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みずほ銀行とソフトバンクは9月に個人向け融資の新サービスを始めた。AIを活用して利用者の信用度を数値化、貸付利率を柔軟に変えられる。若手の社会人や学生がスマートフォンで手軽に使えるように工夫を凝らした。

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 「想定以上に借り入れが集まってきています」「グッドスタートですね」─。2017年11月6日の朝、みずほフィナンシャルグループの佐藤康博社長とソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は満足げな表情を浮かべながら会話を交わした。

 話題に上ったのは個人向け融資サービス会社のジェイスコア(J.Score)だ。資本金50億円をみずほ銀行とソフトバンクが折半出資して、2016年11月に設立。関東財務局に登録している貸金業者として、2017年9月25日に人工知能(AI)を使って若手の社会人や学生に融資するサービス「AIスコア・レンディング」を始めた。ジェイスコアの大森隆一郎社長CEO(最高経営責任者)は「ビッグデータとAIを使った、これまでにない融資サービスだ」と強調する。

 佐藤社長と孫社長が満足げな表情を浮かべていたのは、このサービスの利用者数が開始早々から想定以上に増えているためだ。大森社長は「10年後までに融資残高1兆円という目標が見えてきた」と手応えを見せる。

 同社はサービス開始から10年以内に融資残高を5000億円以上積み上げる目標を掲げる。大森社長は目標の2倍の結果を出せる可能性を示す。

AIが信用力を自動計算

 AIスコア・レンディングはAIを使って利用者の信用力を自動で算出し、その結果を基に融資するサービスだ。国内の20代以上の社会人や学生を融資の主な対象としている。「資格の取得やスキルアップといった教育目的での利用を想定している」(大森社長)。

 最大の特徴は利用者の信用力をAIで自動計算している点だ。利用者が登録した年齢や性別、学歴、年収といったデータを独自のアルゴリズムによって処理して「AIスコア」を計算する。独自指標であるAIスコアの数値に応じて貸付利率や、借り入れ可能な最高金額である「契約極度額」を決めていく仕組みだ。「利用者は自身の信用力を数値で確かめられるため、公正だと感じられるし納得しやすい」と大森社長は話す。

 同社によれば、AIが信用力を自動計算して個人向けに融資するサービスは日本初。米国ではクレジットカードの利用履歴などを基に信用力を算出する「FICOスコア」などの手法が普及しているが、日本には個人の信用力を表す数値化された指標がほとんどない。

 同社はソフトバンクグループが出資するFinTechベンチャーである米ソーシャル・ファイナンスが米国で展開する同様のサービスも参考にして、新サービスを実現した。

借り入れまでスマホで完結

 借り入れの際の情報登録から審査、契約まで全ての手続きをスマートフォンで済ませられるのも、AIスコア・レンディングの特徴だ。金融と先端ITを組み合わせたFinTechを意識したサービスと言える。

 利用者はスマホのWebブラウザーから質問に答える形で学歴や年収など自身の情報を登録する。すると5分もかからず、貸付利率を算出してもらえる。従来型の個人向け融資は多くの場合、店舗に出向く必要があり、ネットで申し込めるサービスでも審査結果が出るまでに1週間近くかかることがあるという。

 サービス開始から約1カ月間に登録した利用者のうち、4~5割は教育資金を目的とした借り入れだった。特に20~30代の層や年収700万円前後の利用者が反応しているという。登録から借り入れまでをスマホで完結でき、AIで信用力を判定するといった先進性が評判を呼んだようだ。

 個人向け融資サービスは通常、書類を準備して審査を受ける必要があり、時間も手間もかかる。同サービスはスマホを使って信用力を即座に算出するので「お金を借りることに抵抗感を持つ利用者も、当社のサービスであれば利用しやすいのではないか」と大森社長はみる。

図 ジェイスコアの融資サービスの流れ
審査から借り入れまでスマホで完結(画像提供:ジェイスコア)
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最高スコアは1000点

 AIスコア・レンディングの利用の流れを詳しく見ていこう。

 利用者はスマホのブラウザーからジェイスコアのWebサイトにアクセスして、必要な情報を登録する。必ず登録しなければならないのは年齢や性別、学歴、勤務先の業種と職種、正社員かどうか、持ち家かどうかなど18種類の情報だ。

 スマホのメッセージアプリを使って、チャット形式で質問に回答しながら登録していく。PCのWebブラウザーからも入力できる。チャットのような流行のユーザーインタフェース(UI)を取り入れたのも、学生や若手の社会人の利用者を増やす工夫の1つだ。

