PR
図 Windowsのライフサイクル
「7」のサポート終了は2020年1月、「10」は半年ごとにアップデートを繰り返す(出所:日本マイクロソフトの資料を基に本誌作成)
図 Windowsのライフサイクル
[画像のクリックで拡大表示]

 Windows 7のサポートが2020年1月14日に終了する。残り2年半を切り、刷新の動きが加速しつつある。

 日本郵政グループはWindows 7搭載機12万台超をWindows 10搭載機に置き換える。日清食品ホールディングスは約2000台、イオングループは約4万8000台の移行に着手した。

 7と10の互換性は高く、XPから7への移行に比べればハードルは低い。だが10特有のアップグレードの考え方などを考慮する必要がある。各社の動きを追った。

表 主なユーザー企業のOS刷新の取り組み
Windows 10への全面移行が主流
表 主なユーザー企業のOS刷新の取り組み
[画像のクリックで拡大表示]

イオンは2016年3月から準備

 イオングループは2017年6月から10搭載機への置き換えを始めた。7月中旬時点で約1200台のWindows 10搭載機が稼働。2018年2月までに合計約1万3000台、2019年末までに全ての置き換えを終える計画だ。

 グループのIT子会社であるイオンアイビスの石井和人ITインフラ本部インフラ運用管理部部長は「(2014年4月の)Windows XPのサポート終了時は取り掛かるのが遅く苦労した。当時の反省を踏まえて早く動いた」と話す。

写真 イオン本社と担当者
イオングループは2017年6月にいち早くWindows 10への移行を開始
写真 イオン本社と担当者
[画像のクリックで拡大表示]

 イオンアイビスはグループ各社の事務所や店舗のPCを運用する。事務処理用のPCだけではなく、店頭で発注端末として使うタブレットPC約8000台も含まれる。

 XPのサポート終了時は、サポート切れが1年前に差し迫った2013年4月ごろから置き換えを始めた。台数が多く、店舗の古いPCを回収して新しいPCを送る通常の方法では追いつかなくなった。Windows 7をインストールしたHDDを店舗に送って差し換える方法を取らざるを得ず、慣れない現場は混乱した。そこで今回はサポート切れの約4年前となる2016年3月に7のサポート切れ対策の検討を始めた。

 イオンはInternet Explorer(IE)で動作するWebアプリや、クライアント・サーバー方式で動作するWindowsアプリを約300種類稼働させている。Webアプリについては、2016年夏ごろまでにIE11で動作するよう改修を済ませた。秋ごろから各アプリを所管する部署にWindows 10の検証用PCを貸し出して、既存のPCと並べて動作を検証した。アプリの多くはWindows 10上のIE11でもそのまま動作する。一部で表示が崩れるケースがあったが、軽微な改修で済んだ。

半年に1回のアップデート

 アプリの検証と並行して、10特有のアップデート方針である「Windows as a Service(WaaS)」への対応を検討した。従来のWindowsは、XP、Vista、7、8、8.1、10と名称変更を伴うメジャーバージョンアップを実施してきた。だが10について日本マイクロソフトは「サポート終了はない」「10は最後のWindowsだ」と現時点では説明する。

 その代わりにWaaSでは年に2回、原則として3月と9月にアップデートを提供する。2017年8月時点の最新版は「バージョン1703」、通称「Creators Update」である。Windows 10にサポート終了はないが、個別のアップデートには1年半のサポート期限がある。2017年4月に配布が始まった1703は2018年9月にもサポート切れを迎える。少なくとも1年半に一度はアップデートを実施する必要がある。

 イオンアイビスの野口康寛氏は「WaaSはWindows 10の長所であり、短所でもある」と評する。更新の都度、アプリの検証作業が発生するが、セキュリティ向上などのメリットが得られるからだ。イオンは年に2回のアップデートを実施し、常に最新版を使う方針を固めた。

 WaaSは従来のWindows Updateと似ているが、アップデートの対象が広くデータ規模が大きい点が異なる。ファイルサイズはギガバイト単位になる。イオンにはファイルダウンロード時に回線容量が足りなくなる拠点もあった。結局、PCが100台以上ある大規模店舗・事業所にアップデート配布サーバーを置くことにした。

 アップデート中の数時間にわたってPCが使えないのも悩みの種だ。店舗で営業時間内の数時間にわたりPCが使えないと業務への影響が大きい。そこで閉店後の帰宅前にアップデートを実施するよう呼びかける方針だ。

 7から10への移行時に考慮すべき点は多い。イオンの場合、イオンアイビスが管轄するPC約4万8000台分の作業はめどが付いた。だが、イオングループは約300社に及ぶ。コンビニエンスストアのミニストップなどは管轄外だ。「グループ全体にはまだ情報が行き渡っていない」(石井部長)。今後、グループ内で勉強会を開くなど情報共有を進めるという。

