発したEUCシステムを超高速開発ツールとアジャイル開発手法でリライト(書き換え)して、Webシステムに刷新するプロジェクトを2016年夏から本格始動した。既に6個のEUCシステムを刷新。プロジェクトの企画から利用部門との交渉、実際の開発までを手掛ける情報システム部の嶺沢健一氏は「利用部門は帳票レイアウトひとつ作るのに2~4人日をかけていたが、そうしたEUCの工数を大幅に減らせ、本来の業務に振り向けられるようになった」と話す。

30年間の外部委託で開発力を失う

 「情報が様々な場所に分散していて、連携していない。これではデータの質が落ち、ITガバナンスも機能しない」。複数のIT企業を経て2013年にサカタのタネに転じた嶺沢氏は入社後すぐに、業務システムの課題をこう認識した。原因はEUCシステムの乱立だった。

 乱立した経緯を紐解くと、システム部門が基幹系システムの外部委託を過去30年にわたって進めてきたことが分かった。その結果、システム部門は開発力を失い、利用部門の開発要請に機敏に応えられなくなっていた。

 利用部門から「この業務をシステム化できないか」「この事業アイデアをITでどう実現するか」といった相談を受けても、外部委託に慣れたシステム部は費用や実現可能性をタイムリーに答えられない。利用部門は「システム部門には頼れない。自分たちでやるしかない」と考え、EUCが進んだようだ。

 EUCシステムだけでなく、基幹系システムや業務系システムも乱立していたという。売上高比率が過半を占める海外業務は40個のシステムによって成り立っていたのに対し、日本国内向けでは150個のシステムが稼働していた。「販売チャネルや製品ごとにシステムを作ってきた」(嶺沢氏)。増えたシステムの案件管理と外注管理で約10人の部員が手いっぱいになっていた。

 嶺沢氏は国内外のITベンダーが開発する複数のERP(統合基幹業務システム)製品のコンサルタントをしていた経験から、システムは「ワンファクト・ワンプレイス(1つの事実は1つの場所にあるという考え方)」であるべきだと考える。ところが当時はシステムの乱立でファクト(業務データ)が複数個所に分散・重複していた。

 「何とかしなければ」と思い立った嶺沢氏は、システム部長や経営層に課題を説明。自らが改革の旗振り役を務める覚悟を決めた。

全国行脚で顔を売る

 嶺沢氏はまず、EUCシステムの現状調査に着手した。EUCはシステム部門が実態をほとんど把握していない「シャドーIT」だったためだ。2015年の秋から冬にかけ徹底的に調べたところ、少なくとも200個はあると分かった。

 なかでもAccessをベースにしたEUCシステムが増加傾向にあったという。多くは10~20人でデータを共有する規模だったが、200人で使う大規模なシステムもあった。本社で使う業務データと各拠点で必要なデータに差があり、その差を埋めるために開発したケースが多かった。

 こうしたシャドーITをシステム部門の管理下に置くにはどうすればいいか。嶺沢氏が注目したのが超高速開発ツールだった。「コードを書かずに済み、短期間で開発を終えられ、素早く稼働できる点が課題解決に適していると考えた」(嶺沢氏)。超高速開発ツールの採用によってシステム部門の内製力を高め、段階的にEUCシステムを刷新し、システム部門の配下に置き換えていく構想を描いた。

 嶺沢氏はさっそく超高速開発ツールの選定を進めた。候補は国内ITベンチャーのBlueMeme(ブルーミーム)が販売代理店を務めるポルトガルのアウトシステムズ製の「OutSystems Platform」、キヤノンITソリューションズの「Web Performer」、マジックソフトウェア・ジャパンの「Magic xpa Application Platform」の3種である。同氏は各社からそれぞれ話を聞き、デモを体験し、開発の仕方や課金体系などの知識を深めた。最終的に選んだのはOutSystemsだった。「ワンクリックでアプリケーションを本番サーバーにデプロイ(配備)できるなど、使い勝手の良さが目立った」(嶺沢氏)。

 2016年春から夏にかけて嶺沢氏は全国行脚に出かけた。EUCシステムを再構築するには、利用部門と信頼関係を築く必要があると考えたからだ。

 生産拠点や倉庫など12カ所を回り、それぞれ1~2時間、システムに対する要望を聞いて回った。「ITで新しい取り組みを始めるのでぜひ集まってください」と事前に通知し、集まった人たちから直接話を聞いた。

 「システム部門はシステム化の要望を聞いてくれない」「Accessの巨大なEUCシステムのメンテナンスに困っている」―。現場の従業員からは、これまでの体制への不満の声を聞くことができた。嶺沢氏は「現場が困っている現状がよく分かりました」と答え、「システム部門が新しい開発手法でEUCシステムを再開発しますので、今後もコミュニケーションを取っていきましょう」と続けた。対話を機に利用部門との関係づくりを進めていった。

