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 IT業界は空前の技術者不足に見舞われている。金融機関のシステム刷新やマイナンバー関連など大型開発案件が重なったうえに、景気回復で、多くのユーザー企業がIT投資を再開した。今や開発案件は目白押しの状態で、ITベンダーは受注した仕事をこなすために、外注先などを活用し技術者集めに奔走している状況だ。

 転職を考える技術者には大変な好機が到来したわけだ。実際、技術者に対する求人件数は高止まりしている。例えば、転職求人サイトDODAが毎月発表している「転職求人倍率レポート」によると、転職者に対する求人倍率は3倍前後が続く。

 ここまでの話なら、過去に何度かあった好況期と違いはない。だが実は、今までと異なる動きも出てきた。ユーザー企業の求人が急増しているのだ。リクルートやユニクロを展開するファーストリテイリング、そして自動車メーカーなどが技術者の中途採用を増やしている。DODAのレポートでも「社内SEの求人数が増加」していると指摘する。

 もう少し長期的なトレンドで言えば、大手金融機関をはじめベンチャー企業に至るまで、CIO(最高情報責任者)やシステム部長クラスの人材を、ITベンダーから招へいするケースも増えている。明らかに多くのユーザー企業が、システム内製力の強化に向け動き始めているわけだ。

ITベンダーは事業変革の契機に

 従来、多くのユーザー企業がシステムを内製せず、ITベンダーに開発を委託してきた。日本では終身雇用が前提のため、一時的な開発だけに合わせて技術者を雇用するのは難しいためだ。従来の基幹系システムは業務の効率化を主な目的としており、戦略性に乏しかったこともあり、大企業であっても、要件定義なども含め開発を外部に丸投げすることが常態化していた。

 それが今、多くのユーザー企業は技術者を中途採用し、内製力を強化しようとしている。なぜか。

 理由は最近のトレンドから容易に説明できる。製造業ではIoT(Internet of Things)を活用した新サービス、小売りではEC(電子商取引)と実店舗を連動させるオムニチャネル、金融機関では最新のITで新たな金融サービスの提供を目指すFinTechといった具合に、ビジネスのIT化、デジタル化が急速に進んでいる。いわゆるデジタルビジネスの潮流である。

 デジタルビジネスは企業にとって戦略領域。システム開発を外部のITベンダーに委ねらないケースも多い。そこで技術者を中途採用し、内製力を高めようとしているのだ。

 こうしたユーザー企業の動きは、技術者のキャリアにさまざまな選択肢を与えるだけでなく、日本全体のIT力の底上げにもつながるだろう。

 今までは大半の技術者がユーザー企業ではなくITベンダーに所属していた。ユーザー企業から開発を請け負うSIerも、受注量の変動に合わせて自社の技術者を増減できないから、開発業務のかなりの部分を下請けベンダーに依存してきた。日本のIT業界は多重下請け構造を形成し、多くの技術者は多重下請けのどこかの階層に“固定”される結果となった。

 だが、デジタルビジネスに取り組むユーザー企業が増えれば環境は激変する。デジタルビジネスはスピードが勝負。技術者も即戦力が求められるだけに、多くの技術者がIT業界からユーザー企業に移動することになるだろう。そして、多様なキャリアや知見を持つ技術者が集まることで、いくつものイノベーションが生まれるはずだ。

 優秀な技術者を引き抜かれるIT業界にとっては“不幸”だろうが、多重下請け構造を活用した人月商売は、いずれにしろ長くは続かない。ITベンダーはビジネスモデルを変える契機としたい。