ネットの利用端末がPCからスマートフォン(スマホ)へと移りつつある。消費者向けに製品やサービスを提供している企業では、Webサイトのスマホ対応が急務となっている。見栄えの調整にとどまらない、収益を生む正しい最適化を解説する。

 スマートフォン(スマホ)の普及は成熟期を迎えつつある。これまでPC向けのWebサイトをデジタルマーケティングの主な舞台と考えていた企業でも、スマホを重要な収益機会として位置付け直し、Webサイトの「スマホ最適化」「スマホ対応」を検討する動きが出てきた。

 これまでは、スマホ最適化をプロジェクトとして捉えたときに、「収益機会」ではなく「コスト」と見るケースが多かった。こうした姿勢の背景には「スマホはあくまでもPCの補完として使われる」という前提がある。この場合は、既存のPC向けサイトをベースに制作・運用のコストを下げて対応できるようにすることが成功の要件だ。しかしそれでは、スマホは収益機会増大のツールにはならない。

 同じ情報端末ではあるものの、実はスマホとPCでは使われ方が全く異なる。収益機会を増やすには、ユーザー(顧客)が、どんなシーンで何を目的にスマホを使っているのかに注目する必要がある。単にサイトの見栄えを整えてユーザーインタフェースを変えるにとどまらず、ユーザーの行動を考えて、サイトやサービスの在り方を再設計するのが本当の「最適化」だ。

 この連載では、顧客の行動がどう変わっているかについて、マーケティング視点で解説する。今回は、スマホの普及状況を確認し、第2回以降で紹介する事例の概要を紹介する。

ネット利用の主役はスマホ

 スマホはどれくらい普及しているのか。総務省が公開した「平成26年版情報通信白書」における「情報通信端末の世帯保有率の推移」によると、2010年に9.7%だったスマホの世帯保有率が2013年には62.6%にまで伸びている。同白書による「インターネット利用端末の種類」でも、スマホは自宅PCに迫る利用率だ(図1)。

図1 インターネット利用端末の種類
スマートフォンがネット利用の主流に
図1 インターネット利用端末の種類
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 消費者分析のニールセンが公開したデータでは、PCのネット利用者が緩やかに減少してきたのに対し、スマホは1年半ほどでおよそ1.6倍になっている(図2)。インターネット接続に使われる端末は近い将来スマホがメインになる、あるいは既になっている、といえる。

図2 PCとスマートフォンからのインターネット利用者数の推移
スマホのネット利用、約1年半で6割増
図2 PCとスマートフォンからのインターネット利用者数の推移
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 スマホが短い期間でここまで普及したのには、大きく二つの理由がある。一つは端末スペックの向上。PCに引けを取らない豊富な機能を搭載し、情報閲覧に不足のない画面サイズ・解像度になった。

 もう一つは通信環境の改善だ。移動通信の高速化や無線LAN(Wi-Fi)環境の整備により、精細な画像や動画などサイズの大きなデータをストレスなく送受信できるようになった。

 この二つの要因により、スマホはいつでもどこでも使えるようになった。まさに、PCの語義である「PersonalComputer」になったわけだ。スマホは、従来型の携帯電話(フィーチャーフォン)が進化したというよりも、従来のPCが進化したと考えた方が分かりやすいだろう。

「ながら利用」率が圧倒的に高い

 スマホの普及で人々の行動が最も変わった点は、インターネットの「ながら利用」が増えたことにある。図3は「ながら利用」が増えた裏付けとなるデータの一つ。テレビを見ながらほかの機器、媒体を同時に使うユーザーの割合を示したものだ。

図3 テレビと他機器・印刷物の並行利用率(平日)
モバイル端末は「ながら利用」が多い
図3 テレビと他機器・印刷物の並行利用率(平日)
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図4 スマートフォン・フィーチャーフォンでのサービス利用率
各種サービスはスマートフォンで使われる
図4 スマートフォン・フィーチャーフォンでのサービス利用率
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 さらに図4から、同じモバイル端末でも従来型の携帯電話よりスマホの方がインターネット利用との親和性が高いことが分かる。スマホは、買い物やエンターテインメント、読書、コミュニケーションなど、日々の生活におけるあらゆるシーンで使われている。マーケティングの視点では、ユーザーのライフスタイルへの浸透度が高い点は非常に重要だ。