 登録が完了すると、瞬時に利用者のAIスコアを算出する。AIスコアは最高1000点。融資を受けるには600点以上が必要だ。

 AIスコアが高いほど信用力が高く、低金利でお金を借りられる。例えば950~1000点であれば貸付利率は年率0.9~2.1%、600~699点であれば同9.3~12.0%である。

 同サービスは18種類の基本情報のほかに「車を何台持っていますか? 持っていない場合の主な交通手段は何ですか?」といった生活に関する質問や「相手のミスがいつまでも気になる」のような性格に関する約150の追加質問を用意している。これらの質問への回答は必須ではないが、質問に多く答えて情報を追加するほどAIスコアが上がる可能性が高いという。

 追加質問のほかに、外部サービスとの情報連携の可否についても尋ねてくる。自身のみずほ銀の口座情報やソフトバンクの携帯電話料金の支払い情報との連携に同意すると、AIスコアを上げられる。預金残高や取引履歴などのデータを使って、分析精度を引き上げられるからだ。

将来年収まで推定

 AIスコアを算出するためのアルゴリズムはジェイスコアが独自に開発した。詳細は明かしていないが、みずほ銀の個人融資審査業務やソフトバンクの割賦販売における与信モデル構築のノウハウを活用している。

 アルゴリズムの特徴は「利用者の将来の年収を推定できる点にある」と大森社長は強調する。現在は年収が低い20代の社会人でも、将来性まで加味して適切に信用力を判断できるようにしている。このため「従来型のローンに比べて、若手の社会人にも融資しやすい」(大森社長)。

 アルゴリズムはツリーモデルを使った機械学習の手法などを採用して構築した。みずほ銀が持つ個人向け融資のデータなど数千~数万件を学習させたとみられる。ジェイスコアによると、統計学に基づく信用リスクモデルの評価方法に比べて、デフォルト(債務不履行)の発生比率が低いという。アルゴリズムの精度は利用状況を見ながら検証していく方針だ。

 みずほ銀の勘定系システムやソフトバンクの携帯電話の料金支払いシステムとは互いのシステムを直接接続するのではなく、定期的にデータを抽出してから連携する方式とした。「預金口座のデータとリアルタイムに同期させる必要はない」(大森社長)ためだ。この形なら、情報セキュリティ面のリスクを減らせる。

図 ジェイスコアと出資2社のシステム連携の仕組み
みずほ銀やソフトバンクとデータ連携
図 ジェイスコアと出資2社のシステム連携の仕組み
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「銀行だけでは開発が遅い」

 大森社長は元々みずほ銀でローン業務の開発部長を務めていた。同氏によれば、みずほ銀は新サービスの構想を2年以上前から持っていたというが、実現はできなかった。

 今回はジェイスコアを設立してから「約10カ月でサービス開始にこぎ着けた」(大森社長)。これほどのスピードで成し得たのは、2社が力を出し合ったためだと大森社長は分析する。

 「銀行はどうしても意思決定が遅くなる傾向にあり、単独で進めていたらサービスの開始までに必要以上に時間がかかってしまったに違いない。みずほ銀のビッグデータ分析ノウハウだけでは限界もあった」と大森社長は振り返る。

 一方、ソフトバンクはビッグデータ解析などのノウハウを備え、スマホ向けサービスの実績が豊富だが、個人向けの審査や与信管理などの金融ノウハウは十分ではない。新サービスは両社がタッグを組んだからこそ生まれた。

 ジェイスコアの社員は約50人。みずほ銀とソフトバンクからの出向者から成る。4つの開発関連部門はそれぞれ両社のノウハウを活用して作業を進めた。商品企画や与信企画を担う事業企画部は審査や与信のノウハウ、スマホのアプリ開発やフロントサービスの開発を担うサービス&マーケティング部はシステム開発のノウハウを利用するといった具合だ。

 ジェイスコアは今後、様々な業種の企業が持つデータを使ってAIスコアの精度を高めていく考えだ。そのために異業種との提携や協業なども視野に入れる。

 大森社長は「鉄道や電力、自動車、EC(電子商取引)など様々なビッグデータを持つ企業や、ビッグデータ解析に強みを持つベンチャー企業などともタッグを組んで提携して、新たなサービスを生み出していきたい」と意気込みを見せる。電気料金の支払い情報やECサイトの利用情報などの追加まで検討しているようだ。

図 開発関連部門と役割
2社のノウハウを活用
図 開発関連部門と役割
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