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資金や人的資源を提供して起業家を支援する投資家たち。流行や技術に敏感な彼らの動きは業界の先行きを示す指標にもなる。2015年ごろから活発になったVR/AR分野への投資から2018年の動向を読む。

 本連載ではVR(仮想現実)やAR(拡張現実)分野の技術やサービスを開発する企業の動向を追ってきた。年末の今回は企業を裏で支える投資家の動きを紹介することで、業界全体の今後を展望する。投資家は産業の将来を想像しながら投資するので、彼らが注目し投資している領域を追うことは有望な産業を知るヒントになる。

 今回紹介するのは未公開企業であるスタートアップに投資する専業の投資会社、一般にベンチャーキャピタル(VC)と呼ばれる投資家だ。VCは大きく2つに分類できる。1つは機関投資家からお金を集めて投資をするVC。米グーグルや米フェイスブックの創業期を支えたセコイア・キャピタルやアクセル・パートナーズといったVCの名前を聞いたことがある読者もいるかもしれない。

 もう1つは事業会社が設立するコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)だ。外部の知見や技術を取り入れるオープンイノベーションの流行もあり、CVCを設立する企業が相次いでいる。事業提携の仲介やマーケティングの支援など資金面にとどまらないサポートをスタートアップに提供するため、戦略的投資家(Strategic Investors)とも呼ばれる。

2015年に起きたVR/AR投資の波

 直近3年間を見ると、VR/AR関連のスタートアップへの投資には大きく3つの波があった。第一の波が起きたのは2015年初めごろ。VR用ヘッド・マウント・ディスプレー(HMD)を取り巻く動きが活発になった時期だ。フェイスブックが米オキュラスVRを買収したのは2014年3月。ソニー・インタラクティブエンタテインメントがVR用ヘッド・マウント・ディスプレー(HMD)の「PlayStationVR」を最初に発表したのも同じ2014年3月。1年後の2015年3月には台湾HTCと米バルブが共同開発したHMDの「Vive」を発表している。

 第一の波に乗って米インテルや米クアルコムといった半導体メーカーの投資部門が、VR/AR分野のハードウエアスタートアップへ積極的に投資を始めた。インテルはARグラスの先駆け的存在である米ビュージックスに投資したほか、ARグラスを製造するカナダのレコン・インストラメンツを買収した。クアルコムは同社のCVCであるクアルコム・ベンチャーズを通じて不動産業界で3Dキャプチャを行う米マターポートに出資し、2014年10月には米マジックリープにも出資している。グーグルのCVCであるグーグル・ベンチャーズ(現在はGVに名称を変更)も2014年半ばから、360度動画の先駆けである米ジョーントや、VR空間にソーシャルネットワークを作る米オルトスペースVR(2017年10月に米マイクロソフトが買収)といったスタートアップに相次いで投資している。

 IT企業のほかにVR/AR領域に積極投資しているのが米コムキャストだ。ケーブルテレビから事業を始め、2009年にはメディア大手の米NBCユニバーサルを買収。現在は地上波テレビ局、映画製作、テーマパークも抱える巨大メディア企業に成長した。

 コムキャストの興味はハードウエアではなくコンテンツにある。CVCのコムキャスト・ベンチャーズを通じて、グーグル・ベンチャーズも投資した米オルトスペースVR、360度動画でスポーツ映像を配信するネクストVR、VRアニメーション制作の米バオバブ・スタジオ、360度動画コンテンツ制作を手掛けるカナダのフェリックス&ポール・スタジオ、テーマパーク向けのVRアトラクションを開発する米スペースズなどに出資している。

VR/AR領域の投資金額
(出所:米Digi-Capital)
VR/AR領域の投資金額
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VR/AR領域の投資件数が多い投資家
(出所:米CBInsights)
VR/AR領域の投資件数が多い投資家
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投資額トップ3は「アクセラレータ」

 2015年に起きた第一の波では「アクセラレータ」と呼ばれるVCの活動も目立っていた。アクセラレータとはスタートアップの中でも創業間もない段階の企業に絞って投資するVCである。Y Combinatorや500 Startupsといった名前を聞いたことがある読者もいるのではないか。3~6カ月の起業支援プログラムを通じて、資金提供に加えて顧客や優秀な人材の紹介、他の投資家との橋渡しなどを支援する。