東急ハンズはChromebookへ移行

 Windows以外の選択肢に着目する企業もある。東急ハンズのCIO(最高情報責任者)である長谷川秀樹執行役員は、「Windows 7のサポート終了までにChromebookへの置き換えを進める」と宣言する。約1750台の9割程度を米グーグルのChrome OSを搭載したChromebookに置き換える方針だ。

 長谷川執行役員は2011年ごろから「OSフリー」を基本方針として社内業務システムの刷新を進めてきた。Webブラウザーで動作するパッケージソフトを積極的に採用。独自開発する場合でも、Web標準への準拠を徹底し、IEやChromeなどのブラウザーさえあればシステムを使える環境を地道に作ってきた。

 IEでしか動作しない「経費精算システム」が最後に残ったが、2018年3月までに刷新するめどが立った。もはやOSにこだわる必要はなくなった。

 Chromebookを選択する理由は「安いから」(長谷川執行役員)。同社の要件に合うWindows 10搭載のノートPCは10万円台前半なのに対し、Chromebookならその半額ほどで済む。

 ChromebookはWindows PCに比べ実績に乏しい。メーカーが撤退する可能性もある。その際にOSフリーの方針が効いてくる。仮にChromebookが廃れた場合でも、「壊れ次第Windows PCに買い換えればいい。壊れるまでの期間の費用が安く済むのだから十分に意義はある」(同)。

 Chromebookの導入には、「脱Microsoft Office」が前提になる。東急ハンズは全社でグーグルのオフィス向けクラウドサービス「G Suite」を利用。Gmailや表計算、ワープロなどを含む。従業員はブラウザー上のG Suiteアプリを使うのに慣れている。

 ただし、法人営業部門や金融機関など外部とのやり取りがある部署はChromebook導入の対象外とし、Windows 10とOfficeを利用する方針だ。「取引先から受信した特殊なExcelファイルを編集して送り返すようなやり取りはG Suiteでは難しい」(長谷川執行役員)。Officeは東急グループのボリュームライセンスを活用し、最安値水準で調達できるという。

 一方で、店舗では「脱PC」を図る。売り場のスタッフは在庫確認などの業務端末として米アップルのiPod TouchやiPhoneを使っている。これ以外に、大型店では売り場裏のオフィススペースにPCが20~30台あり、売り上げ確認や事務処理に使う。「PCを使わず業務をiPhoneで完結させるスタッフが徐々に増えてきた。店舗ではWindows PCやChromebookそのものを減らしたい」(同)

写真 東急ハンズが使っているWebブラウザーベースの「G Suite」の表計算ツール
画像提供:東急ハンズ
写真 東急ハンズが使っているWebブラウザーベースの「G Suite」の表計算ツール
[画像のクリックで拡大表示]

Windowsとの併用を選択

 ただし東急ハンズのような企業は少数派である。エレベーター・エスカレーター大手のフジテックは既にChromebookを約140台導入している。にもかかわらず、CIOである友岡賢二常務執行役員情報システム部長は「Chromebookはあくまでサブ機の位置づけ。全面導入は考えていない」と話す。社内のPC約3000台は7搭載機から10搭載機に移行する計画だ。

 フジテックの場合、受発注などの基幹業務システムにはWindows用に独自開発したアプリが多い。設計用のCAD(コンピュータによる設計)ソフトもWindowsで動作する。財務や人事などの間接部門ではExcelマクロを多用している。これらの理由から、Windows以外への移行は現実的ではないという。

 ChromebookはWindows PCで動作するCADの図面をリモートデスクトップで呼び出す用途などで使う。サブノートとしてWindows PCを購入する場合に比べてコストを抑えられるものの、CADの重い処理をこなすうえで、親機のWindows PCを無くすわけにはいかない。

 友岡部長はアプリの検証以上に、予算確保と財務への影響に頭を悩ませている。「OSを新しくしたからといって売上高が増えるわけではなく、純粋なコスト増になる。損益への影響を抑えられるタイミングでうまく置き換えるしかない」(友岡部長)。

 フジテックはPCの大半を資産ではなく費用として計上する方針だ。1台10万円とすると、3000台で3億円の利益圧迫要因になる。2020年1月のサポート切れまでの3年間で分散して置き換えることを基本方針としつつ、損益に余裕がある場合は前倒しも検討している。

写真 フジテックの担当者とChromebookを利用する様子(右下)
サブ機としてChromebookが定着(写真提供:フジテック(右))
写真 フジテックの担当者とChromebookを利用する様子(右下)
[画像のクリックで拡大表示]

 Windows 10への移行では、アプリの互換性検証、WaaSへの対応、予算・財務など考慮すべき点が多い。企業の置かれた状況によって対応の内容は千差万別だが、早めに検討を始めるべきという点は共通する。