 ここまで紹介したグラフを見て分かる通り、スマホはインターネット利用手段の主流になっている。そこには、スマホに触れるシーンや操作中の心理など、ユーザーの新しい行動特性があり、大きな市場が広がっていると考えるべきだ。

 冒頭で述べたように、これまでの「モバイル最適化」の多くは、「画面サイズ」「文字サイズ」「タップとクリックの違い」など、PCとの端末環境の違いに重点を置いていた。どちらかというと技術寄りの情報にフォーカスする傾向があった。そうした端末上の制約やユーザーインタフェースへの配慮も必要ではあるが、それだけではやや視野が狭いと言わざるを得ない。

顧客行動に注目して方針を練る

 今回の記事ではそうした細かなTIPSレベルの話題ではなく、スマホユーザーの行動に注目する。その行動が、マーケティング上はどういった役割を担っているのかについて、事例を基に解説する。詳細は第2回以降で紹介するが、概要は次の通りだ。

事例1 保険会社のサイト再定義

 ある大手保険会社は、これまでスマホ向けサイトをPC向けサイトの簡易版とみなし、商品の説明に特化したコンテンツを提供していた。しかし、ユーザーの行動を観察する調査を実施したところ、PC向けサイトとスマホ向けサイトでは、訪問してくるユーザーのタイミングや動機が全く異なることが分かった。

 保険会社の場合、一般的には大手だと認知や興味喚起に占めるテレビCMの割合が依然として大きい。保険加入を検討し始めたユーザーは、テレビCMを見たすぐ後に、保険についてスマホで検索する傾向にあった。ところが、この段階のユーザーは、目的とする保険種別や商品について具体的なイメージを持っておらず、他社と比較したいとも思っていない。

 一方、この大手保険会社のスマホ向けサイトは、「商品を選択させる」ことからコミュニケーションが始まる作りになっていた。調査では、ユーザーはどこを見てよいか分からず、サイトを訪問した後すぐに閲覧をやめてしまうという行動が観察された。

 この結果を踏まえて、この大手保険会社はスマホ向けサイトの役割を再定義。テレビCMを見た後のユーザーの心理を考えて、「保険選びについての知識や保険の判断軸といった情報を提供することで、保険に対する興味を高めて見込み顧客にする」という方針を立てた。

 ユーザーはスマホとPCを併用することが多いため、PCサイトの役割も見直した。本格的に保険加入を検討し始めて比較段階になったユーザー対して、自社の優位点を説明するコンテンツを提供することにした。PC向けサイトとスマホ向けサイトを別のものとして、内容を考え直したわけだ。

事例2 「ゼクシィ」のマーケティング戦略

 リクルートマーケティングパートナーズが提供する結婚情報誌「ゼクシィ」は、結婚を控える女性における認知度が圧倒的に高い。「結婚が決まったらまずゼクシィを購入」という確固たる顧客想起を築いていた。

 ところがリクルートマーケティングパートナーズが調査したところ、紙媒体への接触率が高い割には雑誌購入後の式場予約などのアクションにうまく誘導できていないことが分かったという。誘導の役割を担うはずのWebサイトへのユーザー接触が弱く、ビジネスチャンスを逃している点が問題として明らかになった。

 花嫁が結婚式を迎えるまでの行動を調べたところ、ゼクシィのWebサイトに明確な不満要素があったわけではなく、スマホによりユーザーの行動が変化したことで、Webサイトが使われにくくなっていることが分かった。

 ユーザーは、日常生活の中で様々な情報に触れる。通勤途中の電車内、友人との会話中、ニュースサイト閲覧中に目に入った広告などだ。そのつどスマホを通じて情報を検索し、初めは意識せずに訪問したサイトであっても、そのままの流れで購入したり、予約したりしていることが明らかになった。