 直近5年間でVR/ARスタートアップに投資した金額が多いベストスリーの投資家は全てアクセラレータである。トップはサンフランシスコを本拠とするローゼンバーグ・ベンチャーズ。同社はシードステージ(会社設立前の準備期間)にあるスタートアップに焦点を当てたVCだ。

 CVC以外の投資家がVR/AR分野にほとんど目を付けていなかった2014年末、同分野に特化した世界初のアクセラレータプログラム「River Accelerator」を発表した。毎年10~15社のVR/ARスタートアップを受け入れており、これまでに30社以上が「卒業」している。

 同プログラムの第1回目に参加した13社の中に日本発の企業がある。元グリーの小島由香氏が社長を務めるFOVEである。独自のアイトラッキング技術を基にVR用HMDを開発。River Accelerator卒業後は韓国サムスン電子や、2016年にシャープを買収した台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業などから出資を受けた。River Acceleratorに参加していなければ、ここまでの世界的な存在感は出せなかったのではないだろうか。

 投資額第2位はシリコンバレーを拠点とするアクセラレータのブーストVCだ。ローゼンバーグ・ベンチャーズの成功を見てか、同社は2015年後半からVR/AR分野の投資に集中するようになった。

 筆者が最も注目すべきと考えるのは第3位のVive Xだ。Vive Xは世界的なVR用HMDメーカーのHTCが2016年4月に立ち上げたアクセラレータである。

 HTCにとっては次世代の有望な技術やコンテンツの発掘、参加するスタートアップにとっては資金集めのほか事業提携の機会作りとそれぞれにメリットがある。全世界5都市(2017年11月時点)で展開するVive Xのプログラムは現在、最も勢いのあるVR/ARアクセラレータと言えるだろう。

ローゼンバーグ・ベンチャーズが運営するアクセラレータプログラム「River Accelerator」の様子
(出所:ローゼンバーグ・ベンチャーズ)
ローゼンバーグ・ベンチャーズが運営するアクセラレータプログラム「River Accelerator」の様子
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VR/AR特化のVCが増加

 設立当初からVR/AR分野に特化したVCが数多く登場したのも第一の波の特徴である。世界で初めてVR/ARに特化したVCとして2015年末に発足したプレゼンス・キャピタル(Presence Capital)、前述のRiver Acceleratorの責任者が独立して立ち上げたザ・べンチャー・リアリティ・ファンド(The Venture Reality Fund)などだ。ともにシリコンバレーを本拠とする。

 日本勢も負けてはいない。モバイルゲーム会社であるコロプラが2015年12月に設立したColopl VR Fundはファンドサイズ(投資可能な金額)が総額100億円に上る。VR/AR特化型のVCとしてはおそらく世界最大規模だろう。筆者が所属するGREE VR Capitalが運営するGVR Fundも、グリーを中心にミクシィやコロプラ、ヤフーなどが出資するVR/AR特化型VCである。モバイルゲームで成長し2014年12月に上場したgumiは、前述したザ・べンチャー・リアリティ・ファンドにファンド運営責任者として参加している。

 コロプラ、gumi、グリー。VR/AR特化型VCを立ち上げた日本企業3社に共通するのはモバイルゲームで成長した会社という点だ。いずれもPCからモバイルへの変化を捉えて事業を展開してきた。各社がVR/AR特化のVCを立ち上げるのは、モバイルに続くプラットフォームとみなしていることの表れと言える。

大手VCもこぞって参入

 VR/AR関連のスタートアップ投資に第二の波が起きたのは2016年末から2017年春にかけてのことだ。シリコンバレーを代表する大手VCが相次いでVR/AR領域に投資し始めた。2016年は主要なHMDが市場に出そろった年であり、大手VCは投資の下地が整ったと考えたのだろう。

 例えばセコイア・キャピタルは2017年2月にハイエンドHMD向けのソーシャルゲーム「Rec Room(レクリエーションルームの略)」を開発・運営するアゲインスト・グラビティへ投資した。Rec RoomはVR空間内で友人や初めて会ったメンバーとチームを組み、ドッジボールやペイントガンで遊べる。同社は米シアトルを本拠にする2016年設立のスタートアップだ。創業メンバーはマイクロソフトでARグラス「HoloLens」向けコンテンツを開発していた。アゲインスト・グラビティがRec Roomの開発に充てた期間は3カ月。筆者もRec Roomを体験してみたが、3カ月で作り上げたとは思えない完成度だった。同社はセコイアを含む複数社から合計580万ドル(約6億5000万円)を調達。現在はRec Roomの改善に取り組んでいる。