図 シャドーIT撲滅と開発速度向上の取り組み概要
超高速開発で内製力を取り戻す
図 シャドーIT撲滅と開発速度向上の取り組み概要
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「仕様書は作らない」と割り切る

 本格的にシステム開発に着手したのは2016年夏のことだ。嶺沢氏はインフラ構築からWebアプリケーション開発まで一通りの経験はあるものの、超高速開発の活用は初めて。システム部門に異動してきたIT企業出身の鷲沢柚香氏とともに、OutSystems事業を手掛ける伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)が開発したスケルトンのシステムを「写経するようにひたすらなぞって手法を覚えた」(嶺沢氏)。

 嶺沢氏らはOutSystemsを使うに当たり、開発の社内ルールを整備した。重要視したのは開発者の「癖」を排除する点だ。SQL文を除く拡張コーディングを原則禁止して、システムの保守性と品質を高めるようにした。

 一方で仕様書は作らないと割り切った。頻繁にメンテナンスをしたとしても、ソースコードとドキュメントの内容に乖離が発生する状況は避けられない。開発画面にコメントを残す程度にとどめた。

 開発手法には繰り返し型のアジャイルを採用した。素早く開発できる超高速開発ツールの良さを引き出せるからだ。「スプリント」と呼ぶ開発サイクルを1週間とし、その中で要件定義から詳細設計、実装、テストを終わらせ、業務で使える完成品を作り上げる。

 「開発が長いと利用部門が飽きてしまう」(同)ため、スプリントは平均3回とし、必ず1回目のスプリント終了時に利用部門にレビューしてもらった。ITガバナンスの確立を最優先と位置付け、EUCシステムの刷新では現状機能のリライトを優先。新機能の追加などBPR(業務プロセス改善)の優先度は下げた。

 開発では嶺沢氏と鷲沢氏がEUCシステムをリバースエンジニアリングして現行仕様を解析。「画面設計を含めた細部はシステム部門が決め、利用者にレビューしてもらう方式で進めた」(同)。

図 アジャイル開発と超高速開発ツールを組み合わせた開発の工夫
1~6週間で短期開発((画像提供:サカタのタネ))
図 アジャイル開発と超高速開発ツールを組み合わせた開発の工夫
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最短1週間でリリース

 一連の方針のもと、第1弾として営業担当者が資材の販売管理に使うAccessベースのEUCシステムを刷新した。利用人数が150人と比較的多く、日常業務に欠かせないシステムにもかかわらず、データを基幹系のDWH(データウエアハウス)と手動で連携させる必要があるなど課題が多かったためだ。

 嶺沢氏らは基幹系やDWHから超高速開発ツールで作ったシステムにスムーズかつ高速にデータを受け渡すため、基幹系やDWHのデータをEAI(エンタープライズ・アプリケーション・インテグレーション)ツールで抽出・変換するように工夫。さらにデータの分散を防ぐ目的で、利用者のPCに散在していたEUCシステムの業務データを集約するデータベースを用意。EAIツールとOutSystemsで作ったシステムの間に配置した。基幹系やDWHのデータをOutSystemsで作った新システムから直接参照・更新できるようにもした。

 嶺沢氏らは資材の販売管理システムの刷新を2016年12月に終えた。現場からは「使いやすくなった」との声が寄せられ、アクセス数も増えたという。

 評判は社内に広がり、2017年春ごろには行脚先で知り合った現場などからシステム化の相談が次々と舞い込むようになった。嶺沢氏らは現場の声に応えるため、刷新や新規構築のプロジェクトを20案件ほど設け、すぐに取り掛かった。

 2017年9月現在で6個のシステムを稼働させた。わずか1回のスプリントで刷新にこぎつけたシステムもあったという。乱立するEUCシステムの段階的な刷新に向けた種まきができたことになる。

図 新しいシステムアーキテクチャーの全体概要
EAIでデータを高速につなぐ
図 新しいシステムアーキテクチャーの全体概要
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目標は基幹系システムの進化

 EUCシステム刷新の取り組みを、嶺沢氏は将来の基幹系システムの刷新に向けた要件定義工程と位置付ける。

 サカタのタネは現在、NECのメインフレーム上にCOBOLで開発したアプリケーションと米オラクルのERPパッケージ「Oracle E-Business Suite(EBS)」を組み合わせた基幹系システムを稼働させている。将来は別のERPを使って刷新する計画だ。刷新を進めるEUCシステムは、現場が基幹系に期待する要件を反映していると言える。刷新したシステムのうち、要件が収束して安定稼働しているものは基幹系刷新の際に基幹系の機能の一部として取り込むことで「基幹系を進化させる」(同)。

 一般的に基幹系はライフサイクルが長く、機敏に改修しにくい。一方、ビジネスが変化するスピードはますます速まり、頻繁に改修しやすいシステムが求められている。EUCシステム刷新の経験を生かして、成長させやすい基幹系を作り上げることが中長期的な狙いだ。