 こうした行動は、特に結婚準備の初期段階で顕著だった。ゼクシィ側は、この段階における花嫁との接触時間を拡大することが重要と考え、デジタルマーケティングとしてスマホに集中する決断をした。紙媒体と連携し、スマホのアプリ上で結婚準備時期に応じた記事をタイムライン形式で提供するなど、具体的な施策を進めることにした。

 この二つの事例を、マーケティング上のスマホの役割に照らして考えてみよう。インターネットにおける顧客の購買プロセスを記述するモデルの一つとして、「AISAS」がある(図5)。Aは「注目」、Iは「興味」、Sは「検索」、Aは「行動」、最後のSは「共有」を示す。

図5 AISASモデル
インターネットにおける顧客の購買プロセスを記述するモデル
図5 AISASモデル
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 この中で、PCサイトが該当するのは主に「SAS」(検索・行動・共有)の部分であるといわれる。興味を持ったユーザーがPCで検索し、比較・検討した結果、購買や申し込みといったアクションにつながる。

 このときのユーザーは、「望む情報が欲しい」と考えていることが多い。そのため企業側はWebサイトの設計として、「ユーザーが求めるものを最短で」提供することを重視する傾向にある。スマートフォンの利用が増えた現在でも、変わらない原則だ。

購買行動の全域にスマホが影響

 スマホでも同様な傾向がある。さらにFacebookやLINEといったソーシャルメディアで拡散する傾向もある。スマホで新しいのは、その前の「AI」(注目・興味)にも関与している点だ。ゼクシィで取り上げた行動のように、「具体的に見たい情報や欲しい商品があるわけではないが、つい何となくWebサイトを見てしまった」という、動機やニーズが不明確なままインターネットを利用するケースがスマホでは増えている。

 PCでもそうした「何となくWebサイトをさまよう」使い方はもちろんある。しかし、PCはノート型であってもある程度、使う場所が限られてしまう。一方スマホは、肌身離さず持ち歩いて、すぐに使える。ユーザーの生活の中で、より広い時間帯で使われるのは間違いなくスマホだ。

 こうした使われ方の違いを考えると、PCよりもスマホの方が、AISASの全ての段階により強い影響を与えるデバイスだと言ってよい。スマホの使われ方によるマーケティング上のインパクトを別の言い方で整理すると以下のようになる。

  • スマホが注目・興味を喚起できるメディアになったことで、「見込み顧客化」(プレセールス)を目的とした活動の幅が増えた(事例1
  • スマホにより、一度接触した顧客の「再購買プロセス」における興味・関心にも関与できるようになり、顧客維持・LTV(顧客生涯価値)向上(ポストセールス)を目的とした活動の幅が増えた(事例2

 スマホ向けWebサイトをPC向けと同じ構成にしたり、マーケティング方針を変更しなかったりすると、ビジネスチャンスを逃す恐れがあることに気付くだろうか。スマホ最適化を、単に別メディアにおける画面最適化と考えていたら、コストしか議論できなくなってしまう。

 スマホ最適化はコストではなく、新しいマーケティングの機会の一つ。利益獲得の挑戦として位置付けることが重要だ。特に自社が以下の状況になっていると認識しているなら、スマホ最適化への注力により、新しいビジネス創出の機会が得られるだろう。

 例えば、PC向けサイトの改善、PDCAを続けているが大きなブレイクスルーが起こらない、リスティングや広告の改善をしているがCPA(Cost Per Action)が下げ止まってしまった、取りあえずスマホサイトを作ったものの成果に貢献していない、などだ。

 第2回以降は、先ほど整理した「プレセールス」「ポストセールス」について、実際の事例を解説しながらスマホ最適化のポイントを紹介する。

宮坂 祐(みやさか・ゆう) 氏
ビービット エグゼクティブマネージャ/エバンジェリスト
一橋大学法学部を卒業後、2002年にビービット入社。金融、通信、電機メーカーなどの大手企業・ネット先進企業のWebサイト改善・再構築に関するコンサルティングプロジェクトを多数手がけた。累計1000人を超えるユーザー行動観察調査の経験を基に、オムニチャネルなどをテーマにした講演も多く実施している。