アゲインスト・グラビティが提供する「Rec Room」
(出所:アゲインスト・グラビティ)
アゲインスト・グラビティが提供する「Rec Room」
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 シリコンバレーを代表するVCの1つであるアンドリーセン・ホロウィッツも2017年2月に、カリフォルニア州バークレーを本拠とするビッグスクリーンVRに投資した。同社が開発したソフトを使えば、通常のPC画面に投影した映画やゲームをVR上で友人などと共有し、会話を楽しんだり一緒に遊んだりできる。同社は2017年10月にも追加で資金調達を実施。累計の調達額は1400万ドル(約16億円)に達した。今後は企業向けに軸足を移し、遠く離れた場所で働くチームの共同作業に役立つツールを開発する予定だ。

ビッグスクリーンVRが提供するコンテンツ共有ソフト
(出所:ビッグスクリーンVR)
ビッグスクリーンVRが提供するコンテンツ共有ソフト
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ARへと転じた第三の波

 2017年末の現在は第三の波のまっただ中にある。投資の焦点はARだ。世界の投資家はVRからARへの投資へと舵を切り始め、AR領域に特化した新たなアクセラレータやVCが現れつつある。

 第三の波を起こすきっかけとなったのが、アップルやグーグルといった大手IT企業のモバイルARへの取り組みだ。アップルは2017年6月にAR向けコンテンツの開発環境「ARKit」を発表。グーグルも8月末に「ARCore」を発表した。アップルのARKitがiPhone向け、ARCoreはAndroid端末向けだ。グーグルは3Dセンサーなどのハードと専用ソフトから成るAR向け基盤システム「Project Tango(現在の名称はTango)」を推進していたが、アップルのARKit発表後にアプローチを大きく変更。ソフトだけでスマホにAR機能を加える方針に切り替えた。

 ARに特化したアクセラレータプログラムを初めて開始したのが米ベータワークス(betaworks)だ。同社は2017年9月、ARスタートアップを対象にしたアクセラレータプログラム「ビジョンキャンプ(visioncamp)」を始めると発表した。2018年1月にニューヨークで始まる11週間のプログラムで、6~10社を選定。1社につき20万ドル(約2200万円)を出資するほか、起業経験者らが助言する。

 同じく2017年9月にはシリコンバレーの著名VCシャスタ・ベンチャーズ(Shasta Ventures)が、AR分野のスタートアップに投資するShasta Camera Fundを設立すると発表した。シャスタ・ベンチャーズはグーグルに32億ドル(約3600億円)で買収されたスマート温度計のNest Labsなど、IoT(インターネット・オブ・シングズ)関連企業への投資で知られる。AR分野では創業間もない段階の企業を対象に、1社当たり10万ドル(約1100万円)投じ、20~30社に出資するという。

 日本からはモバイルゲームを主力事業とするアカツキが2017年10月、エンターテインメント用途のARスタートアップを中心に投資する5000万ドル(約56億円)規模のファンドを設立すると発表した。子会社を米ロサンゼルスに設立し、現地のスタートアップを発掘する。

 シンガポールの調査会社カナリスが11月末に発表した市場調査によれば、2017年第3四半期(7~9月)にハイエンドHMDの出荷台数が初めて100万台を超えた。第10回でも取り上げた各社の値下げが寄与したとみられる。

2017年第3四半期のハイエンドHMD出荷台数
(出所:米カナリス)
2017年第3四半期のハイエンドHMD出荷台数
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 投資家のVR/AR領域への関心はまだまだ高い。筆者自身はモバイルARとスタンドアローンHMDに大きく期待している。2018年はVR/AR業界にとってどんな年になるか、今から興味が尽きない。

 13回にわたってシリコンバレーのVR/ARの動向を紹介してきた本連載は、今回が最終回だ。激しい動きのさなかにある業界の話題を通じて、VR/ARに興味を持っていただければ幸いである。

筒井 鉄平(つつい・てっぺい)氏
米GREE VR Capital CEO(最高経営責任者)
モルガン・スタンレー証券や三菱商事を経て2011年7月にグリーに入社。米オープンフェイントやポケラボの買収を含め、財務・M&A実務責任者として数多くの買収・戦略投資を実施。2014年11月からは北米で主に非ゲーム領域における戦略投資をリード。2016年4月にGREE VR Capitalを米国で組成し、最高経営責任者に就任(現職)。