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新手法が定着しそうにない、とは

 現状の課題を解決するため、新しい問題解決の方法論や新しい仕事のやり方、新技術といった「新しい手法」を導入する際は、いかにスムーズに導入し、定着させるかをしっかり考える必要がある。

 新しい手法は、導入する組織に経験やノウハウがないのが当たり前。このため途中で挫折したり定着できなかったりして失敗プロジェクトに陥るリスクが高い。

 新しい手法を導入する局面において「スムーズに導入するための工夫や定着させるための工夫が考慮されていない状態」を「新しい手法が定着しそうにない」と筆者は表現している。

 例えば、ある食品小売会社が高齢者向けに買い物配送サービスを始めるにあたり、購買履歴をビックデータ分析して顧客に合った商品をリコメンドする新サービスで、売り上げ増や顧客数の拡大を狙っていたとしよう。

 部下がサービス開発に当たり「データ分析を専門家に丸投げする」提案をしたとすれば、上司は失望するだろう。導入や定着がスムーズにいかない可能性が高く、しかも部下がその点に気づいていないからだ。

 「丸投げ」と「外部知見の有効活用」は違う。どうすればノウハウのない状態から、外部の知見を社内に広め、新手法をスムーズに導入し、社内に定着させ、長く運用できるようにするか。その工夫を考えないと、プロジェクトは失敗へと突き進むことになる。

新手法導入・定着分析シートを使う

 新しい手法を導入する際には、その手法はどのようなものか、どの仕事に適用できるのか、誰が作り保守するのか、困ったときに誰に相談するのか、の4つの視点から検討する必要がある。その際に「新手法導入・定着分析シート」を使うと検討漏れを減らせる。

表 新手法導入・定着分析シート
大事なのは「誰が作って、保守するのか」
表 新手法導入・定着分析シート
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 新しい手法を導入する場合、当初は社内に知見やノウハウがなく、導入がスムーズに進まないリスクがある。対策として外部の専門家を活用する、社内の要員を社外に出向させて専門知識を得るなどの工夫が必要になる。

 新しい手法がどのような業務に有効かを簡単に判断できるようにすることも必要だ。業務部門全員が新しい手法を理解できなくても、テンプレートやアンケートで適用の可否を簡単に判断できれば、検討の時間を短縮できる。

 先の4つの中で特に大事なのは「誰が作って保守するか」である。変更頻度が多い/少ないなどの違いに応じて、開発・保守の担い手を業務部門にするか、システム部門にするかを判断する必要がある。さらに導入した手法を定着させるにはサポートデスクの設置などの工夫も重要である。これら4項目を検討することで新手法の導入と定着を図れる可能性が高くなる。

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 「岸井、岩田室長が新しい手法が定着しそうにないと言ったのはこういうことだ。室長はかつて行内のEUC、つまりエンドユーザーコンピューティングの推進責任者だった。EUCは業務部門のデータ活用に貢献した一方で、長期にわたり保守することができない問題を生んだ。だからRPAの維持や定着の手段をしっかり考えない君に不満だったんだ」

 「組織の問題を解決するための新しい手法については、いかに導入と維持をスムーズに進めるか、組織にいかに定着させるかを徹底的に考えることが大事なのですね。その方法で考えます」

 岸井は西部課長の助言を基に企画書を作成し、RPAの導入計画を考えた上で1カ月後に岩田室長に説明した。

図 岸井氏が説明に使った資料
図 岸井氏が説明に使った資料
スムーズに導入・定着させる手段を徹底的に考える
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 岩田室長は「これなら当行にRPAのノウハウが残り、スピードを持って開発・保守ができそう。保守できなくなるリスクへの対策も考慮されている。これで進めてみましょう」と言った。

 岸井はRPA対象業務の選定方法や業務部門への業務洗い出し交渉、システム部によるRPAサポート体制の整備、社内ルールや管理基準の作成を進めた上で、RPAを全社に導入し、実際にロボットを稼働させた。

 A行はその後、単純業務から開放された行員を企画型業務の担い手として育成。新企画の創出に成果を出したという。

芦屋 広太(あしや・こうた)氏
教育評論家
SEを経て、現在は企業の情報システム部門でシステム企画・プロジェクト管理を担当。システム開発や問題プロジェクト・組織の改善、システム統合などの経験で培ったヒューマン・スキルを生かしたIT人材教育を行う。雑誌の連載、著書など多数。